戦虚空に転生したJK、聖女だからと武将たちに囲われそうになってますが?

 かなり濃い霧が充満している。おかげで気分が悪くなってきた。
 木タが私をここに連れて来たということは、治療希望者だろうか。
 黒い霧からして、久遠に治療され悪化した可能性は大いに考えられる。
 だが、これまで酷い霧は林以来だ。

「着きました。華鈴様、大変恐れ入りますが、徳海様を治療していただけないでしょうか」
「ん? 徳海様がいるんですか?」

 人がそこにいるのかも見えず、私は辺りを見渡す。だが、視界は霧のせいで一切見えない。
 
「……見えていない?」
「聖女にしか見えない黒い霧があるそうだ。その黒い霧のせいで、こいつは徳海殿を見えていないのだろう」
「全然見えません! でも、場所さえ教えてもらえれば治療できます」

 というか、早く治療してしまいたい。じゃないと胃の中身を全部吐き出しそうだ。
 石口に手を取られ「ほら、治療しろ」と耳の近くで声をかけられる。その途端、ぞわっとしたが、今は騒いでいる暇はない。きっと洞窟が狭くて近いだけだろうし、気にしてはいけない。
 私は一度深呼吸をして、治療に入る。
 あれだけ濃く重たい空気だったのに、今は冷たい空気が肺を満たす。
 また、霧がなくなったおかげで寝ている徳海も確認できた。
 
 徳海は目を開け、視線だけ動かし場所を確認。私と目が合うと勢いよく身体を起こした。

「体がいきなり軽くなったと思ったら華鈴か! 遠路はるばる悪いな!」

 徳海は、最初に会った時と同じくらいの満面の笑みで私を見た。

「呪いが付与されていたんですけど、徳海様は久遠に治療してもらったことはありますか?」
「ないぞ。道中に久遠と出会って呪符で攻撃されたんだ」

 徳海は、「その時に呪いが付与されてしまったんだろう」と頭を掻く。
 徳海としては、枯野を庇っているからもしかしたら連れて行ってもらえるかも〜と淡い期待をしていたらしい。

「ちなみに、久遠の治療は木タに止められていた」
「徳海の書物に記載のものと一致しなかったからです」
「ほう、徳海にある書物でも、か」

 聖女の書物のことだろう。石口はすぐに聞き出そうと、木タの言葉に反応した。
 それを察した木タだったが、ここで言い渋るのもと思ったのか眉間に皺を寄せ話し始めた。
 
「……はい。書物には、聖女は神具の入った棚を探せるらしく見つけてみろと」
「探せるのか。華鈴にも探させてみればよかったかもな」
「え、私にそれ必要ですか……?」

 まだ疑われているのか? と少し身構えたが、石口の顔つきから揶揄っているように見えた。頭の硬い人だと思っていたが、意外とこの人も子供っぽいところがあるな……
 
 そんなことを思っていると、木タが咳払いをした。
 石口は何事もなかったように、木タへ「続けてくれ」と言った。
 いや、話を止めたの貴方ですけどね。
 
「枯野久遠は、聖具がある場所とは真逆の方向へと歩き始めたため、偽物だと判断しました」

 同盟を結ぼうと持ちかけられた時、枯野が"うちの娘は聖女なのだ"と紹介。また、"娘は頭も切れる。徳海様の婚約者に適しているはずだ"とも言っていたそうな。
 それなのに、棚を見つけられずなかったことになったと。

「ちなみに、その時の言い訳は?」
「は? 言い訳……ですか?」

 木タは思い出そうとしているのだろう俯き考え込んでいる。
 その隣で徳海は「俺わかるぞ!」と挙手をしてから話し始める。

「"きょ、今日は調子が悪いだけですわ! 後日あらためて探させてください!"つって、あとで城から忍が見つかった」
「呆れて何も言えんな……」

 石口は心底呆れているようで、眉間に皺を寄せている。
 徳海はそんな石口に期待の眼差しを向けて尋ねる。

「似てたか?」
「似てない」

 間髪入れず石口にモノマネを否定され、徳海は唇を尖らせている。
 そんな徳海を無視して、石口は木タに問いかける。

「……ところで、外にいるあやかしと人間は殺してしまっても構わないのか?」
「構いません。私もお供いたします」

 石口と木タは私と徳海を置いてさっさと敵がいる方向へと歩いていく。

「私の力は必要ですか?」

 石口の隣まで駆け足で近づけば、石口は険しい顔をした。
 
「人は殺したくないんじゃなかったか?」
「治療すれば正気に戻るかと」

 一考したあと「好きにしろ」そう言って石口は私に顔を背けて行ってしまった。

 私も足早についていき、あやかしと徳海の家紋をつけた鎧を着た人に対峙する。
 あやかしは狼のような見た目をしている。その体からは禍々しいオーラが溢れていた。久遠が付与する治療によるものとは桁違いだ。
 
「木タ様、なぜ偽物聖女と一緒にいるのですか?」
「貴様らこそ、なぜあやかしなどと一緒にいる?」
「……あやかし? これは枯野様がくださった神獣ですよ」

 「これがあやかしに見えるんですか?」と馬鹿にするように男は笑った。
 神獣ってもっと周りを光で照らすくらいキラキラしているものだと思ったのに。
 想像と違うな……
 
「神獣ってそんな禍々しいの出るんですか」
「神々しいの間違いだろ? 偽物聖女には危険なものに見えるのか」

 一々言い方が癪に障るなこの男……
 私の心の中では、神獣ではなくあやかしで通してしまおう、そうしよう。
 私は男を無視して石口に聞いてみる。
 
「石口様はどう見えますか?」
「雨に濡れた汚い狼だな」
「……同じく」

 木タも頷くと、私は笑顔で相手に言う。
 
「全然神々しくないじゃないですか〜」
「はあ!? 選ばれた人間にしかこの神獣の神聖性はわからないのだ! くそっ、殺してやる!」

 私を指差した男。そしてそれに反応して神獣は私目掛けて走ってきた。防御術を張ろうと思ったが、石口が雷を神獣へと落とし一発で倒してしまった。

「あっけなさすぎませんか」
「まだだ! 安心していると足元を掬われるぞ!」

 次々と背後からあやかしが現れ、わんわんと犬のように鳴き一斉に襲いかかってきた。
 まず防御術を展開し、神獣の攻撃を防ぐ。
 ドンッ、ドンッと体当たりしてくる神獣を、石口は雷で撃ち減らしていく。雨のおかげか、落雷の威力が強まっているようだ。
 また、木タは地面から鋭利な岩を作り出し貫いていく。初めて見たが、木タも属性持ちだったんだな。

「チッ、流石に敵が多いか!」
「私に任せてください!」
 
 石口と木タの前に立ち、私は神具である扇を構える。
 力の限り扇を振りかざし、その場にいた男もあやかしも吹き飛ばしてやった。

「やば、治療し忘れた……」

 私の呟きで、石口は無言で呆れた表情を浮かべたのだった。