戦虚空に転生したJK、聖女だからと武将たちに囲われそうになってますが?

 久遠を追い出した後、豆臣はよく攻められるようになった。だが、元々防衛に徹していたため、そこまで苦戦することはなかった。
 豆臣はそれを見越して固めていたのかも。もうこれは、さすがと言うほかない。
 
 なお、豆臣を攻めに来ているのは織田や徳海とは違って、まだまだ小さな国。
 その小さな国が、豆臣に「偽物を匿い、本物を蔑む愚かな国!」と怒りの矛先を向けているのだとか。
 絶対これ久遠のせいでしょ……
 落としやすい国に泣いて縋って、仲間に取り込んでいるのは考えなくてもわかる。
 久遠の父親――枯野終道が他の国と結託しようと奔走している話は、おとねから聞いている。きっと久遠もそれに同行し、国々を周って泣き落とししているのだろう。

「あの女は一体何をしたいのやら……」

 豆臣は手のひらにトンッ、トンッと扇子を叩きつけながらうんざりした表情を浮かべていた。
 石口は澄ました表情で、豆臣の問いに答える。

「こちらの戦力を削るためにけしかけているのではないですか」
「ま、半分はそうだろう。でも、あの女は本物の力を知っている。いくら攻撃したって意味がないことは理解しているはず」

 私の治療術で怪我が治る。確かにそれは知っているはずだ。と考えると、もしかしたら私の体力切れを狙っているのかもしれない。まあ、私は治療術を使っても疲れないんだけど。
 
「……ならば別の意図が?」
「僕はそう考えている」

 豆臣と石口は探るように言葉を交わしている。割り込むのはちょっと躊躇われるが、言っておいた方がいいだろう。
 
「あのー、もしかしたらなんですけど、私の体力切れ狙いじゃないですかね」
「それは僕も考えていた。貴女を目の敵にしているし。でも、あの程度の攻撃じゃ、怪我も難しいよ」

 「弱すぎる」とストレートに言い放つ豆臣。どんな状況か聞いても、「罠に引っかかって自滅した」とか「第一陣だけで追い払えた」など、楽勝だった話ばかりだ。
 全然と言っていいほど苦戦の話は聞かない。
 小さな国ということもあり、豆臣との戦力差は桁違い。さすがの久遠もそれはわかっているはずだ。
 だからこそ、豆臣は別の目論見があるのだと話す。

「戦いに乗じて華鈴を攫う、または殺すつもりなんじゃないかと、僕は思ったんだよね」
「めっちゃ怖いやつじゃないですか」

 私が顔を歪めると、豆臣は扇子を置いて私を見て笑う。
 おとねは相変わらず真顔だが、石口は"殺すつもり"という言葉に少しだけ反応を見せた気がした。
 豆臣はそんな石口を気にせず、言葉を続けた。
 
「この世界だとよくあることだよ。弱いものを蹂躙した方が簡単だから。と言っても、華鈴は力の使い方を覚えたし、一人にしても問題はないだろうね」
「それでもやっぱり怖いので、戦場に行く時はおとねさんを同行させて欲しいです」

 豆臣の側に控えているおとねを見つめるが、おとねは顔色一つ変えず静かに立っていた。
 豆臣はおとねを一瞥すると、軽い会釈をする。それを確認した豆臣は頷く。
 何? アイコンタクト? 私にだけ伝わらないやり取りって、なんだか怖い。
 
「それは構わない。こちらとしても、君の様子は知っておきたいしね」
「……監視ですか?」
「そんな堂々と聞く? 貴女は聖女確定だし、僕はただ貴女を逃したくないだけだよ」

 にっこりと満面の笑みで私を見た豆臣。安心させようとしているのか知らないが、逆効果だ。私には何かを隠している不穏な笑みにしか見えない。
 まあ……イケメンの笑顔ってだけで、目の保養にはなるんだけどさ。

 そんなことを思っていると、廊下から足音が聞こえてきた。
 足音は私達のいる部屋の前で止まる。

「豆臣様、ご報告がございます」
「その声、島か。入れ」

 島は言われた通り部屋へと入り一礼。
 懐から紙を取り出して、豆臣に手渡した。豆臣はその紙の内容を読み進め、島を見た。

「さっそく敵が忍び込んできた、と」
「はい。男は"枯野久遠に依頼された。絶え間なく豆臣へ兵を送っているから、偽物聖女の監視も手薄だろう。その隙にこの薬を飲ませなさい"と指示されたとのことです」

 島は紫色の小瓶を見せた。久遠がわざわざ飲ませろと言っているあたり、毒だろうか。豆臣は島から小瓶を受け取ると、ゆらゆらと揺らした。
 
「あの女、うちの兵力を舐めすぎじゃない?」

 イラッとしている豆臣。そして豆臣に同意するように、そこにいた全員が頷いている。
 もしかしたら久遠としては、もう少し粘ってくれると思っていたのかもしれない。
 
「ごもっともですな。……ところで、その薬はいかがいたしましょうか」
「これについては、その捕らえた男に半分だけ飲ませてみようか」
「わかりました」

 薬を眺めながらそう言った豆臣。
 あまりにもさらっとしていて、躊躇いがなさすぎる。
 島もまったく気にしていない様子だし、この世界って……やっぱり甘くないんだな。
 
 豆臣は小瓶を島へと返した。
 小瓶を受け取った島は、さっそく飲ませようと部屋を出ようとした。しかし、豆臣が「待て」と一言。
 不思議そうな表情をしている島。豆臣は、私を指差した。

「華鈴も連れていってくれ。せっかくだから、身をもって聖女だと教えてあげなよ」

 その時の豆臣は、いたずらを仕掛ける時の子供のように無邪気な笑顔だった。