戦虚空に転生したJK、聖女だからと武将たちに囲われそうになってますが?

 紋様を書き写し終わったのだろう。おとねと一緒に久遠が俯いたまま帰ってきた。
 おとねは心配する様子も見せず、久遠を席に座らせ豆臣へ紋様を写した紙を渡す――直前でどこからか黒い何かがその紙を掠めた。

「偽物だから慌てているのか」

 少しだけ燃えた紙を見つめながら、豆臣は気にする様子もなく紋様を確認する。その隣ではおとねが周りを警戒しつつ、豆臣の言葉に反応を返した。
 
「そうでしょうね。加えて紋様は人の手で黒く掘られているようです」
「ち、違う! 呪いを吸収したらそうなったのです! 信じてください!」

 慌てて訂正を入れる久遠だったが、豆臣の反応は極めて薄い。
 そんな塩対応でいいのか……
 というか私の時よりも冷たいんだけど、私も偽物だった場合あれくらい冷たい態度を取られるのだろうか。私は聖女だと自分で言ったことはないが、仮に偽物だった場合のことを考えると怖すぎる。

「そういえば、白ではない聖女に治療してもらって不調を訴えている者がいると聞いたなぁ」

 わざとらしくそう豆臣は扇子をまた開き扇ぎはじめた。久遠は何が始まろうとしているのかわからず、キョトンとしている。
 この後どうするのだろうと静かに眺めていると、豆臣と目が合った。目を細め口角を上げる。
 怖いって!

「そろそろ行きますよ」

 おとねに肩を叩かれ私は慌てて立ち上がる。
 
「もしかして今から不調な人全員助ける感じですか?」

 おとねは頷き、私が覗いていた襖を開けた。久遠は私が金平糖を片手に覗いていたことを察したのか、かなり不機嫌そうだ。せめて片付けたのを確認してから開いて欲しかったな。

「華鈴。誰が白ではない聖女に治療されたか……わかるかい?」
「わかります。治療していいんですか?」
「頼めるかい? そこから」

 指を差した方向は顔を青くしている男。遠征部隊で一番深傷を負っていた男だ。
 私が手をかざし治療をすると、みるみるうちに顔色は良くなっていった。その様子を見て私は安堵のため息を吐く。
 久遠の表情に、一瞬、動揺の色が浮かんだ。治療されたら困ることでもあるのだろうかと、私は眉をひそめた。
 久遠は豆臣を上目遣いで見つめ、自身の胸に手を当て言う。

「その女の治療など、不安しかありません。わたくしに治療をさせてくださいませ!」
「貴女に治療されてから不調を訴えていると、僕は言わなかったか?」
「きっとわたくしの後に何かしら呪いをかけたのですわ」

 そうは言うが、私は遠征部隊に近づかないようにと釘を刺されていた。また、豆臣や石口、島が部屋に頻繁に訪れていた時、私は他の人と関わるタイミングはなかった。
 
「では、華鈴の自作自演だと?」
「……ええっ! そうですわ! きっとそうに違いありません!」

 豆臣の発言に久遠は一瞬思考が止まった。だが、すぐに頷き嬉しそうに口角を上げた。
 こちらを見て勝ち誇ったような表情を見せたが、今の発言だけで勝ったと思うのはちょっと焦りすぎなんじゃないだろうか。

「残念だけど、やっぱり貴女を本物の聖女として扱えない。匿うのも今日迄とさせてくれ」
「なぜですの!? あの女の自作自演かもしれないのですよ!?」
「では貴女に見せてもらおうか。聖具を」

 唐突に言われた"聖具"。久遠は豆臣から視線を逸らす。
 だが、豆臣は気にせず「さあ、出せ」と手を出した。しかし久遠はたじろぎ声を震わせた。
 
「せ、聖具は、何者かに盗まれておりまして……」

 まだ言い訳をする久遠に、豆臣は「聖具が?」と眉を顰めた。
 チラリと私を見た豆臣。まるで私が聖具を持っていることを確証しているようだ。だが、一度もそんなものを見せていない。

「華鈴、貴女は持っているだろう? “からくり板”を」
 
 豆臣の問いかけに、私はそっとスマートフォンを取り出す。
 見慣れた黒いガラス板は、異世界の光を反射してどこか神秘的にすら見えた。
 それを見た豆臣は、目を細め静かに微笑む。
 その瞬間――
 久遠がを畳を蹴るように立ち上がり、私のスマートフォンに手を伸ばした。

「それはわたくしの聖具ですわ! この盗人!」

 次の瞬間、スマートフォンが眩い光を放ち――
 ふっと空中に浮かび、久遠の手から滑り落ちるようにして、私の元へと戻ってきた。
 
「っ……な、何……!?」
 
 久遠は、まるで手のひらが拒まれたかのように、震える指先を見つめていた。

「これで分かったかな? 聖具が盗まれることはあり得ない」

 私が思わず写真を撮ったのは、その"盗まれることのない機能"や"世界情勢を瞬時に収集できるアプリ"が入っていることだった。他にも色々と書いてあった気がするが、写真を撮っただけでまだすべては読めていない。

「金の紋様を持ち、光の癒しを授け、異界より来たりし者。これぞ、神の御使い」

 豆臣は、聖女について書かれた本を片手に、そう言って薄く笑った。
 
「加えて言うなら、貴女の背中の紋様――あれは呪術の類だ」

 なぜそれを知っているのか。久遠はそう言いたげに目を見開き、体を震わせた。
 さすがの久遠も言い返せないだろう。

「お前が、お前さえ現れなければ、わたくしが唯一無二の聖女だったのに……!」
「いや、そもそも聖女を名乗れる器じゃないだろう」

 呆れた表情を浮かべた豆臣。だが、聞こえていないのか久遠は私を睨み、一枚紙を取り出した。
 霊符というものだった気がする。なんかそういう、陰陽師系統の漫画で見た。
 そんなことを思っていると、島から大きな声で名前を呼ばれた。

「華鈴、避けろ!」

 久遠の手から、鋭く一枚の霊符が放たれる――
 私は反射的に、スマートフォンを掲げた。
 霊符が光に触れた瞬間、バチッと火花が弾け、その場で燃え尽きる。

「そ、そんな……っ!? この符が……焼かれるなんて……!」

 顔を青ざめさせた久遠は、次の霊符を足元に叩きつける。
 白煙が一気に広がり、視界を覆い尽くした――

「逃げたか。……まだ城内にいるかもしれない。徹底的に探せ!」
「はっ!」

 石口の号令で島やその場にいた人々はすぐさま行動へと移したのだった。