なぜ毒を飲まされる場面を見に行かなきゃいけないのか。そう思いつつ、私は島の後を追った。
厳重な扉を開け、島は私に先に入るよう促す。
気は重いけど、人が死ぬよりはマシだろう。
「……これ、生きてますか?」
椅子に縛り付けられたボロボロの男がいる。たぶん、この人が私を殺そうとした犯人なのだろう。
「生きている。指示もなく殺すわけないだろ」
島は男の髪を引っ張って無理やり顔を上げさせた。「うっ」と男が呻く。
まさかターゲットが目の前にいるとは思っていなかったのだろう。男は目を見開き、体を震わせている。
自分のことを美少女とは思わないけど……そんなにひどい顔してるかな私!?
「水をやる。飲め」
あまりにも自然に、毒っぽいものを水として紹介した。……いや、水といえば水だけど!?
飲まず食わずだったのか、男はあっさりそれを飲み干した。
途端に、男はむせ返り、出てこない毒水を吐き出そうと必死になっている。
見ていて気持ちのいいものじゃない。早く聖女の力で解毒しよう。
男に近づこうとしたとき、彼の体から黒い霧が溢れ出し、部屋に広がっていった。
呪いと同じ効果!?
私は気分が悪くなり、その場にしゃがみ込んでしまう。
「華鈴!? 大丈夫か、気分が悪いのか?」
島が男を無視して私に駆け寄ってくる。
私は口元を押さえながら、小声で言った。
「水を飲ませた途端、その人の体から霧が溢れてきたんです」
それを聞いた島はすぐに部屋の外に出て、扉に鍵をかけた。密閉性は高いらしく、霧は廊下に漏れ出ていない。
「……もしあれをお前が飲んでいたら、どうなっていたことか……」
表情はいつも通り不機嫌そうだけど、声には動揺が混じっていた。
私を心配してくれてると思うと、不謹慎だけど……ちょっと嬉しいな。
「あの人、治療します。もう一度中に入れてください」
「……無理はするなよ?」
「はい!」
部屋の中は黒い霧で真っ白だった。島に案内してもらい、男の前に立つ。
手をかざすと、霧は紋様に吸い込まれていき、やがて男の顔がはっきり見えた。血の気が戻り、傷もすっかり治っている。
「な、なんで助けたんだよ。殺すために飲ませたんじゃなかったのか?」
「豆臣様は、毒味させたかっただけなんだと思う。そうじゃなきゃ、私を連れてくる理由がないし」
私の言葉に、男は深いため息をついてから私を見た。
「……俺、あの女に洗脳されてたんだろうな。華鈴様に治療されて、心も体も軽くなった。本当にありがとう」
「良い話みたいに笑ってるけど、お前が敵なのは変わらないぞ」
島のツッコミに、男は苦笑いする。
「……わかってる。悪かった。聖女様、忠告しておく。豆臣の領土には出るな。できれば城下町にも行かない方がいい」
「どうして?」
「あの女に魅了術でもかけられてんのかってくらい、尽くしたくなるんだ。会ったこともないお前を殺したいって思うくらい、な」
悔しいけど、久遠は確かに美人だ。魅了術がなくても、人を騙せそうな気はする。
でも、豆臣の女中や武将の一部が彼女に味方したのは……やっぱり術の可能性があるかもしれない。
「“豆臣の領土に出るな”はなんとなく分かるけど、城下町も?」
「ああ。あの女の息がかかった奴がいる。注意するに越したことはない」
城下町は、たまにぶらぶらしたくなる場所。でも、彼の忠告は私を守るためだ。
この広い城でも散歩くらいはできる。大人しくしておこう。
「忠告、ありがとう」
島と一緒に部屋を出る。ようやく一息つける……と思ったところで、おとねが小走りでやってきた。
「島様、華鈴様をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「用事は終わったから構わないが……何かあったか?」
「聖女様に会いたいと、人々が門を塞いでいるのです」
穏やかではないと、おとねは言った。もうその時点で嫌な予感しかしない。
しかも、私の顔を見るまで帰らないとまで言っているらしい。
「……このタイミングでかぁ。でも、迷惑かけるのは嫌だし、顔だけ出してくるね」
「華鈴様はいざとなれば戦えますし、大丈夫ですよ」
「戦わない主義です!」
――おとねとともに門まで来ると、門番が「もう少しお待ちください」と必死に対応していた。
門付近には黒い霧が発生している。まだ久遠の治療術が残っている人がいたのだろうか。
「私が聖女、華鈴です」
「こんの悪女が!」
名乗った途端、いきなり老人が悪態をついてくる。
「わっ」
おまけに小石を投げてきたので、咄嗟にスマートフォンを盾にして防御。私の動体視力、なめないでほしい。
……いや、そんなこと言ってる場合じゃない。
「悪女じゃなくて、聖女ですよ。おじさん」
「何が聖女だ! 久遠様は、お前に力を奪われたと泣いておったぞ!」
なぜか久遠の肩を持つ老人。隣では、突然泣き出す女性も。
「私は、貴方のせいで夫を亡くしました……」
話を聞けば、元は小さな国に住んでいて、豆臣との戦で夫が命を落としたらしい。
私がいなければ、起きなかったことかもしれない。そう思うと、やっぱり私は1人でいた方がいいのかも――そう考えかけた、そのとき。
隣で、おとねが満面の笑みを浮かべて女性を見ていた。
「おやおや、こんなところに密偵が」
「はっ!? ちょ、離して! 私は移り住んだだけです!」
「他国からの移住許可はしておりません。お話、聞かせてくださいね」
おとねは女性を担ぎ、「華鈴様も戻りましょう」と、空いている手で私の手を引く。
背後からは「まだ話は終わってない!」と怒号が飛んでくるけど、おとねは穏やかな声で言ってくれた。
「豆臣様にお話しましょう」
厳重な扉を開け、島は私に先に入るよう促す。
気は重いけど、人が死ぬよりはマシだろう。
「……これ、生きてますか?」
椅子に縛り付けられたボロボロの男がいる。たぶん、この人が私を殺そうとした犯人なのだろう。
「生きている。指示もなく殺すわけないだろ」
島は男の髪を引っ張って無理やり顔を上げさせた。「うっ」と男が呻く。
まさかターゲットが目の前にいるとは思っていなかったのだろう。男は目を見開き、体を震わせている。
自分のことを美少女とは思わないけど……そんなにひどい顔してるかな私!?
「水をやる。飲め」
あまりにも自然に、毒っぽいものを水として紹介した。……いや、水といえば水だけど!?
飲まず食わずだったのか、男はあっさりそれを飲み干した。
途端に、男はむせ返り、出てこない毒水を吐き出そうと必死になっている。
見ていて気持ちのいいものじゃない。早く聖女の力で解毒しよう。
男に近づこうとしたとき、彼の体から黒い霧が溢れ出し、部屋に広がっていった。
呪いと同じ効果!?
私は気分が悪くなり、その場にしゃがみ込んでしまう。
「華鈴!? 大丈夫か、気分が悪いのか?」
島が男を無視して私に駆け寄ってくる。
私は口元を押さえながら、小声で言った。
「水を飲ませた途端、その人の体から霧が溢れてきたんです」
それを聞いた島はすぐに部屋の外に出て、扉に鍵をかけた。密閉性は高いらしく、霧は廊下に漏れ出ていない。
「……もしあれをお前が飲んでいたら、どうなっていたことか……」
表情はいつも通り不機嫌そうだけど、声には動揺が混じっていた。
私を心配してくれてると思うと、不謹慎だけど……ちょっと嬉しいな。
「あの人、治療します。もう一度中に入れてください」
「……無理はするなよ?」
「はい!」
部屋の中は黒い霧で真っ白だった。島に案内してもらい、男の前に立つ。
手をかざすと、霧は紋様に吸い込まれていき、やがて男の顔がはっきり見えた。血の気が戻り、傷もすっかり治っている。
「な、なんで助けたんだよ。殺すために飲ませたんじゃなかったのか?」
「豆臣様は、毒味させたかっただけなんだと思う。そうじゃなきゃ、私を連れてくる理由がないし」
私の言葉に、男は深いため息をついてから私を見た。
「……俺、あの女に洗脳されてたんだろうな。華鈴様に治療されて、心も体も軽くなった。本当にありがとう」
「良い話みたいに笑ってるけど、お前が敵なのは変わらないぞ」
島のツッコミに、男は苦笑いする。
「……わかってる。悪かった。聖女様、忠告しておく。豆臣の領土には出るな。できれば城下町にも行かない方がいい」
「どうして?」
「あの女に魅了術でもかけられてんのかってくらい、尽くしたくなるんだ。会ったこともないお前を殺したいって思うくらい、な」
悔しいけど、久遠は確かに美人だ。魅了術がなくても、人を騙せそうな気はする。
でも、豆臣の女中や武将の一部が彼女に味方したのは……やっぱり術の可能性があるかもしれない。
「“豆臣の領土に出るな”はなんとなく分かるけど、城下町も?」
「ああ。あの女の息がかかった奴がいる。注意するに越したことはない」
城下町は、たまにぶらぶらしたくなる場所。でも、彼の忠告は私を守るためだ。
この広い城でも散歩くらいはできる。大人しくしておこう。
「忠告、ありがとう」
島と一緒に部屋を出る。ようやく一息つける……と思ったところで、おとねが小走りでやってきた。
「島様、華鈴様をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「用事は終わったから構わないが……何かあったか?」
「聖女様に会いたいと、人々が門を塞いでいるのです」
穏やかではないと、おとねは言った。もうその時点で嫌な予感しかしない。
しかも、私の顔を見るまで帰らないとまで言っているらしい。
「……このタイミングでかぁ。でも、迷惑かけるのは嫌だし、顔だけ出してくるね」
「華鈴様はいざとなれば戦えますし、大丈夫ですよ」
「戦わない主義です!」
――おとねとともに門まで来ると、門番が「もう少しお待ちください」と必死に対応していた。
門付近には黒い霧が発生している。まだ久遠の治療術が残っている人がいたのだろうか。
「私が聖女、華鈴です」
「こんの悪女が!」
名乗った途端、いきなり老人が悪態をついてくる。
「わっ」
おまけに小石を投げてきたので、咄嗟にスマートフォンを盾にして防御。私の動体視力、なめないでほしい。
……いや、そんなこと言ってる場合じゃない。
「悪女じゃなくて、聖女ですよ。おじさん」
「何が聖女だ! 久遠様は、お前に力を奪われたと泣いておったぞ!」
なぜか久遠の肩を持つ老人。隣では、突然泣き出す女性も。
「私は、貴方のせいで夫を亡くしました……」
話を聞けば、元は小さな国に住んでいて、豆臣との戦で夫が命を落としたらしい。
私がいなければ、起きなかったことかもしれない。そう思うと、やっぱり私は1人でいた方がいいのかも――そう考えかけた、そのとき。
隣で、おとねが満面の笑みを浮かべて女性を見ていた。
「おやおや、こんなところに密偵が」
「はっ!? ちょ、離して! 私は移り住んだだけです!」
「他国からの移住許可はしておりません。お話、聞かせてくださいね」
おとねは女性を担ぎ、「華鈴様も戻りましょう」と、空いている手で私の手を引く。
背後からは「まだ話は終わってない!」と怒号が飛んでくるけど、おとねは穏やかな声で言ってくれた。
「豆臣様にお話しましょう」


