戦虚空に転生したJK、聖女だからと武将たちに囲われそうになってますが?

 豆臣に群がってきた、名前もない小さな国――というか、寄せ集めみたいな国々。
 昨日まで威勢よく吠えてたくせに、豆臣が動いたら一日で片付いてしまった。あっけない。

 今残ってるのは織田と徳海、あとは枯野が引き入れている国くらいだろう。
 冷静に考えると、敵が減った分、次は本丸が近づいてきたってことだ。
 ……一生口にすることはないと思ってたセリフを言ってしまって、ちょっとむず痒い。

 帰ってすぐ別邸の広間へ。
 今ここにいるのは豆臣とおとね、それから石口と島。馴染みのある顔ぶればかりだ。

 上座にどっかり座った豆臣は、おとねから報告書を受け取り目を通す。
 まず、私と石口が教えてもらった久遠について。次に、枯野の属性について。
 
「やれやれ、よりによって親子揃って闇属性持ちとは」
 
 豆臣はあからさまに面倒くさそうな表情をした。

 属性は一属性につき一人のはず。なのに、枯野親子は闇属性を半分ずつ持っているらしい。どうやって分け合ったのかは不明だという。

「普通の属性はわかりやすいんだ。炎属性なら火を出せるし、風属性なら風を吹かせる」

 豆臣は手を庭へと向け、雑草を揺らして見せる。

「でも闇属性は……使う人によって術が違う。だから僕にも想像がつかない」

 闇属性については昔から「よくわからない」と伝わっているそうだ。

「闇属性だけは、人に分けられる術があるのかもしれない……そういうことですか」
「可能性の話だけどね。厄介なのは確かさ」

 書物にも記録がほとんどなく、豆臣はまた肩をすくめた。
 
「ところで……以前、枯野が“何かを造ろうとしている”って話があったよね? おとね」
「はい」

 おとねは紙を差し出し、淡々と告げる。
 
「枯野終道は、久遠が治療した人々を使い、強力なあやかしを造っています。すでに何体か生み出し、そのあやかしで村や他国を襲わせている、と」

 豆臣にはまだ被害はない。けれど隣接する徳海はすでに襲撃を受けていて、処理に追われているらしい。
 ただ徳海本人は「誰の差金か不明」と言い張り、さらに「抑圧されている枯野にそんなことはできないだろう」と擁護していた。
 だが、枯野はいつの間にか油断隙にその領土から離れてしまっているらしい。
 徳海が枯野を擁護したせいだと部下たちとの溝は、ますます深まっているのだとか。

「徳海様……なんで枯野を疑わないんですかね」
「あいつ馬鹿だか、ら……――今のなしね」

 咳払いをして、いつもの笑顔に戻る豆臣。
 徳海に対して遠慮がないのはいつものことだけど、今回ばかりは同意してしまう。

「とにかく、徳海を引き込むには絶好の機会だ。加勢の準備を始めよう」

 その一声で皆が動き出し、広間を出ていく。
 残ったのは私と豆臣。彼は私の顔を見て、にやりと問いかけた。

「気になることがある、そうでしょう?」
「……はい。本当に徳海様はわかってないんですか?」

 私の問いに、豆臣は楽しそうに笑う。そんなに嬉しいことなのか?
 
「違うと思うよ。まあ、憶測だけどね」

 それ以上は話さず、「僕も行く」と広間を出ていった。
 私はスマートフォンで徳海の情勢を調べる。そこには「徳海を悪く言う者」と「擁護する者」で意見が割れていると記されていた。
 もちろん木タは擁護派だ。けれど徳海の真意も、木タの気持ちも、何一つわからない。

「なんっもわからん。豆臣様の忍ってそんなに優秀なの? 聖具よりも?」
「部屋に籠もってると思ったら……」

 豆臣が呆れ顔で覗き込んでいた。
 
「どうせ現地でわかるんだから、今はやめときなよ」
「調べてって頼むくせに!?」
「そんなに頻繁には言ってないだろう?」

 くすくす笑う豆臣に言い返しかけて、私は慌てて口をつぐむ。
 いや、冷静になれ私。相手はめっちゃ偉い人だ。怒らせるわけにはいかない。
 
「おや、急に黙ったね?」
「なんでもないです」

 廊下を歩き出すと、背後からわざとらしく大きな声がした。
 
「聖具は便利だけど、対話も大事なんだからね〜」

 わかりきっていることを言われ、思わず振り返りそうになったけれど、私は睨むのをこらえて足早におとねの方へと向かった――


 荷物運びを手伝い、今日のところはおやすみ。
 2,3日後には出発をするらしい。慌ただしいな……

 自分の部屋へと入り、畳に寝転がる。
 私には監視されている視線はわからないが、きっとこの様子も見られているんだろうなぁ。
 というか、今なら監視じゃなくて見守りかもしれない。どちらにせよみられていると思って過ごした方がいいだろうけれど。
 
 寝転がったまま神具である扇を触る。骨組みは竹で素材は和紙のようだ。雑に使ったら破けてしまわないか少々心配になる。
 また、装飾が少しだけある。両端に鈴がついているのだが、振ってみても音が鳴らない。確か術を発動している時は鳴っていたはず。まるで、今の私には力を貸してくれないかのようだ。
 
「和紙の部分には、私の手の甲にある紋様と同じものがついてるんだな〜」

 手の甲と扇を並べて比較してみる。扇の紋様は私の甲についている金より深く、琥珀のように濃い色――完全体はこの色なのだろうか。
 どの程度治療すればこの色になれるのだろう。

「ま、気にしててもしょうがないか……今は本を読むことに集中しよう」

 私は豆臣に貸してもらった聖女に関しての本を読むことにしたのだった。