戦虚空に転生したJK、聖女だからと武将たちに囲われそうになってますが?

 茂みから現れたのは渋いおじさまだった。
 両手には傷だらけの徳海の将二人。体格も良く鎧も来ている。それなのに、それを重いとも感じていないように引きずり、軽々と前に投げ捨てた。
 
 二人の治療をと動こうとしたところで、豆臣に手で制されてしまった。
 もう一度二人を観察してみたが、ぴくりとも動かない。もう亡くなってしまっているのだろうか。
 頭が真っ白になりそうなところで、豆臣は男を見つめ冷めた口調で言う。
 
「枯野自ら本陣に、しかも一人で来るなんてね」
「驚きましたか? 私としましては、私如きに名だたる武将三名が同盟を結んでいることに驚きましたよ」

 これが久遠の父親なのか、とまじまじと見つめる。枯野と目が合うと紳士的にお辞儀をして、笑顔を向けてきた。だが、目は笑っておらず怖い。呼吸を忘れてしまいそうだ。
 二人の将をボロボロにして、これ見よがしに投げ捨ててきた時点でやばい奴というのはわかっていたが、笑顔だけでもヤバさがわかるなんて……どんな環境に身を置けばこんな人になるのか。
 
 枯野の足元にはあやかしがぴったりとくっついている。少し前に見た狼よりも大きいサイズが側に控えている。額に大きな角が生えており、普通の狼でないことはみただけでわかる。なお、黒い霧のせいでやはり神々しいというよりも禍々しい。

「随分と可愛らしいお嬢さんですね」
「……わざわざ斬られに来てくれたのか?」

 徳海は枯野の言葉を無視して刀を抜く。
 
「そんな物騒な。ただ私は降伏しませんかと提案しに来ただけなのに」
「誰がするか。お前如きに」

 織田の言葉に枯野は可笑そうに笑う。

「そうですね。私如きに降伏など……するはずもありませんよね」

 「残念です」そう言って枯野は指を鳴らした。すると、いつの間にか辺り一帯、人やあやかしで囲まれていた。私達を閉じ込めるような結界も張られている。
 全然気づけなかった。これほど近ければ霧のせいで体調を崩し、すぐにわかりそうなものなのに……
 意識し始めたからか、黒い霧によって気持ちが悪くなってくる。このデメリット、どうにかならないかな。

「好きなだけ斬っていただいて構いませんよ、失敗作なので。……とはいえ、その量をどれだけ捌ききれるのか、見ものですね」

 枯野はそれだけ言って隣にいたあやかしと共に姿を消した。

「数は多いみたいですけど、私が消してしまいましょうか」
「いやぁ、頼もしいね。うちの聖女様は」

 "うちの"と強調する豆臣。徳海は「羨ましい」と言いたげな雰囲気だったが、織田は静かに豆臣を睨んでいた。聖女が欲しい織田にとっては火種になるのかもしれない。

「いや、やめておけ。どこで枯野が見ているかわからんからな」
「でも、この数は大変じゃないですか?」
「お前の手の内を枯野に晒すより良いだろう」

 そう言った後、織田は刀を抜き走り出す。

「ちょ、一番槍はこの俺だー!」

 徳海も織田に続き、躊躇うことなくあやかしも人も斬って行く。時々織田は炎を刀に纏わせて斬り、徳海は雨を利用して相手を怯ませている。
 その鮮やかさはグロくて無理ではなく、目を奪われるほど華麗だった。
 それに見惚れていると背中を押され振り返る。豆臣が私を襲おうとした人を斬っている姿を間近で見てしまった。

「戦場で惚けるのは危ないよ」

 正直血は見たくないが、私が他の人よりも殴れば済むことだ。
 血を拭っている豆臣を見て、私は問いかける。
 
「ごめんなさい! 聖具なら使っていいですか?」

「織田殿がなんて言うかはわからないけど……まあ、いいんじゃない?」
「ありがとうございます! じゃあ、私も頑張ります」
 
 拳を握り力を溜める。これを現実だと認めたら心が折れるから、あえてゲームだと思うしかない。
 私はあやかしを主に狙い、あまりにも女子高生らしくない肉弾戦に挑むのだった――
 
 最後の一人を殴り気絶させた後「ふう」とため息を吐き出す。
 人でできた山を眺めながら私は一言。
 
「一気に治療もできたりするかな」
「貴女の力は無尽蔵だからなぁ」

 呆れた表情を浮かべる豆臣の側で、織田は鋭い眼差しで私を見つめている。
 怖いからあまりこちらを見ないで欲しい。
 また織田に何か言われてはたまらないと私は考え、少しずつ山を崩して治療をすることにした。

「お前の足元に置いてやるから治療に専念してくれ」
「ありがとうございます、徳海様」
 
 徳海が手伝ってくれたおかげで人の山に上らなくて済む。
 次々と治療をしていき、黒い霧を晴らしていく。
 
「ほう、あれだけの力を使い、さらに治療も……やはり欲しいな」

 織田は背後でぽつりとそう言葉を溢した。その時の声は少し明るく感じた。
 私はそれを聞こえなかったふりをして、さっさと治療を終わらせた。
 
「これで終わりです。……今更なんですが、石口様達は?」
「ああ、それがこの結界の向こう側にいるみたい。どのような状況かはわからない」

 豆臣が指差す方向を見つめるが、モヤがかかったように外側は何も見えない。
 結界に触れてみようとすると、バチっと手が弾かれてしまう。ヒリヒリと痛む指先をさすり、結界をぐるりと見渡す。

「皆さん強いですし、大丈夫……ですよね?」
「絶対大丈夫とは言えない。でもまあ、即くたばるような者はいないはずだ」
「人の心配よりも、自分の心配をしろ。お前の力はまだ不完全なのだろう?」

 私の手の甲を指差し、織田は私を見据えた。

「なんでそれを?」
「うちの書物に書いてあったのだ。だが、この調子で呪いを吸収し続ければ、時期完全体になるだろう」

 織田はそう優しい声色で私に言ってくれた。
 
「その時……誰のものになるかはわからんがな」

 ニヒルに笑う姿に、豆臣と徳海は少しだけ反応を示した。
 いや、そもそも誰のものになるかって……そういう言い方、やめて欲しいな。
 
 ピリピリした空気が漂ったが、意識を取り戻し「うう……」という男の声を聞いた途端、織田はその男の頭を引っ掴み「よく眠れたか?」とかなり低い声で話しかけた。
 目の前に突如現れた織田の強い顔に頭を掴まれた男は声が出ず、ただ口をはくはくとさせ震えていたのだった。