監禁生活、二日目。
戦が終わって早々に別邸へと通された。もちろん久遠に見つからないよう、私だけ先に別邸へ。
もう数日したら久遠も追い出せるだろうと言われた。ということは、私の知らない間に証拠集めが終わったのだろうか。
「暇……」
「華鈴様、はしたないですよ」
寝転がっていると、様子を見に来たおとねに呆れた表情で言われてしまった。
渋々座布団へと座り、用意してもらった茶と菓子をいただく。
……この苦味にも慣れてきたな。
そんなことを思いつつ飲んでいると、おとねが本を数冊私の目の前に置いた。
「これは?」
「聖女についての文献です。貴女になら見せてもいいだろうと、豆臣様から」
「読めってことね。まあ、力の使い方が分かるのならいい機会かも。ありがとうございます」
おとねは私が本を持ったのを確認してから、部屋から出ていった。
早速中身を確認してみるが、意外と読める。石口の字が汚かっただけ――これ、絶対口に出したら駄目なやつだ。
「華鈴」
「は、はいい!」
「? 何をそんなに驚いている」
「いや、ちょうど石口様のことを考えていて――」
「……は?」
あまりにも間が長く、低い声で返された。これは怒っているのだろうか。
「な、なんでもないです」
石口は、白ではない聖女の“治療”を受けた一部の者に、異常が現れ始めた――それを知らせに来たらしい。
例えば、足の怪我を治療してもらった男が足に痣ができたと。風が足に触れるだけで痛みが伴うのだと言う。
他にも女中が赤切れを治療してもらったそうだが、今は指を動かすたびに激痛が走ると訴えていると石口が教えてくれた。
「私が治してあげた方がいいんじゃないですか?」
私が立ちあがろうとしたところ、石口は私の腕を掴み、首を横に振った。
「まだ待て。他の者の発症を待つ」
「それは、苦しい思いをしている人をわざと放置するんですか?」
「ああ。純粋なお前には酷かもしれない。だが、これはお前のためでもある」
「私のため?」
石口が言うには、私のことを悪く言っていた人達なのだと。加えて、久遠が顎で使えるほどに久遠を信仰しているらしい。そのため、私を誘き寄せるための罠の可能性があることを教えてくれた。
「わざわざ苦しい思いをしてまで私を誘き出したいもんですかね」
「それだけの価値があると思わせているのだろう」
その後、邪魔したな。と石口は要件だけ伝えると、踵を返して去っていった。
「びっくりしたなぁ。口に出さなくてよかった」
――さて、読むか。
あらためて最初から読み進めてみる。
すると、そこには豆臣の発言通り、見える場所に紋様が現れると書いてあった。
聖女の紋様は金色。見えづらいのは仕方のないことのようだ。だが、使えば使うほど色は濃くなり完成されていくのだとか。
また、治療術を使うと眩しいくらい光る、と――
久遠はどうだっただろうか。
確か紋様は背中にあると影武者の情報で聞いている。どう考えても見える場所ではない。背中の開いた服装ならいけるが、流石にそれで見える場所は無理がある。
紋様の色は見ていないし聞いていないのでわからない。
他にも、治療術を使うと光るらしいが、私には久遠が黒い霧を放出しているのしか見えていない。こちらも私の肉眼ではわからない。
「これだけなら私が本物だと思うなぁ」
でも、治療術使っても紋様の色が濃くなった気はしない。人数が足りないのだろうか。それともまだ本物だと言うには弱いのだろうか。
手の甲を眺めてみるが、特に反応もなく、ただ、静かにそこに在るだけ。
「まさかシール……なわけないよねぇ」
手の甲を摘んだが、取れるわけもなく。ちょっと気恥ずかしくなって一人笑う。
「あれ、これって、もしかして――」
私は思わずそのページをスマートフォンで撮影して、誤って削除しないようにロックもかけて保存した。
◇
監禁生活――何日だっけ。五日目くらいだった気がする。
まあいい。
ついにこの日が来た。久遠が“聖女ではない”ことを、あの場で突きつけるのだ。
久遠の“治療”で悪化した人たちを、私が治す予定だ。
ただ、他のことは特に聞かされていないのでよくわかっていない。が、一応スマートフォンでちょくちょく情報自体は仕入れていた。
とはいえ、全貌までは把握できていない。どのようにして久遠を追い詰めるのか、気になるところだ。
久遠に気づかれないように遅れて本邸に行き、広間に隣接する控えの間で私とおとねは待機。
隣では久遠が豆臣に猫撫で声で媚を売っている。
「そろそろわたくしの名前を呼んでくださいませんか?」とか「どうして、あの夜はお越しにならなかったのですか?」とか。
なんというか、よく人が集まっている中で堂々とそんな話ができるな……。いや、人がいるからこそ、「私達はこんな仲です」と言っているのかもしれない。メンタル強いな。
そういえば、夜伽はしていないようだが、影武者はあの後どうなったんだろう。
豆臣は広間を隅から隅まで見たあと、手を一度叩いた。
「さて、役者は揃った。そろそろ白黒つけようではないか」
戦が終わって早々に別邸へと通された。もちろん久遠に見つからないよう、私だけ先に別邸へ。
もう数日したら久遠も追い出せるだろうと言われた。ということは、私の知らない間に証拠集めが終わったのだろうか。
「暇……」
「華鈴様、はしたないですよ」
寝転がっていると、様子を見に来たおとねに呆れた表情で言われてしまった。
渋々座布団へと座り、用意してもらった茶と菓子をいただく。
……この苦味にも慣れてきたな。
そんなことを思いつつ飲んでいると、おとねが本を数冊私の目の前に置いた。
「これは?」
「聖女についての文献です。貴女になら見せてもいいだろうと、豆臣様から」
「読めってことね。まあ、力の使い方が分かるのならいい機会かも。ありがとうございます」
おとねは私が本を持ったのを確認してから、部屋から出ていった。
早速中身を確認してみるが、意外と読める。石口の字が汚かっただけ――これ、絶対口に出したら駄目なやつだ。
「華鈴」
「は、はいい!」
「? 何をそんなに驚いている」
「いや、ちょうど石口様のことを考えていて――」
「……は?」
あまりにも間が長く、低い声で返された。これは怒っているのだろうか。
「な、なんでもないです」
石口は、白ではない聖女の“治療”を受けた一部の者に、異常が現れ始めた――それを知らせに来たらしい。
例えば、足の怪我を治療してもらった男が足に痣ができたと。風が足に触れるだけで痛みが伴うのだと言う。
他にも女中が赤切れを治療してもらったそうだが、今は指を動かすたびに激痛が走ると訴えていると石口が教えてくれた。
「私が治してあげた方がいいんじゃないですか?」
私が立ちあがろうとしたところ、石口は私の腕を掴み、首を横に振った。
「まだ待て。他の者の発症を待つ」
「それは、苦しい思いをしている人をわざと放置するんですか?」
「ああ。純粋なお前には酷かもしれない。だが、これはお前のためでもある」
「私のため?」
石口が言うには、私のことを悪く言っていた人達なのだと。加えて、久遠が顎で使えるほどに久遠を信仰しているらしい。そのため、私を誘き寄せるための罠の可能性があることを教えてくれた。
「わざわざ苦しい思いをしてまで私を誘き出したいもんですかね」
「それだけの価値があると思わせているのだろう」
その後、邪魔したな。と石口は要件だけ伝えると、踵を返して去っていった。
「びっくりしたなぁ。口に出さなくてよかった」
――さて、読むか。
あらためて最初から読み進めてみる。
すると、そこには豆臣の発言通り、見える場所に紋様が現れると書いてあった。
聖女の紋様は金色。見えづらいのは仕方のないことのようだ。だが、使えば使うほど色は濃くなり完成されていくのだとか。
また、治療術を使うと眩しいくらい光る、と――
久遠はどうだっただろうか。
確か紋様は背中にあると影武者の情報で聞いている。どう考えても見える場所ではない。背中の開いた服装ならいけるが、流石にそれで見える場所は無理がある。
紋様の色は見ていないし聞いていないのでわからない。
他にも、治療術を使うと光るらしいが、私には久遠が黒い霧を放出しているのしか見えていない。こちらも私の肉眼ではわからない。
「これだけなら私が本物だと思うなぁ」
でも、治療術使っても紋様の色が濃くなった気はしない。人数が足りないのだろうか。それともまだ本物だと言うには弱いのだろうか。
手の甲を眺めてみるが、特に反応もなく、ただ、静かにそこに在るだけ。
「まさかシール……なわけないよねぇ」
手の甲を摘んだが、取れるわけもなく。ちょっと気恥ずかしくなって一人笑う。
「あれ、これって、もしかして――」
私は思わずそのページをスマートフォンで撮影して、誤って削除しないようにロックもかけて保存した。
◇
監禁生活――何日だっけ。五日目くらいだった気がする。
まあいい。
ついにこの日が来た。久遠が“聖女ではない”ことを、あの場で突きつけるのだ。
久遠の“治療”で悪化した人たちを、私が治す予定だ。
ただ、他のことは特に聞かされていないのでよくわかっていない。が、一応スマートフォンでちょくちょく情報自体は仕入れていた。
とはいえ、全貌までは把握できていない。どのようにして久遠を追い詰めるのか、気になるところだ。
久遠に気づかれないように遅れて本邸に行き、広間に隣接する控えの間で私とおとねは待機。
隣では久遠が豆臣に猫撫で声で媚を売っている。
「そろそろわたくしの名前を呼んでくださいませんか?」とか「どうして、あの夜はお越しにならなかったのですか?」とか。
なんというか、よく人が集まっている中で堂々とそんな話ができるな……。いや、人がいるからこそ、「私達はこんな仲です」と言っているのかもしれない。メンタル強いな。
そういえば、夜伽はしていないようだが、影武者はあの後どうなったんだろう。
豆臣は広間を隅から隅まで見たあと、手を一度叩いた。
「さて、役者は揃った。そろそろ白黒つけようではないか」


