豆臣の部屋へと入ると、たくさんの書類に囲まれている姿があった。
書類を片付け、豆臣は笑いながら私を見た。
「次から次へと事が起きるね」
「ご、ごめんなさい」
「いやいや、華鈴のせいじゃないから気にしないで」
「それが嫌だったら聖女なんて匿ってないよ」と爽やかに言い放った。
確かにそういうことがあるのは安易に想定できるはず。困難な事が起きても、手放すつもりはない、ということだろうか。私のためにあんまり無茶はしないでほしいけど……
豆臣はおとねが連れきた女性を見て問いかけた。
「それで、おとね。その女が無断でうちに居住してたって?」
「はい。この女は枯野が現在保護している国にいました」
それを聞いた瞬間、女性は「なっ!?」と目を見開きおとねを見た。
これ以上素性を知られたくないのか、女性は背中で縛られた手首のロープを引っ張りもがいている。
だが、解けることはなく、おとねは続けた。
「それと、枯野終道のくノ一です。どうやら魅了術をかける予定だったようです」
さっきまで、初めて違法居住者を見つけた。みたいな雰囲気だったのに、すでに調べはついていたようだ。あれはもしかしたら演技だったのかもしれない。
豆臣も怖いが、おとねも大概怖い人だ……
「魅了術? ……念の為聞くけど、誰に?」
「もちろん豆臣様に、ですよ。枯野久遠に好意が芽生えるよう仕向ける術です」
そんな術もあるのか。と思うと同時に、久遠はどれだけ必死に位の高い人の妻になりたいのか不思議にも思った。
私がこの世界の住人だったら、同じように必死になるものなのだろうか。
……そこまでして、手に入れたいものがあるんだろうか。ちょっと、怖い。
「はあ、どうせ駄目だったら石口とか他の将にも使おうとは思ってたんだろうけど……いい気はしないね」
「処分はいかがいたしましょうか」
「……そうだね。華鈴、悪いけど席を外してもらえる?」
「わかりました。失礼します」
正直聞きたくなかったので助かった。
私は早々に部屋を出て廊下を歩く。
もうこの城内の構造も覚えてきた。最初に来た時は、「こんな複雑なところ、迷わないわけがない!」と思っていたが意外と覚えられるもんだなぁ。
「華鈴」
私の名前を呼ぶ声に振り返る。そこには困惑な表情を浮かべている石口が立っていた。
「石口様、こんにちは。どうしたんですか?」
「お前の後ろ姿が、見えたから――いや、老人に石を投げられたと聞いたが、ちゃんと術は発動できたんだろうな?」
「もちろんですよ。おとね様や島様に特訓してもらったんですからね」
「俺は呼ばれてない」
「うん?」
特訓に呼ばれていなかったのが不服なのか、視線を落とし声のトーンまで落ちている。そんなに私に攻撃を仕掛けたかったのだろうか。石口は戦闘向きの属性らしいので、勘弁してほしい。
「……なんでもない。今暇か?」
「はい。何しようかな〜と思いながら歩いていました」
「ならば俺に付き合え。確認しておきたい事がある」
「わかりました!」
すぐに返事をしたからか、石口は満足そうに頷いた。
◇
「えっと、神社ですか?」
別邸へ行く迷路へと入り、いつもとは違う道順でたどり着いた場所。
私は鳥居を端から潜り抜ける。なんかよくないって聞いたことあるから、というかなり雑な覚えだが……知っていて破るよりはマシだろう。
ちなみに、石口も真ん中は通っていなかった。この時代からそういうマナーはあったんだろうな。
鳥居の端っこを通ったからなのか不明だが、一瞬だけ光った気がした。
もう1度通ってみたが反応はない。まあ、気のせいか……
石口は建物の扉を開け、下駄を脱ぎ中へと入っていく。
私もローファーを脱ぎ石口に続いた。中は私のイメージする神社とは違い殺風景だ。
石口は大きな棚がある場所で立ち止まり、私を見た。
「この中には神具が保管されている。神、または神の御使である聖女のみが使えるものだ」
そう言って説明はしてくれるが、棚を開けようとしない。不思議に思っていると、石口が棚に触れようとした瞬間、バチッ! と音を立て、弾かれてしまった。
「聖女――華鈴しか開けられない棚なのだ」
「なるほど……それよりも、大丈夫ですか? 痛くないですか」
私が石口の手を確認しようとすれば、石口は手を引っ込め首を横に振った。
「この程度、問題ない。人の心配いいから、お前が開けてみてくれ」
棚を指差した石口の手の甲はほんのり赤くなっていた。叩かれた程度の痛みなのだろうか。自分の手の甲を見ていることに気づいた石口は、「俺の手ではなく棚を見ろ」と言ってムッとした表情を浮かべた。
私は視線を棚へと移し、恐る恐る引手を手に取った。
扉はあっさりと開き、中には大きな扇が1つ。
「これが神具?」
「ああ、そうだ。使い方については書物を探す必要があるがな」
「なるほど? ……これは石口様触れたりするんですかね? 持ってみてください」
「なっ、バカ! 突然こっちに神具を向けるやつがあるか!」
扇の持ち手を石口に向けると、突然神具が輝き始めた。
自爆でもするのか? と思うほどに光に思わずスマートフォンを取り出し、石口を含め防護術を展開。
「死んでも恨まないでくださいね――!」
「一生恨む自信があるから覚悟しておけ!」
初めて石口に怒鳴られ、私は目をぎゅっと瞑り光が収まるのを待ったのだった。
書類を片付け、豆臣は笑いながら私を見た。
「次から次へと事が起きるね」
「ご、ごめんなさい」
「いやいや、華鈴のせいじゃないから気にしないで」
「それが嫌だったら聖女なんて匿ってないよ」と爽やかに言い放った。
確かにそういうことがあるのは安易に想定できるはず。困難な事が起きても、手放すつもりはない、ということだろうか。私のためにあんまり無茶はしないでほしいけど……
豆臣はおとねが連れきた女性を見て問いかけた。
「それで、おとね。その女が無断でうちに居住してたって?」
「はい。この女は枯野が現在保護している国にいました」
それを聞いた瞬間、女性は「なっ!?」と目を見開きおとねを見た。
これ以上素性を知られたくないのか、女性は背中で縛られた手首のロープを引っ張りもがいている。
だが、解けることはなく、おとねは続けた。
「それと、枯野終道のくノ一です。どうやら魅了術をかける予定だったようです」
さっきまで、初めて違法居住者を見つけた。みたいな雰囲気だったのに、すでに調べはついていたようだ。あれはもしかしたら演技だったのかもしれない。
豆臣も怖いが、おとねも大概怖い人だ……
「魅了術? ……念の為聞くけど、誰に?」
「もちろん豆臣様に、ですよ。枯野久遠に好意が芽生えるよう仕向ける術です」
そんな術もあるのか。と思うと同時に、久遠はどれだけ必死に位の高い人の妻になりたいのか不思議にも思った。
私がこの世界の住人だったら、同じように必死になるものなのだろうか。
……そこまでして、手に入れたいものがあるんだろうか。ちょっと、怖い。
「はあ、どうせ駄目だったら石口とか他の将にも使おうとは思ってたんだろうけど……いい気はしないね」
「処分はいかがいたしましょうか」
「……そうだね。華鈴、悪いけど席を外してもらえる?」
「わかりました。失礼します」
正直聞きたくなかったので助かった。
私は早々に部屋を出て廊下を歩く。
もうこの城内の構造も覚えてきた。最初に来た時は、「こんな複雑なところ、迷わないわけがない!」と思っていたが意外と覚えられるもんだなぁ。
「華鈴」
私の名前を呼ぶ声に振り返る。そこには困惑な表情を浮かべている石口が立っていた。
「石口様、こんにちは。どうしたんですか?」
「お前の後ろ姿が、見えたから――いや、老人に石を投げられたと聞いたが、ちゃんと術は発動できたんだろうな?」
「もちろんですよ。おとね様や島様に特訓してもらったんですからね」
「俺は呼ばれてない」
「うん?」
特訓に呼ばれていなかったのが不服なのか、視線を落とし声のトーンまで落ちている。そんなに私に攻撃を仕掛けたかったのだろうか。石口は戦闘向きの属性らしいので、勘弁してほしい。
「……なんでもない。今暇か?」
「はい。何しようかな〜と思いながら歩いていました」
「ならば俺に付き合え。確認しておきたい事がある」
「わかりました!」
すぐに返事をしたからか、石口は満足そうに頷いた。
◇
「えっと、神社ですか?」
別邸へ行く迷路へと入り、いつもとは違う道順でたどり着いた場所。
私は鳥居を端から潜り抜ける。なんかよくないって聞いたことあるから、というかなり雑な覚えだが……知っていて破るよりはマシだろう。
ちなみに、石口も真ん中は通っていなかった。この時代からそういうマナーはあったんだろうな。
鳥居の端っこを通ったからなのか不明だが、一瞬だけ光った気がした。
もう1度通ってみたが反応はない。まあ、気のせいか……
石口は建物の扉を開け、下駄を脱ぎ中へと入っていく。
私もローファーを脱ぎ石口に続いた。中は私のイメージする神社とは違い殺風景だ。
石口は大きな棚がある場所で立ち止まり、私を見た。
「この中には神具が保管されている。神、または神の御使である聖女のみが使えるものだ」
そう言って説明はしてくれるが、棚を開けようとしない。不思議に思っていると、石口が棚に触れようとした瞬間、バチッ! と音を立て、弾かれてしまった。
「聖女――華鈴しか開けられない棚なのだ」
「なるほど……それよりも、大丈夫ですか? 痛くないですか」
私が石口の手を確認しようとすれば、石口は手を引っ込め首を横に振った。
「この程度、問題ない。人の心配いいから、お前が開けてみてくれ」
棚を指差した石口の手の甲はほんのり赤くなっていた。叩かれた程度の痛みなのだろうか。自分の手の甲を見ていることに気づいた石口は、「俺の手ではなく棚を見ろ」と言ってムッとした表情を浮かべた。
私は視線を棚へと移し、恐る恐る引手を手に取った。
扉はあっさりと開き、中には大きな扇が1つ。
「これが神具?」
「ああ、そうだ。使い方については書物を探す必要があるがな」
「なるほど? ……これは石口様触れたりするんですかね? 持ってみてください」
「なっ、バカ! 突然こっちに神具を向けるやつがあるか!」
扇の持ち手を石口に向けると、突然神具が輝き始めた。
自爆でもするのか? と思うほどに光に思わずスマートフォンを取り出し、石口を含め防護術を展開。
「死んでも恨まないでくださいね――!」
「一生恨む自信があるから覚悟しておけ!」
初めて石口に怒鳴られ、私は目をぎゅっと瞑り光が収まるのを待ったのだった。


