戦虚空に転生したJK、聖女だからと武将たちに囲われそうになってますが?

 無言で馬に揺られていると、石口がふと思い出したかのように口を開いた。
 
「ところで、お前の世界では馬に乗れない者が多いと言っていたな。遠出の際はどうするんだ?」

 織田の元へいく前に、石口に馬を用意してもらっていた。しかし、私が乗れませんと言った時、馬も乗れないのかと驚かれた。
 「私の世界では乗れない人ばかりですよ」と言ったので、気になっていたのだろう。
 
「別の移動手段があるんです。えっと、からくり? を使ったものです」
「ほう、からくりか……。人を乗せるとなると、なかなか高度な技術を持っているようだ」

 からくりと言っていいものかはわからないが、伝わってよかった。
 石口は私の世界で、馬があまり乗られていない理由がわかって満足したようだ。
 
「あの、ところで私達はどこに行くんでしょうか」
「これから織田へ行く。残念なことに、まだ完全に縁が切れたわけではないのだ」

 でも一応敵対関係のはずでは? と思ったものの、手を組んで一つの国を潰すこともあるらしい。結構複雑だ。
 まあ、だからこそ私は歴史が苦手なんだけど。

「ちなみに、何をしに織田へ?」
「療治所で負傷兵の治療をお前に任せる。俺はその監督みたいなものだな」

 実際に織田軍に混じって一緒に戦うわけではないらしい。
 話を聞いたところ、豆臣は聖女がうちの土地に来てくれたと見せびらかしたいのだとか。
 あんなお淑やかな美青年風な見た目なのに、意外と子供っぽいな……
 でも、頭がキレる人だからこそ、ここまでやってこれたんだよね。
 
「今のうちに聞いておきたいんですけど、織田って方はどんな人なんですか?」
「そうだな、話しておこう。名は織田 言倀《おだ げんちょう》。天下創世に最も近い男だ」

 これはきっと元は織田信長だな? 歴史が苦手な私でもこの人だけは知ってる。それだけ教科書で勉強させられる有名人だ。

「優秀な部下には褒賞を与え、そうでない者は即切り捨てる」

 しっかりと功績を見ているんだなと思うと反面、それ以外の扱いがかなり冷たいなと思った。
 もし私が織田にいて、聖女として使い物にならないと判断した場合は切られてしまうのだろうか。
 やっぱり豆臣にいるのが安泰かも知れない。うん。
 
「厳しいですね。でもそうだと少数精鋭になりませんか?」
「それなら問題ない。織田の右腕である明知 晃乃(あけち みつの)が鍛え直して上手く取り持っているんだ」

 だからこそかなり肉体的にも精神的にも、骨のある武人が揃っているのだとか。
 それだけ織田に仕えたいと思わせる何かがあるのだろうな。カリスマ、というやつだろうか。

「ほら、そろそろ着くぞ」

 気づいたときには、豆臣の城とは比べものにならないほど大きな黒い城が、目の前にそびえていた。
 豆臣が“白”なら、織田は“黒”。色も、雰囲気も、威圧感も段違いだ。
 外から見ただけなのに、もう胃が痛い。……帰っていい?

 ◇
 
 私の表情など見ていないのだろう、石口は心配することもなく、門番に聖女を連れてきたと話す。
 ちらりと私を見た門番は、門をあっさり開け頭を下げた。

「織田は寛容であるが、容赦はないぞ。失言には注意するんだな」

 ただの女子高生に無茶を言うな。そう思ったが、言えるわけもなく小さく頷く。

 織田の部下に案内され、大広間に到着。部下が声をかけ、襖を開ける。その動作は、旅館とかで見るような感じだ。石口の真似をして中へと入り、石口の隣に座る。
 石口が頭を下げれば私も下げる。これなら怒られることもないだろう。私なりの頭の使い方だ。
 ただ、緊張のせいか自分の心音がとてつもなくうるさい。

「顔を上げろ」

 声は低く、かなり凄みのある声だ。
 偉そう……いや、本当に偉いんだけど、織田が私と石口を見下ろしていた。
 顔は、イケオジと呼ばれそうな部類。口髭が生えており、教科書に載っていたあの見た目を美化して髪の毛をふさふさにした感じ。
 かっこいいおじさまは別に好みでもなんでもないが、なんかこう、グッとくるものがある。怖いけど。
 
「お前が異世界から来た聖女だな。名は?」
「華鈴、です」
「では華鈴。すぐに準備をしろ。戦場へ向かうぞ」

 それだけ言い残し、織田は部屋を出ていってしまった。
 石口は、息を吐いたあと私を見て「行くぞ」とすぐに部屋を出る。
 部屋にいた人々も素早く動き始めた。

 こっちはまだ心の準備さえできてないって言うのに、怖いおじさんに会わされ、すぐに戦場って……少しでいいから休ませてくれないかなぁ!?