戦虚空に転生したJK、聖女だからと武将たちに囲われそうになってますが?

 加勢に行くという旨の手紙を徳海に出した豆臣。
 数日後に返事が届いた。要約すると、「加勢に来てくれるのならありがたい」と言った内容だ。
 
 出発の日はあいにくの雨。まだポツポツと振っている程度なのでマシかもしれない。
 そんなことを思ていると、「良い調子じゃないか」と豆臣はなぜか空模様を眺め口角をあげていた――


 どのくらい走らせたか、森へと辿り着いた。道は整備されているのでまだ馬で行動できる。

「豆臣様、そろそろ合流地点です」

 先頭を走っていた島は、そう豆臣に声をかけた。
 馬の速度を緩め、待っているだろう徳海軍を探した。
 すると、遠くから大きく手を振っている姿が目に入る――木タだ。
 後ろには馬もなく立っている人が数人控えている。
 
 真っ直ぐに木タの方向へと馬を歩かせる。
 近くまで行くと、木タは大きな馬から降りて頭を下げた。

「この度は徳海の問題に駆けつけていただき、誠に感謝いたします。徳海様を裏切る輩も多く、芳しくない状況です」

 「少々耳をお貸しください」そう言って木タは豆臣に何か伝えている。豆臣は眉を顰めつつもこっそり木タへと手紙を渡した。木タは手紙を握り豆臣に頭を下げた。

「二手に別れましょう。聖女様、貴女は私――木タと一緒に来ていただきたく」
「……木タ殿。その者に護衛をつけてもよろしいか?」
「構いません。大人数は避けたいゆえ、お一人でお願いいたします」
「木タ様、俺も木タ様と一緒に行きますよ!」

 会話に割り込んできたのは、後ろで控えていた男。遠目からはわからなかったが、男は黒い霧を纏っている。霧自体は薄いが、久遠と接触があったようだ。ということは……スパイ?

「不要だ。お前が来ても荷物にしかならん」
「しかし……」
「何度も言わせるな。……話の最中に申し訳ございません。どなたを聖女様の護衛につけますか?」
「俺が行く」

 石口が名乗り出て、豆臣はすぐに頷いた。あまりにもどちらも躊躇いがない。きっとこれもシナリオにあるものなのだろう。

「石口、名乗り出たんだから、華鈴は死んでも守ってくれよ?」
「もちろんです」

 そう言葉を交わした後、木タの案内で狭い道を通っていく。
 雨音だけが聞こえる森の中、本当に戦の最中なのか不思議に思うほどだ。
 
「ここからは馬を置いていきます」
「……わかった」

 馬を降り、石口は背中を数回叩いた。すると馬は鳴き声をひとつ出し、来た道を戻っていった。
 自分で帰れるように躾けられているのだろうか。下手したら私より断然賢いだろうな……

「それで、なぜ二手に分かれる必要があったんだ?」
「あの中にも徳海を裏切った者がいます。豆臣殿はすでに察しがついているようですが」
 
 豆臣から受け取った手紙を石口に見せ、木タはため息を吐いている。何もかも豆臣に見透かされていると思っているのだろう。私だって木タだったらため息も吐きたくなる。

「なんて書いてあるんですか?」
「わざわざ文で書いているものを読み上げるわけないだろ」
「あ、すみません」

 敵がどこかに潜んでいたら手紙に書いた意味がない。確かにそうだな。
 石口に差し出された手紙を読み、私は木タに手紙を返す。すると木タは手紙を破り捨て雨に溶かした。

「溶けやすい紙を使うとは、用意周到ですね」
「豆臣様は聡明な方だからな」
「徳海様にも見習っていただきたい……」

 どうやら苦労しているようだ。まあ、豆臣に"馬鹿"と言われるほどだし、結構抜けてるところがあるんだろうな。
 親近感湧くかも。……徳海に。

 なお、二人の重い空気の中、申し訳ないのだが私は手紙の内容がほとんどわからなかった。
 もう文字が滲んでいた。そして何より……達筆すぎて暗号より読めない。絶対わざとだよなぁ。
 スマートフォンを取り出す雰囲気でもなかったし。まあ、この二人が知っていればどうにかなるだろう……多分。

 木タは洞窟へと入った。その瞬間、雨音が消えて洞窟の冷気が肌にまとわりつく。
 じめじめした雨から解放されたと思ったら、今度はひやっとする。このままでは風邪を引いてしまいそうだ。
 笠は一応かぶっていたのだが、やはりそれだけで濡れないわけがない。
 木タは「ここで少し待っていてくれ」と私達を置いて奥に進んでいってしまった。
 待っている間に私は水を絞っておこうと、重いスカートを掴む。するとすぐに石口が大きな声で言う。
 
「な、何をしている!?」
「雨を吸って重くなったので絞ろうかと」
「理屈はわかったが、はしたないだろ!」

 スカートを持っていた手を叩かれてしまった。痛くはなかったが、突然となるとびっくりしてしまう。
 抗議をしようと石口を見ると、顔を真っ赤にしてしまっている。
 そういえばこの時代は露出って少ないもんな……

「……えと、すみません」
「どうされました?」

 慌てて戻ってきたのだろう木タは私と石口を交互に見た。だが、石口はすぐに「なんでもない」と背を向けて黙り込む。私もなんとなく説明がしづらく、苦笑いを浮かべることだけにした。
 話が聞けそうもないと判断した木タは不思議そうにしていたが、また奥に引っ込んでいった。

「石口様」
「絞るならさっさとしろ」
「あ、いいんだ」

 許可は出たのでさっさと絞れるところを絞って、すぐに石口に終わったと声をかけた。
 その時にはすっかり顔の赤みは消えていた。貴重な照れ顔だったなぁ。

「石口様、奥に何があるんですかね?」
「大方察しはつくが――すぐわかるだろう」

 木タが奥へ案内してくれ、私は目を瞬かせた。