戦虚空に転生したJK、聖女だからと武将たちに囲われそうになってますが?

 人がほとんど居なくなった広間で、豆臣はおとねに茶をもらいゆっくりとしていた。
 聖具について聞くなら今だろう。

「豆臣様、なんで私が聖具を持ってるの知ってたんですか?」
「そりゃあ、監視してたからだよ。薄々気づいてたんじゃないのかい?」
「まあ、はい。え、でも私布被せたりしてめっちゃ隠していじってたのに」

 うちの忍は優秀だからなぁ。と豆臣は軽く笑う。
 座椅子から立ち上がり、廊下まで歩く豆臣。廊下から空を見上げ、扇子で口元を隠した。
 まだ広間に残っていた石口と島へと振り向き、目を細めた。

「石口があの女を探すよう指示したけど、多分もういないだろうね」
「さっさとこの場の者を動かした方がよかったのでしょう?」
「うん、さすが石口だよ。僕は何も言っていないのにね」

 豆臣が島を見つめたかと思えば、島は立ち上がり広間の襖を一部を除き閉めた。
 そしてタイミングを見計らってきたのかおとねが数人、人を連れて入ってきた。
 その全員が久遠に治療してもらい、痛みに苦しんでいた人たち――いや、この人たちはまだ黒い霧を纏っている。私が先ほど久遠の前で治療した人と比べると、かなり霧が濃い。
 
 誰も私を見ようとせず、俯いていたり外の景色を見ていたりしている。
 豆臣は全員の顔を見た後、笑顔で言う。

「まず、謝罪をしてもらおう。あの女に手を貸したこと、華鈴を貶めたことを」

 その言葉を豆臣に言われた瞬間、呼吸を荒くする人が1人。指が上手く動かせない女中だ。

「も、申し訳ございません! あの時は久遠様によくしていただいて、家族も……そう、私の家族の治療までしていただいておりました。それもあって、華鈴様のよからぬ噂も信じてしまい――」
「誰が言い訳を聞いてやると言った? 僕は華鈴に謝れと言ったんだけど」

 いつもよりも低い声で豆臣は女中を見つめた。女中は「ひっ」と声をあげその場で土下座をした。
 土下座の方向は豆臣。それを見た豆臣はわざとらしく大きなため息を吐いた。
 気づいた女中はすぐさま私に方向を変え、「申し訳ございません」と震える声で言った。
 他に呼ばれた人々も女中に倣って頭を下げる。
 だがそれは私への心からの謝罪ではなく、豆臣の怒りを恐れての行動であることは一目瞭然だった。
 
「私自身、あなたたちに攻撃されて怪我をしたわけではないです。ただちょっと動きにくなった程度」

 視線が痛いこともあった。わざわざ私の近くで大きな声で悪口を言う人もいた。
 でも、ずっと私の近くには味方がいた。……まあ、全面的に信頼されていたわけではないが、脅威から守ってくれていたのは事実だ。

「だからって、今ここで赦すとか忘れるとか、そんなつもりはありません。ただ、私はもう、過去のことにばかり囚われるつもりもないんです」
 
 私の発言で赦されていると思ったのだろう、顔を上げ始める人々。すでに安堵しているような人までいる。気が早いものだ。
 石口と島が顔を上げる人々を睨むと、慌ててまた頭を下げた。

「ただ、自身の仕えている人に無駄な負担をかけていたことも事実ですよね」

 豆臣を見れば、豆臣は一瞬驚いた表情を見せたが、薄く笑い頷いた。

「ああ、華鈴の言うとおりだな。とはいえ、ここにいる者が唆されたことで、あの女の失脚が捗ったこともあるだろう」

 その言葉に誰もが許されると期待の眼差しを向けていた。
 だが、豆臣は不敵な笑みを浮かべ言った。

「僕が赦したとしても、口だけの謝罪は、神には届かないだろう」

 ◇

 霧を纏ったままの人々を追い出し、豆臣は息をつく。

「石口と島が刀を抜かないかヒヤヒヤしたね」
「俺としては斬り伏せてしまってもいいと思っていましたが?」

 石口は刀に手を添えて不機嫌そうに言った。たぶん豆臣に不義理な人たちに怒っているのだろう。石口はかなり豆臣を慕っているようだし。隣で島も大きく頷いている。
 そんな様子をおかしそうに笑う豆臣だったが、「殺生はよくないぞ」と二人の肩をポンポンと叩いた。

「華鈴」
「なんでしょう?」

 豆臣は私を真面目な顔をして見つめた。

「きっとあの女はまた何か仕掛けてくるだろう。文献の通りなら、貴女は聖女の力で攻防どちらも可能なはず。広い場所ならあるから、そこで力の扱い方を学ぶといい」
「ありがとうございます。……私ってやっぱり聖女なんですかね?」
「聖具もあるし、聖女で間違いはないだろうね。ただ、今回は本当に運が良かった」

 豆臣の持っている文献との一致が多く、豆臣としては疑う余地はないと言っていた。
 でも、他の国では別の情報が載っている書物があるらしく、他国でも聖女として認められるかはわからないそうだ。

「他国で聖女の力と久遠様の力が、一致する可能性があるかもってことですか?」
「そうだね。万が一そうなると、あの女が偽物を豆臣が匿っていると噂を流す可能性も考えられる」
「噂を流されたら何かよくないことでもあるんですか?」
「僕含め、"豆臣軍は嘘つきで偽物聖女を見せびらかしていた。神への冒涜だ"くらいは言われるんじゃないかな」

 私にはそれがどれだけ重いのか、さっぱりわからない。だが、こんなに理不尽に晒されてきた私を庇ってくれた人を、また理不尽に晒すわけにはいかない。

「早く手の甲の紋様を完成させて、神々しくなって見せますよ!」
「残念ながら紋様が完成したからと神々しくはならないぞ」
「真面目に返さないでください!」

 島の言葉に私は咄嗟に言葉を返したのだった。