敵が多くなってきた。黒い霧も気分の悪さも増してきたし、本陣が近いのは間違い無いだろう。
そこそこ治療も使ったが、まだ足りないのか紋様の色はあまり変わっていないように見える。明知と林は、織田のように火力が上がった様子もないしまだ完全体ではないのだろう。
馬を走らせ、やっと開けた場所に出た。すると、そこにはあやかしと呪われた集団。真ん中には枯野親子が立っている。
あれ? 黒い霧がかなり充満しているのに見えるし、気持ち悪くない。
これも治療術を使っていたからだろうか。ただ、もう少し早く完全体になっていたかったな。
最終決戦っぽいし。
私達が馬から降りたところで、久遠が織田を見つめた。
「織田様! お久しゅうございます。貴方まで偽物に毒されてしまうなど、わたくしは悲しいです」
まだ言うか……と誰もが思ったのではないだろうか。
正直私もそう思う。だが、きっと久遠はその書物に嘘がかけない、書き換え不可ということを知らないのだろう。
「見てください。手の甲の紋様を。その女よりも色濃く、強力なものになりました。これまでたくさんの方を治療した結果、取り戻したのです」
舞台劇でも始まりそうなほどの久遠の大きな仕草と声に、織田軍は白けている。
「話はそれだけか?」
「……いえ、まだありますわ! わたくし、枯野家に代々伝わる神具を手に入れましたの」
神具と言いつつ掲げたそれは、久遠が豆臣の城から逃げる際に使ったものと似た呪符だった。
確か豆臣が家系によって神具の形は違うと言っていた。それなら本物か偽物か見分けはつかない。
と言っても、神具が扱えるからと他の条件をクリアしていないので聖女とは言えなさそうだが。久遠は今なら他の条件もクリアできると言いたげだった。
「なるほど、そうきたか」
織田は感心するような様子を見せたが、久遠ではなく枯野終道を見た。
「娘の茶番を放って、貴様は何を企んでおるのだ」
「微笑ましく眺めていただけですよ」
余裕な笑みを浮かべる枯野。何を考えているのか全然わからない。
そんな父親とは裏腹に久遠は顔を青くしている。
「お父様……まだ、足りないのですか?」
「もうそろそろ来るだろう。焦らなくていい」
枯野は足元に寄り添っている狼の見た目をしたあやかしを一瞥する。するとあやかしは一鳴き。
それをトリガーかのように、ぴくりとも動かなかったあやかしや人々が動き出した。
まだ豆臣と徳海が来ていないが、やるしかない。
神具で吹き飛ばしてしまおう。そう思い手をかけたが、織田に止められてしまった。
「今使わなければいつ使うんですか!?」
「あの男はまだ何か隠している。華鈴、お前は人間の呪い浄化に専念しろ」
「……わかりました。あ、でも扇じゃなくても私戦えるんで、守らなきゃとか考えなくていいですからね」
「ふっ、頼もしいな」
――そのあとは大乱闘だった。
織田は火炎放射器の如く一面を火の海へ。明知はそれを支援するように氷を生成。
林も二人の支援を主にしており、植物の触手や毒ガスで一気に敵を蹴散らしている。
そこそこあやかしも人も片付けた頃、枯野はまたあやかしに指示を出した。
その瞬間、地面が割れ大きな骸骨が現れた。
「でっか……」
「あの大きさは初めて見ましたね」
明知は興味深そうに眺め、林はそれを見て呆れ顔。ちなみに織田は黙ったまま「ほう」と言うだけ。
なんというか、織田の人皆マイペースだなぁ……
骸骨が口を開けると、地面に倒れていたあやかしが粒子となり、それが骸骨の体へと吸収されていく。
私は慌ててあやかしを浄化しようと手をかざすが、全てのあやかしを消すには気づくのが遅すぎた。
倒していたあやかし全てを吸収した頃には、骸骨のサイズは雲に頭が届きそうだった。
骸骨は咆哮をあげ、口から火の玉を発射する。
すぐに防御術を張ったおかげで被害は抑えられたが、それでも結界には入れなかった人々は吹き飛ばされてしまった。
「ふむ、この程度では聖女の防御術は破壊できないのですね」
骸骨の後ろで高みの見物をしている枯野は、顔色一つ変えずに私を見つめていた。
その隣では久遠が近くに転がっていた人に呪符を貼り、あやかしに変えてしまった。
「あれって神具じゃなくて呪具では?」
「華鈴の言うとおり呪具でしょうね。枯野は呪術師であり闇属性持ちですし」
明知は私の言葉に返しながらあやかしを狩っていく。林も遠くに毒をばら撒いたり近くの敵を触手で縛ったりしている。私の背後の敵を片付けた後、林は私を見た。
「人があやかしになってしまったのに、意外と落ち着いていますね」
「もうなったものは仕方ないと割り切ろうかと」
「ほう、精神も逞しいのだな」
織田に褒められたが、一々落ち込んでいては身が持たない。そう私は思っただけ。
それだけでなく、あやかしになったのが敵側だからマシだと思っている節もある。
話しながらも私達はあやかしとの攻防を続ける。
私は骸骨の指の部分を力を込めて殴ってみた。
バキッと音を立てて骨が折れたが、久遠がすかさず修復した。
「そう簡単には終わらせないわ! あんたはここで死になさい」
久遠は骸骨の後ろでドヤ顔を決めている。骸骨に守られている時点であんまり迫力はないが……骸骨が厄介なのは事実だ。
「これ、ぜったい骸骨の頭とか核っぽいとこ叩かなきゃダメなやつじゃない!?」
「いえ、それよりも術者である枯野親子のどちらを倒せば骸骨も消えるのではないでしょうか」
林がちらりと枯野親子を見ると、久遠は目を逸らし、枯野は目を細め笑顔を向けてきた。
反応だけだと久遠が怪しいが……枯野の足元にいるあやかしが呼び出したし、枯野の可能性もある。
「待たせたな! 早々に悪いが、骸骨から離れてくれ!」
徳海が大声でそう言ったあと、木タの属性だろう岩があやかしを潰す。
そして、骸骨の頭上の雨だけ雨の動きが鈍くなった――
そこそこ治療も使ったが、まだ足りないのか紋様の色はあまり変わっていないように見える。明知と林は、織田のように火力が上がった様子もないしまだ完全体ではないのだろう。
馬を走らせ、やっと開けた場所に出た。すると、そこにはあやかしと呪われた集団。真ん中には枯野親子が立っている。
あれ? 黒い霧がかなり充満しているのに見えるし、気持ち悪くない。
これも治療術を使っていたからだろうか。ただ、もう少し早く完全体になっていたかったな。
最終決戦っぽいし。
私達が馬から降りたところで、久遠が織田を見つめた。
「織田様! お久しゅうございます。貴方まで偽物に毒されてしまうなど、わたくしは悲しいです」
まだ言うか……と誰もが思ったのではないだろうか。
正直私もそう思う。だが、きっと久遠はその書物に嘘がかけない、書き換え不可ということを知らないのだろう。
「見てください。手の甲の紋様を。その女よりも色濃く、強力なものになりました。これまでたくさんの方を治療した結果、取り戻したのです」
舞台劇でも始まりそうなほどの久遠の大きな仕草と声に、織田軍は白けている。
「話はそれだけか?」
「……いえ、まだありますわ! わたくし、枯野家に代々伝わる神具を手に入れましたの」
神具と言いつつ掲げたそれは、久遠が豆臣の城から逃げる際に使ったものと似た呪符だった。
確か豆臣が家系によって神具の形は違うと言っていた。それなら本物か偽物か見分けはつかない。
と言っても、神具が扱えるからと他の条件をクリアしていないので聖女とは言えなさそうだが。久遠は今なら他の条件もクリアできると言いたげだった。
「なるほど、そうきたか」
織田は感心するような様子を見せたが、久遠ではなく枯野終道を見た。
「娘の茶番を放って、貴様は何を企んでおるのだ」
「微笑ましく眺めていただけですよ」
余裕な笑みを浮かべる枯野。何を考えているのか全然わからない。
そんな父親とは裏腹に久遠は顔を青くしている。
「お父様……まだ、足りないのですか?」
「もうそろそろ来るだろう。焦らなくていい」
枯野は足元に寄り添っている狼の見た目をしたあやかしを一瞥する。するとあやかしは一鳴き。
それをトリガーかのように、ぴくりとも動かなかったあやかしや人々が動き出した。
まだ豆臣と徳海が来ていないが、やるしかない。
神具で吹き飛ばしてしまおう。そう思い手をかけたが、織田に止められてしまった。
「今使わなければいつ使うんですか!?」
「あの男はまだ何か隠している。華鈴、お前は人間の呪い浄化に専念しろ」
「……わかりました。あ、でも扇じゃなくても私戦えるんで、守らなきゃとか考えなくていいですからね」
「ふっ、頼もしいな」
――そのあとは大乱闘だった。
織田は火炎放射器の如く一面を火の海へ。明知はそれを支援するように氷を生成。
林も二人の支援を主にしており、植物の触手や毒ガスで一気に敵を蹴散らしている。
そこそこあやかしも人も片付けた頃、枯野はまたあやかしに指示を出した。
その瞬間、地面が割れ大きな骸骨が現れた。
「でっか……」
「あの大きさは初めて見ましたね」
明知は興味深そうに眺め、林はそれを見て呆れ顔。ちなみに織田は黙ったまま「ほう」と言うだけ。
なんというか、織田の人皆マイペースだなぁ……
骸骨が口を開けると、地面に倒れていたあやかしが粒子となり、それが骸骨の体へと吸収されていく。
私は慌ててあやかしを浄化しようと手をかざすが、全てのあやかしを消すには気づくのが遅すぎた。
倒していたあやかし全てを吸収した頃には、骸骨のサイズは雲に頭が届きそうだった。
骸骨は咆哮をあげ、口から火の玉を発射する。
すぐに防御術を張ったおかげで被害は抑えられたが、それでも結界には入れなかった人々は吹き飛ばされてしまった。
「ふむ、この程度では聖女の防御術は破壊できないのですね」
骸骨の後ろで高みの見物をしている枯野は、顔色一つ変えずに私を見つめていた。
その隣では久遠が近くに転がっていた人に呪符を貼り、あやかしに変えてしまった。
「あれって神具じゃなくて呪具では?」
「華鈴の言うとおり呪具でしょうね。枯野は呪術師であり闇属性持ちですし」
明知は私の言葉に返しながらあやかしを狩っていく。林も遠くに毒をばら撒いたり近くの敵を触手で縛ったりしている。私の背後の敵を片付けた後、林は私を見た。
「人があやかしになってしまったのに、意外と落ち着いていますね」
「もうなったものは仕方ないと割り切ろうかと」
「ほう、精神も逞しいのだな」
織田に褒められたが、一々落ち込んでいては身が持たない。そう私は思っただけ。
それだけでなく、あやかしになったのが敵側だからマシだと思っている節もある。
話しながらも私達はあやかしとの攻防を続ける。
私は骸骨の指の部分を力を込めて殴ってみた。
バキッと音を立てて骨が折れたが、久遠がすかさず修復した。
「そう簡単には終わらせないわ! あんたはここで死になさい」
久遠は骸骨の後ろでドヤ顔を決めている。骸骨に守られている時点であんまり迫力はないが……骸骨が厄介なのは事実だ。
「これ、ぜったい骸骨の頭とか核っぽいとこ叩かなきゃダメなやつじゃない!?」
「いえ、それよりも術者である枯野親子のどちらを倒せば骸骨も消えるのではないでしょうか」
林がちらりと枯野親子を見ると、久遠は目を逸らし、枯野は目を細め笑顔を向けてきた。
反応だけだと久遠が怪しいが……枯野の足元にいるあやかしが呼び出したし、枯野の可能性もある。
「待たせたな! 早々に悪いが、骸骨から離れてくれ!」
徳海が大声でそう言ったあと、木タの属性だろう岩があやかしを潰す。
そして、骸骨の頭上の雨だけ雨の動きが鈍くなった――


