おとねに勧められて、隙間から広間を覗く。
上座にはもちろん豆臣。その側には石口。そして石口の背後には島が控えていた。
また、久遠側の方は、黒い霧を纏った人々が何人もいる。だが、怪我がぶり返したことは豆臣に口止めされているらしく久遠は知らない。
正直、あれだけ痛そうな表情をしているのに、気づかないものなのだろうか。
豆臣は扇子で口元を隠し、久遠を見つめた。
「白ではない聖女、貴女はたくさんの人を助けてくれたね」
「はい、もちろんですわ! わたくしは聖女ですもの」
豆臣に笑顔でそう言われ、久遠は意気揚々と頷いた。
豆臣は、そんな久遠を無視して話を続ける。
「貴女が助けたのは、今貴女の後ろに控えている遠征部隊や戦場で怪我をした一部の将。まあ、遠征部隊は僕が指示したことだけど」
「た、ただわたくしは、人数が多いためこちらにいる聖女様にもご助力願えればと――」
「そうだっけ? "なんで私がやらなきゃいけないの"と言っていたように思うのだけれど」
一瞬肩がビクッとした久遠。豆臣はその様子を見逃さない。だが、それでも久遠は取り繕い、冷や汗をかきながらも笑顔で豆臣に説明した。
「それは勘違いですわ! あの時は、わたくしもまだこのお城に来て間もなく、治療術ができるか不安で――それでお譲りしようかと思っていただけのことですわ」
「へえ、そう」
久遠の芝居がかった態度も、豆臣の前ではただの滑稽な仮面にしか見えない。
「わたくしはここに来るまでにも分け隔てなく皆を治療してきました。なので、力を使いすぎていたのですわ」
「うちに来てからは、階級の高い者ばかり治療をしていたような気がするんだけど」
「……必死に治療をしていたので、どのような方を治療していたのか覚えておりません」
申し訳なさそうに俯く久遠。それはまるで女優のようだ。
それに対して、豆臣は一度目を閉じ息を吐いた。
「覚えていない、ね。でも、報告を聞いた限りでは、自身で選んで治療しているように見えるが」
「申し訳ございません。本当に覚えていないのです。きっとわたくしに力をお与えくださった神の選別なのかと」
「報告によるとね、貴女は"なぜお前みたいな底辺のために力を使わなければならない"と追い返したとある。どれだけ暇でも」
「その発言は嘘ですわ! 確かに治療を拒んだことはあります。ですがそれは、力を温存をするためです」
これが"ああ言えばこう言う"というやつだろうか。部が悪いことはすべて私のせいにするつもりのようだ。今すぐ飛び出して平手打ちくらいしたいものだ。そんな私に、おとねは金平糖を渡し首を横に振った。
子供扱いされてる……。でも金平糖に罪はない。ありがたくいただこう。
「……埒が明かないし、ここはご先祖様を頼ろうかな」
豆臣が島に視線を送ると、すぐに一冊の本を豆臣に手渡した。
それは聖女に関して記された本。私に持ってきてくれたものと違い、かなり古ぼけた本だ。
それを見た途端、久遠は目を見開いた。豆臣が相手でなければ奪って証拠隠滅を図りそうな勢い。
「まず、紋様は見える場所にあると。だが、貴女は背中に紋様があると言った」
「背中の紋様は……あの女のせいで、助けた人々に呪いが出て、それを……それを払ったら浮かんできたんですの」
体を震わせて自身を抱きしめた久遠。目には涙が溜まっている。
大女優じゃん……
「本当は、もっと違う場所に出るはずなんですの。でも、私は“あの人たち”を見捨てられなくて……それで、たぶん……」
「ああ、そう」
最後まで聞かずに、聖女に関する本を閉じ、豆臣はため息を吐いた。
「そんなに気になるようでしたら、ここで紋様をお見せいたします!」
今にも脱ぎそうな久遠を周囲にいた者が止める。「離して! 身の潔白を!」と暴れる久遠に、豆臣は眉一つ動かさない。
「じゃあ、貴女の背中の紋様を誰かに書き写してもらおうか」
「それでは、そちらの女性をお願いいたしますわ! 他の女性ではあの女が操っているかもしれません!」
すかさず指名された女性。それは久遠に治療してもらい、指が上手く動かせない状態の人だ。
女性は自分を指名されるとは思っていなかったようで挙動不審。
豆臣は指名された女性を一瞥した後、久遠を見た。
「誰が決めていいと言った?」
「しかし、裸を見せる者は選ばせて欲し――」
「おとね、近くにいるだろう?」
「お呼びでしょうか、豆臣様」
私の隣にいたはずのおとねは、いつの間にかおらず廊下から広間へと入っていく。
全然気づかなかった……。きっとくノ一だからできることだろう。
おとねは、ずっと廊下に控えてましたと言わんばかりの表情。私もあのくらい堂々としていたいものだ。
「この女の背中にある紋様を書き写してくれ」
「承知いたしました」
おとねが久遠を連れて行こうとしたが、久遠は立ち上がらず豆臣を見つめた。
「こ、この方は本当に信頼に値するのでしょうか」
「当たり前だろう。一番信を置ける女だ」
食い下がる久遠に笑顔で言う豆臣。豆臣が「連れていけ」と言うと、おとねは久遠を軽々と担ぎ隣の部屋へと消えていった。
もっと簡単に全貌が暴かれると思っていた私は、なんとなく拍子抜け。
早く終わらないかな……。金平糖を口の中で転がしながら、そう思った。
上座にはもちろん豆臣。その側には石口。そして石口の背後には島が控えていた。
また、久遠側の方は、黒い霧を纏った人々が何人もいる。だが、怪我がぶり返したことは豆臣に口止めされているらしく久遠は知らない。
正直、あれだけ痛そうな表情をしているのに、気づかないものなのだろうか。
豆臣は扇子で口元を隠し、久遠を見つめた。
「白ではない聖女、貴女はたくさんの人を助けてくれたね」
「はい、もちろんですわ! わたくしは聖女ですもの」
豆臣に笑顔でそう言われ、久遠は意気揚々と頷いた。
豆臣は、そんな久遠を無視して話を続ける。
「貴女が助けたのは、今貴女の後ろに控えている遠征部隊や戦場で怪我をした一部の将。まあ、遠征部隊は僕が指示したことだけど」
「た、ただわたくしは、人数が多いためこちらにいる聖女様にもご助力願えればと――」
「そうだっけ? "なんで私がやらなきゃいけないの"と言っていたように思うのだけれど」
一瞬肩がビクッとした久遠。豆臣はその様子を見逃さない。だが、それでも久遠は取り繕い、冷や汗をかきながらも笑顔で豆臣に説明した。
「それは勘違いですわ! あの時は、わたくしもまだこのお城に来て間もなく、治療術ができるか不安で――それでお譲りしようかと思っていただけのことですわ」
「へえ、そう」
久遠の芝居がかった態度も、豆臣の前ではただの滑稽な仮面にしか見えない。
「わたくしはここに来るまでにも分け隔てなく皆を治療してきました。なので、力を使いすぎていたのですわ」
「うちに来てからは、階級の高い者ばかり治療をしていたような気がするんだけど」
「……必死に治療をしていたので、どのような方を治療していたのか覚えておりません」
申し訳なさそうに俯く久遠。それはまるで女優のようだ。
それに対して、豆臣は一度目を閉じ息を吐いた。
「覚えていない、ね。でも、報告を聞いた限りでは、自身で選んで治療しているように見えるが」
「申し訳ございません。本当に覚えていないのです。きっとわたくしに力をお与えくださった神の選別なのかと」
「報告によるとね、貴女は"なぜお前みたいな底辺のために力を使わなければならない"と追い返したとある。どれだけ暇でも」
「その発言は嘘ですわ! 確かに治療を拒んだことはあります。ですがそれは、力を温存をするためです」
これが"ああ言えばこう言う"というやつだろうか。部が悪いことはすべて私のせいにするつもりのようだ。今すぐ飛び出して平手打ちくらいしたいものだ。そんな私に、おとねは金平糖を渡し首を横に振った。
子供扱いされてる……。でも金平糖に罪はない。ありがたくいただこう。
「……埒が明かないし、ここはご先祖様を頼ろうかな」
豆臣が島に視線を送ると、すぐに一冊の本を豆臣に手渡した。
それは聖女に関して記された本。私に持ってきてくれたものと違い、かなり古ぼけた本だ。
それを見た途端、久遠は目を見開いた。豆臣が相手でなければ奪って証拠隠滅を図りそうな勢い。
「まず、紋様は見える場所にあると。だが、貴女は背中に紋様があると言った」
「背中の紋様は……あの女のせいで、助けた人々に呪いが出て、それを……それを払ったら浮かんできたんですの」
体を震わせて自身を抱きしめた久遠。目には涙が溜まっている。
大女優じゃん……
「本当は、もっと違う場所に出るはずなんですの。でも、私は“あの人たち”を見捨てられなくて……それで、たぶん……」
「ああ、そう」
最後まで聞かずに、聖女に関する本を閉じ、豆臣はため息を吐いた。
「そんなに気になるようでしたら、ここで紋様をお見せいたします!」
今にも脱ぎそうな久遠を周囲にいた者が止める。「離して! 身の潔白を!」と暴れる久遠に、豆臣は眉一つ動かさない。
「じゃあ、貴女の背中の紋様を誰かに書き写してもらおうか」
「それでは、そちらの女性をお願いいたしますわ! 他の女性ではあの女が操っているかもしれません!」
すかさず指名された女性。それは久遠に治療してもらい、指が上手く動かせない状態の人だ。
女性は自分を指名されるとは思っていなかったようで挙動不審。
豆臣は指名された女性を一瞥した後、久遠を見た。
「誰が決めていいと言った?」
「しかし、裸を見せる者は選ばせて欲し――」
「おとね、近くにいるだろう?」
「お呼びでしょうか、豆臣様」
私の隣にいたはずのおとねは、いつの間にかおらず廊下から広間へと入っていく。
全然気づかなかった……。きっとくノ一だからできることだろう。
おとねは、ずっと廊下に控えてましたと言わんばかりの表情。私もあのくらい堂々としていたいものだ。
「この女の背中にある紋様を書き写してくれ」
「承知いたしました」
おとねが久遠を連れて行こうとしたが、久遠は立ち上がらず豆臣を見つめた。
「こ、この方は本当に信頼に値するのでしょうか」
「当たり前だろう。一番信を置ける女だ」
食い下がる久遠に笑顔で言う豆臣。豆臣が「連れていけ」と言うと、おとねは久遠を軽々と担ぎ隣の部屋へと消えていった。
もっと簡単に全貌が暴かれると思っていた私は、なんとなく拍子抜け。
早く終わらないかな……。金平糖を口の中で転がしながら、そう思った。


