戦虚空に転生したJK、聖女だからと武将たちに囲われそうになってますが?

 聖女の力を過信しすぎたのだろうか。
 別の倒し方を考えなくてはいけない。そう脳は信号を出しているが、どうも頭が働かない。
 なんとかこちらに襲ってくるあやかしは体が勝手に動くので倒せている。だが、浄化は躊躇ってしまう。またあの大きなあやかしに吸われて、いよいよ手がつけられなくなっては困る。

「落ち着け。こちらには闇属性以外が味方なんだぞ? 誰かしらの攻撃でどうにかなるはずだ」

 ひどい顔をしていたのか、石口に背中を軽く叩かれ我に返る。

「そう……そうですよね! すみません、取り乱しました」

 雨は相変わらず容赦無く無差別に降ってくる。
 ……そういえば、骸骨は岩槍で貫いていた。石口の言う通り、浄化以外の攻撃であれば通用するかもしれない。

「聖女の力と光属性って別物なんですかね?」
「それは知らんな。光属性以外の聖女は見たことがないし、逆もまた然りだ」
「ですよねぇ。治療に専念した方がいいのかな……」

 力の尽きたあやかしを見つめる。大きなあやかしは倒れたあやかしを吸収しようとしていない。
 もしかすると、逆に闇属性を受け付けなくなったと解釈してもいいのだろうか。

「光と闇は表裏一体……それなら私が闇属性を使えればいけたり?」
「やめておけ。過去、聖女が闇に呑まれた話がある。迂闊に手を出すべきものではない」
「でも、これじゃあ私お荷物――!」

 私が食い下がったからか、石口は腰に刺していたもう一本の刀を私に握らせた。

「貸すだけだ。あやかしを倒すくらいはできるだろ」

 私には少し長い刀身。綺麗ではあるが、使い込まれているのだろう所々の傷。
 柄はおとねに練習用だと借りた刀とは握り心地も違う。石口の癖がついているのだろう。
 
「刀の振り方も知らない私に、預けちゃっても良いんですか?」
「構わん。隣でずっと騒がれているより良い」
「ありがとうございます!」

 本当に少しだけ触っただけだが、なんとかしよう。
 少し重たい刀を握りしめ、私はあやかしを斬り倒していく。
 その時に黒い霧を思いっきり浴びてしまい、なぜかふと頭に浮かび上がる。

「あの、石口様の刀で大きなあやかし、斬ってみても良いですか」
「それは構わないが……なんだ突然」
「天啓って言うんですかね? そんなやつです」

 不思議そうな顔をして私を見ていた石口だったが、「近くまで護衛してやる」と了承を得られた。
 早速あやかしを倒しながら、大きなあやかしへと走る。

「行きます!」

 刀を強く握りしめ、あやかしの足に刀を振りかざした。
 すると、落雷が降り、刀からは黒い霧が溢れ出す。ぱっくりと割れた足からは勢いよく黒い霧が溢れ出し、咄嗟に手をかざし霧を吸い込んだ。
 すべて吸い込んだ頃には、あやかしは消え失せ、中にいた久遠は地面に倒れている。気絶しているのか、動かない。

「やった! 倒せ、た――ゲホッ、ゴホッ」

 黒い霧を吸いすぎたのだろうか。私はバレないように血を飲み込み口元を拭った。

「大丈夫か?」
「はい! ちょっと咽ただけですよ」
 
 咳払いをして喉の調子を整える。自分に治療術をかけたが、なんだかイマイチ効いた気がしない。
 
「闇属性を食らってもなお抗えるとは……素晴らしいですね」
「枯野、よくのこのこ現れたな」

 バチバチと刀に雷を纏わせ、石口は怒りをあらわにしている。
 その様子を見ても枯野は澄まし顔。枯野にずっと付き添っている狼のあやかしは、枯野に頭を軽く叩かれ突如として戦闘体制に入った。少しでも近づけば噛みちぎられてしまいそうだ。
 
「なんでこんなことするの!?」

 私の問いに、枯野は不思議そうな表情をしながら応える。
 
「最初は娘が名だたる武将と結婚してくれればそれでよかったんですよ」

 枯野は頭を押さえ「それなのに」と言葉を続ける。

「聖女様……貴女が来てから、何もかも狂い始めてしまいました」
「本物と騙らず、最初から娘の良いところを全面的に推せばよかったんじゃ?」
「それでは駄目なのです。闇属性はいつの時代も、災いをもたらすものだと忌避されてきました」

 父親である枯野が闇属性を持っていたため、久遠は貰い手が見つからず。そのままこの世界の婚期適齢期を逃してしまったと。
 だからこそ闇属性の力を分け与え、知る限りの聖女の特性を闇の力で偽り"白ではない聖女"として世界に知らしめた。
 やっと聖女だと認識され始めた頃に私が来て、久遠が偽物の可能性が浮上。そこから枯野はもういっそのこと自分で天下取ってしまえばいいか。という方向へと思考が進んだようだ。

「要は自分のために世界変えてやろ〜てところかぁ」
「雑にまとめたな……」
「面白い方ですね」
「まあ、話はいい。お前が私利私欲のために大勢を犠牲にした下衆でよかった」

 「遠慮なく倒せる」石口は刀を構え戦闘体制に入る。私も両手で刀を握り締めた。
 枯野が狼のあやかしに指示をしてから戦闘が始まった。
 枯野は後方で呪符や呪いで攻撃。あやかしも生み出されてしまうため、前方ではあやかしが縦横無尽に動き回り、攻撃がしにくい。

 私は刀を片手に持ち、腰につけていた扇を振り風を起こす。
 竜巻に巻き込まれたあやかしは身動きが取れず、その隙に石口が落雷を落とし瞬殺。

「さすが、伝説の男!」
「ふざけたことを言っていないで本体を叩くことに集中しろ!」

 狼のあやかしは辛うじて生きているが、あの一瞬でかなり消耗したのだろう。ふらついている。
 石口はすぐさま狼の方向へと走る。もちろん枯野が邪魔をしてくるので扇で風を巻き起こし、私は枯野の呪符をかき消す。
 
「石口様、今です!」
 
 合図に応じ、石口が狼のあやかしへと斬りかかる。雷を纏った一撃は、体を真っ二つにした。
 倒れ込む狼を背に、残されたのは枯野ただひとり。
 
「次で終わらせるっ!」
 
 私は刀を振り下ろす。だが、枯野の掌から放たれた闇が、まるで泥のように絡みついた。
 
「……! 身体が、動かない!?」
「あなたもまた闇に堕ちるがいい」
 
 押し寄せる闇を、私は咄嗟に吸い込んでいた。胸が焼ける。喉に血の味が広がる。
 だが――紋様は光を帯び、闇を飲み込んでなお輝きを失わなかった。
 その一瞬の隙を逃さず、私と石口は枯野ではなく、肥大した闇を斬った。
 光と雷が混ざったのか、閃光と共にバチバチと耳を擘くような音が響いた。
 
「バカな……闇が、消えていく……?」
 
 枯野の体から抜けていく闇。枯野の目から希望の色が失われる。
 
「私には……闇しかなかった。闇を失った私は……何者でもない」

 震える枯野は小刀を懐から取り出した。その瞬間、私は無意識にそれに手を伸ばし、刃を強く握った。
 
「死ぬのは許さない。そのまま苦しんで苦しんで――後悔すれば良い」

 小刀を遠くへと捨て、私は枯野に笑ってやる。
 これで終わったよね……?

 突然眠気が襲い、私は瞼を閉じた。