戦虚空に転生したJK、聖女だからと武将たちに囲われそうになってますが?

 島に連れられて城下町へ来た。
 わいわいと賑わう城下。ご飯屋さんとかアクセサリー屋さんとか。あるのはあるのだが、教科書で見たやつ? となってしまいどうも物欲が湧かない。まあ、お金持ってないけどね。
 
 島を見つけた民達は、その場でお辞儀をしたり物を押し付けて行ったり。
 その度にお礼と笑顔を忘れない島。

「てっきり怖がられてると思ってたのにっ――」
 
 民達が去った後、ふいに口から出た言葉に島は私を睨みつけた。私はすぐに謝罪をしたが、島は大きくため息を吐いた。
 
「まったく……」

 呆れ顔をしてスタスタと歩き出した島だったが、私と距離が開きすぎないよう時々後ろを振り向いてくれる。
 お腹が鳴れば、眉間に皺を寄せつつも私に問いかけた。

「腹が減ってんのか」
「あ、はい。すみません」
「ならこれでも食っていろ。握り飯だ」
「ありがとうございます」

 近くにあったお店で握り飯を購入し、それを私にくれる。
 わざわざ買ってくれるんだ……
 島を見上げると、なぜかバツが悪そうに口をへの字にする。
 
「勘違いするなよ。お前のためではないのだからな」
 
 仕方なくだと言っているというのに、隣の店の甘味処で団子を買ってくれた。加えて私が握り飯を食べ終わるまで持っていてくれた。
 甘いものまでくれるの? ていうか私が甘味処見てたのバレてたの? 一瞬見ただけなのに??

「……もしかして私が甘味処眺めてたの、見てたんですか」
「はっ!? 見ていない。ただ、女は甘いものが好きだろう? ただそれだけのことだ」

 「勘違いするなと言ったはずだ!」と周りの民が驚くほどに大きな声で島は私を睨んだ。
 私の方が食いしん坊に見えて恥ずかしいのに、島の方が私よりも顔を赤くしてしまっている。もう何も言えないじゃん……
 
 全ては石口様のため。石口様を裏切ることは許さない。と繰り返す島。
 そこまで言うのなら、この国を統治している人について聞いてみることにした。
 何も知らないのに石口を支持するなんてできないからだ。

「……なら、話してやる。俺の主――石口様が仕える、豆臣 禾吉(とうとみ のぎよし)様のことをな」

 島は少し嬉しそうに口角を上げた。私がこの国に興味を示したことが嬉しかったのだろうか。

「豆臣様は織田に属していたが、"目指すところが違う"と独立を宣言した」
「独立! 殺して乗っ取るとかじゃないんですね」

 そう言えば、島はドン引き。いや、大将首とって乗っ取るとかないの? 私はそういうイメージがあったんだけど違うの?
 
「お前……意外と物騒なことを言うな。独立宣言をしたが、織田は怒るどころか"正々堂々叩き潰してやる"と笑っていた」
「強者の余裕だ」
「豆臣様はその言葉に"望むところ"と返した。……けど、実際は他国にばかりちょっかいをかけている。俺としては、少々腰が引けているようにも見えるがな」
「でも部下は『きっと最後に織田の首を取るつもりだ』と思ってるってことですかね?」

 民達は「今は力を蓄えているんですよね」とか「最終決戦、楽しみです」なんて言っていた。
 私の推測は合っていたようで、島はそんなところだ。と少し呆れ顔を浮かべる。

「織田についてはとりあえず、豆臣様の仕えていた男だと覚えていればいい」
「わかりました!」

 島は、顔は怖いが民に慕われているし、得体の知れない私に空腹だからと食べ物を買ってくれる。
 悪い人ではないだろう。私は少しだけ安心した。
 
 ◇
 
 城下から戻り、次は城の案内。
 案内が終わる頃には昼を過ぎ、私のお腹が大きく鳴る。

「小腹が空いただけだと思っていたが、まさか飯を食い損なっていたのか?」
「え、食べてますよ? いつもこの時間にお昼食べてるのでそのせいかと……」

 可哀想な目で見ていた島だったが、昼も食べていると聞き眉を顰める。
 島の反応を見て、どこの時代かまでは忘れたが、二食しか食べていなかった時代があったことを思い出す。
 この世界では、昼にご飯を食べないのかも……

 私は少食な方だと自負しているが、三食食べるのが当たり前だ。
 だが、この世界にいる間は、二食前提ということになる。毎日のお昼頃に、この空腹と付き合わなければいけないのかと思うとテンションも下がる。
 ぐうぐうと鳴るお腹を指で押さえてどうにかしようと試みる。だが、止まる気配はない。
 島は不快そうな表情を見せた後、私をその場に置いて行く。

「そこにいろ」
 
 廊下に置いてかれた私はしゃがみ込み、お腹を抑える。
 恥ずかしいなぁとお腹をさすっていると、島は駆け足で近寄った。空腹で倒れそうなのかと思って慌てたみたいに見えた。

「ほら、これでも食べていろ」
「い、いいんですか?」
「お前に不自由はさせるなと石口様に仰せつかっている。遠慮はするな」

 先ほど島が急いで握ったのだろう、ちょっと歪な握り飯。私は空腹に耐えられず、それを受け取りすぐに頬張る。
 「美味しい」と呟くと、島は鼻で笑った後、優しい笑みで私を見つめてきた。

「私の時も今みたいに、優しい顔で接してほしいです」
「……烏滸がましいやつめ」

 自分がどんな表情をしていたか察した島は、咄嗟にムッとした表情に切り替えた。
 私は言わなきゃよかったと思うと同時に、自分の前でしかこの厳しい表情をしないのであればそれはそれで特別待遇だと思う事にした。

「まだあるぞ。食え」
「そ、そんなにたくさんは食べられませんよ!」

 二個目を食べ始めたところで島はまた握り飯をこさえ、私に押し付ける。
 それはまるで餌付けされているペットのようだったが、私はそれが少しだけ嬉しかった。