戦虚空に転生したJK、聖女だからと武将たちに囲われそうになってますが?

 届いた手紙を頼りに、枯野のいるであろう場所まで馬で走り抜けた。
 そこには豆臣の皆が立っていた。周りには何体ものあやかしが転がっており、先ほどまで戦っていたことが見てわかる。

「皆さんお揃いで……」
「枯野はどうした」

 豆臣がへらりと笑う姿を無視し、すぐさま織田は枯野を探した。
 そんな織田を見て豆臣は息を吐いてから、崖の下を指差した。

「この下。ただ、結界が張ってあるからすぐに最終決戦とはいかないようだ」

 崖の下は真っ黒で、何かが蠢いているようにも見える。正直降りたくない。
 だが、ここでのんびりしていれば、それだけ相手に猶予を与えてしまうことになりかねない。

「華鈴、結界は破壊できるかな?」
「確か書物にできるとは書いてました! でも、それにはもう一人の力が必要ってありましたよ」

 詳しいことは書いていなかったが、"力を授かりし者と結界を解く"とか書いてあったはずだ。
 すると、豆臣は頷き石口の肩を軽く叩いた。
 
「じゃあ、きっと石口の出番だよ」
「は? 俺ですか?」
「貴方は華鈴にもらった紋様があるだろう? もう一人の力はきっとそのことだ」

 豆臣は、石口の手の甲を指差した。今は手甲を着けてるため見えないが、私が扇を渡そうとして石口の手に紋様が現れたのを思い出す。
 こんなところで使い道があるとは思いもしなかったな。

「じゃあ石口様、一緒に結界を壊しましょう!」
「これまで散々戦ったはずなのに、お前は元気だな……」
「皆を守りたいから、大丈夫です」

 石口はあやかしと戦っていたからか、少し疲れ気味だ。こんな感じでラスボスに行ってしまって大丈夫なのだろうか。ちょっと心配になる。

「少し休みますか?」
「いや、いい。枯野を放ったままでは気も休まらん」

 石口の様子を静かに見つめていたおとねは、私の側まで来てにこやかに笑う。
 
「あやかしを退けた後も、石口様は華鈴様のことを気にしていらしたんですよ」
「なっ!? おとね、余計なことを言うな!」
「そんなに私のことを気にして――いや、もしかして迷惑かけてないか心配だったとか……?」

 石口はその言葉を聞いて、ため息を吐いた。安堵なのか呆れなのか知らないが、険しい顔をしないでほしいもんだ。

「華鈴、石口様。あれを見てください」
 
 崖下を監視していた島はある方向を指差す。そこには結界の綻びだろうか、ひび割れが見えた。

「あそこを狙えばもしかして簡単に壊せそうですね」
「俺もそう思ったんだ。石口様に負担をかけるのは申し訳ないのですが、どうかよろしくお願いします」
「言われなくてもやる。すぐやるぞ、華鈴」
「わかりました! 皆さん、今から結界を破壊するので戦闘準備をお願いします!」

 私は皆がいる方向へと振り返り大きな声で言うと、頷いてくれる人や親指を立ててくれる人、様々な動作で応えてくれた。

「石口様、刀を握る時みたいに力を込めてくださいね」
 
 石口は渋い顔をしたが、でもその手は私と同じ方向へ伸びていた。
 甲の紋様が輝いた瞬間、結界はガラスのように砕け散った。
 
 ——これが、本当に最後だ。

 ◇

 結界を破壊してすぐに、崖下へと飛び降りていく。地面までかなり高いが、島の砂をクッションにしたため、怪我もなく全員すぐさま敵陣地へと侵入できた。
 話し合いはしていなかったが、それぞれ満遍なく散ってあやかしを斬り伏せながら前進していく。
 黒い霧が充満しているが、視界は良好。
 なんだか骸骨と戦ってから、さらに視界がクリアになった気がする。

「華鈴、お前俺に何かしたか?」

 近くで戦っていた石口が、そう言って手の甲を見せつけてきた。
 なんと、手甲をつけているにも関わらず隙間から光が漏れ出ている。
 全然気にしていなかったが、私の手の甲もピッカピカに輝いている。

「何もしてないですよ! もしかしてこれが完全体?」
「絶好の機会じゃないか。これなら枯野親子も扇で瞬殺かもしれないなぁ」

 風を操りあやかしをまとめて一掃しながら、豆臣は嬉しそうに私に微笑みかけた。
 輝きまくっている石口の手の甲が心配になったのか、島は不安げな顔で石口に問いかけた。

「石口様、体調はいかがですか?」

 正直なところ、神の力のはずなのに心配するのってどうなんだろう……
 まあ、聖女じゃない人が神の力を授かったら支障が〜ということなのかもしれない。黙っておくのが吉だ。

「かなり良い。力はもちろんだが、疲れが吹き飛んでしまった」
「よかったじゃないですか! その勢いで枯野も倒しちゃいましょう!」

 私の発言に豆臣は笑ったあと、島とおとねに目配せをしてから言った。
 
「じゃ、僕は島とおとね連れて別のところにでも行こうかな」
「わかりました!」
 
 これなら簡単に倒せそうだと楽観的に考えて走っていると、突如前方から骸骨と同じくらい大きなあやかしが現れた。
 あやかしの肩には枯野親子が立っている。

「何も考えずこの森へ入ってくれたこと、感謝いたします」

 枯野の落ち着いた声が頭に響く。枯野の隣では肩で息をしている久遠。
 それなのに労いの言葉はなく、久遠に笑顔で聞いた。

「愛する娘よ、まだいけるね?」
「はい、お父様……」
 
 久遠はあやかしの肩に呪符を何枚も貼り付けて、呪文を唱え始めた。
 だが、上手くいかないのか特に何も起こる様子はない。

「そうか、もうお前も限界か」
「そ、そんなことはありません! もう少し時間を――」
「使えないものに割く時間はないよ」

 枯野が久遠の頭に触れた瞬間、あやかしの中へと久遠が飲み込まれていく。

「お待ちくださいっ! お父様! お父様あああ!」
 
 悲痛な声をあげるが、枯野は仏頂面のまま。
 あまりの衝撃に、私は何も言葉が出なかった。久遠は悪いやつだったが、こんな結末になるなんて、思いもしなかった。

 感傷に浸る暇もなく、久遠を飲み込んだあやかしは、咆哮と共に黒い塊を撒き散らす。
 黒い塊は地面に落ちるとあやかしを産んだ。あやかし達は迷うことなく、私や石口へと駆けてくる。

「流石に扇使いますからね!」

 誰かに許可をもらうことなく私は扇を握り、あやかしの集団へと扇を振った。
 するとあやかしは吹き飛ばされ、そのまま浄化。キラキラと輝く粒子となった。
 だが、その粒子を大きなあやかしは吸い上げ、さらに大きくなる。

「あのあやかし、粒子を吸収している!?」

 石口は思わず戦いの動きを止めあやかしを見た。
 私の浄化が……敵の糧に!?

「もしかして、浄化すればするほど敵の力になってしまうの!?」
「さすが聖女様は聡明でいらっしゃる。闇と光は表裏一体。私が改良すればこの程度、造作もありません」

 勝ち誇った笑みを浮かべている枯野。
 聖女の力でなんとかなると思っていたこともあり、私は言葉を失った。