枯野のために結成された遠征部隊が帰って来た。ちなみに、枯野本人は自身の城へと戻っているらしい。
遠征部隊に大怪我を負っている人はいなかったようだ。だが、怪我は怪我なので、豆臣は久遠を呼んで治療をするように命令した。
なお、久遠は豆臣に呼ばれてウキウキで来た様子。またまた豪華な装いに匂いの強い香を纏っている。それなのに、治療と言われて顔を引き攣らせた。
「なぜ、わたくしがこの方達に治療をしなければならないのでしょうか」
「匿ってもらうかわりに、何かしようと思わないのかい? 流石に無償は他の者に示しがつかないよ」
笑顔ではあるのだが、豆臣は有無も言わさないほどの迫力で久遠を見つめていた。
久遠は追い出されるわけにはいかないのか、私を睨みつけてきた。
多分、なんでお前がやらないのか。と言いたいのだろう。そう言われても、私が決めたわけではないのだからどうしようもない。
だが、豆臣に無言で見つめられ、久遠は渋々治療を始めた。
その時に手から黒い霧状のものが生み出され、怪我人の傷口に入り込んでいく。
わずかに漂う黒い霧に、私は思わず口元を覆う。
「……っ! あの、島様。私、別のところにいても良いですか」
「それは構わないが……顔色が悪いな。俺が付き添おう」
近くで待機していた島に声をかけると、一瞬だけだが心配そうな表情を見せた。だがすぐに仏頂面へと戻り、豆臣と石口へ許可をもらいへと行ってくれた。やっぱり優しいなぁ……
島は私の体に触れることはせず、一定の距離を保ち部屋まで送ってくれた。
あの場から離れたおかげだろう、吐き気は治っていた。私の顔色が良くなっているのに気づいた島は、小さな声で問いかけてきた。
「あれか? 林殿の時に感じた黒い霧?」
「多分そうです。似たものを感じました」
島はそうか。と口元に手を添え、険しい表情を見せた。
「まだまだ調べる必要がありそうだな」
私を置いて廊下を歩き始めた島。だが、ピタッと止まったかと思えば、こちらを振り向き「お前は部屋でじっとしていろ」と釘を刺されてしまった。
ま、私もまだ疑われているんだろうし、大人しくしておくのが一番なんだろうな。
◇
いつの間にか久遠は一部ではあるが、女中や武将達と仲良くなっていた。私と仲良くしてくれていた女中まで、久遠と一緒にいるようになってしまっている。
相変わらず豆臣や石口に付き纏っては逃げられているが……。それを除けばかなり良好になっていた。
少し前まで嫌がられていたはずなのに、いったい何があったのだろう。
それとは逆に、私は豆臣や石口、島を部屋に呼び、よからぬことをしていると噂されている。
見た目の割に淫乱で見境のないヤバい女と誤解されているようだ。
確かに豆臣や石口を部屋で匿っていて、島はそれもあってよく部屋に来る。
だが、それはすべて久遠のせいなのだけど。誰かに勘違いされ吹聴されてしまったのだろうか。
面倒なことになったし、私も久遠のように誰かの元へ逃げてしまおうか。
畳に寝転がり、ぼんやりと物置部屋の天井を眺める。視線が痛いしあまり外を出歩きたくないな。
「ちょっと失礼」
「え、なんでこっちに来て――」
突然狭い物置に入って来た豆臣。隣の部屋で仕事をしてたんじゃないの!?
口は手で覆われてしまい、質問もできない。そんな中、廊下をドタドタと歩く足音が近くまで来た。
そして、廊下でその足音が止まった。
「ここがあの小娘の部屋?」
「はい、そうです。私見ちゃったんです。豆臣様や石口様、島様の三人がこの部屋に足繁く通う姿を」
久遠のせいで私の部屋を仕事場にしてただけです!
豆臣のせいで言い訳もできず、私はそのまま寝転がったまま黙っていた。豆臣は私の手を覆ったまま近くで座っている。
スパーン! と勢いよく襖を開けられた音が響いた。自分の部屋だが、今どうなっているのかわからない。書類とか置いてあったらヤバいのではないのだろうか。
豆臣を見ても久遠のことを気にしているのか私の視線に気づかない。
「あの女さえいないじゃない。しかも客間と変わらない何もない空間。……本当にこの部屋なの?」
「ここだったはずなんですが――。いえ、別の部屋だったのかもしれません」
「はあ、しっかりしなさいよ。与えた分、働いてちょうだい」
「は、はい!」
女中は賄賂でも貰っているのだろうか。あれだけ豪華なものを身につけていたのだから、少し与えたくらいでは支障がないんだろうな……
足音が聞こえなくなったところで、豆臣は私の口を解放してくれた。手で軽く抑えられているとしてもやはり息はしにくいものだ。
「危なかった。持ってくる物、最小限にしておいてよかったよ」
硯と筆が入った小箱、紙を片手に持ったまま、豆臣は息を吐いた。
「豆臣様だけでよかったです。あと二人もいたら流石に無理がありましたよ」
「あはは、そうだね」
隣の部屋へと移動し、豆臣は私の部屋を眺めながら言った。
「……それで、僕達のせいで変な噂流れちゃってごめんね。島にこっぴどく叱られたよ」
「謝罪は良いのでどうにかしてください。居心地が悪すぎて逃げますよ」
「それは困るなぁ。いっそのこと正妻か側室にしてしまおうか」
私の方へと振り向き、本気なのか冗談なのかわからない表情で、豆臣は私を見つめた。
遠征部隊に大怪我を負っている人はいなかったようだ。だが、怪我は怪我なので、豆臣は久遠を呼んで治療をするように命令した。
なお、久遠は豆臣に呼ばれてウキウキで来た様子。またまた豪華な装いに匂いの強い香を纏っている。それなのに、治療と言われて顔を引き攣らせた。
「なぜ、わたくしがこの方達に治療をしなければならないのでしょうか」
「匿ってもらうかわりに、何かしようと思わないのかい? 流石に無償は他の者に示しがつかないよ」
笑顔ではあるのだが、豆臣は有無も言わさないほどの迫力で久遠を見つめていた。
久遠は追い出されるわけにはいかないのか、私を睨みつけてきた。
多分、なんでお前がやらないのか。と言いたいのだろう。そう言われても、私が決めたわけではないのだからどうしようもない。
だが、豆臣に無言で見つめられ、久遠は渋々治療を始めた。
その時に手から黒い霧状のものが生み出され、怪我人の傷口に入り込んでいく。
わずかに漂う黒い霧に、私は思わず口元を覆う。
「……っ! あの、島様。私、別のところにいても良いですか」
「それは構わないが……顔色が悪いな。俺が付き添おう」
近くで待機していた島に声をかけると、一瞬だけだが心配そうな表情を見せた。だがすぐに仏頂面へと戻り、豆臣と石口へ許可をもらいへと行ってくれた。やっぱり優しいなぁ……
島は私の体に触れることはせず、一定の距離を保ち部屋まで送ってくれた。
あの場から離れたおかげだろう、吐き気は治っていた。私の顔色が良くなっているのに気づいた島は、小さな声で問いかけてきた。
「あれか? 林殿の時に感じた黒い霧?」
「多分そうです。似たものを感じました」
島はそうか。と口元に手を添え、険しい表情を見せた。
「まだまだ調べる必要がありそうだな」
私を置いて廊下を歩き始めた島。だが、ピタッと止まったかと思えば、こちらを振り向き「お前は部屋でじっとしていろ」と釘を刺されてしまった。
ま、私もまだ疑われているんだろうし、大人しくしておくのが一番なんだろうな。
◇
いつの間にか久遠は一部ではあるが、女中や武将達と仲良くなっていた。私と仲良くしてくれていた女中まで、久遠と一緒にいるようになってしまっている。
相変わらず豆臣や石口に付き纏っては逃げられているが……。それを除けばかなり良好になっていた。
少し前まで嫌がられていたはずなのに、いったい何があったのだろう。
それとは逆に、私は豆臣や石口、島を部屋に呼び、よからぬことをしていると噂されている。
見た目の割に淫乱で見境のないヤバい女と誤解されているようだ。
確かに豆臣や石口を部屋で匿っていて、島はそれもあってよく部屋に来る。
だが、それはすべて久遠のせいなのだけど。誰かに勘違いされ吹聴されてしまったのだろうか。
面倒なことになったし、私も久遠のように誰かの元へ逃げてしまおうか。
畳に寝転がり、ぼんやりと物置部屋の天井を眺める。視線が痛いしあまり外を出歩きたくないな。
「ちょっと失礼」
「え、なんでこっちに来て――」
突然狭い物置に入って来た豆臣。隣の部屋で仕事をしてたんじゃないの!?
口は手で覆われてしまい、質問もできない。そんな中、廊下をドタドタと歩く足音が近くまで来た。
そして、廊下でその足音が止まった。
「ここがあの小娘の部屋?」
「はい、そうです。私見ちゃったんです。豆臣様や石口様、島様の三人がこの部屋に足繁く通う姿を」
久遠のせいで私の部屋を仕事場にしてただけです!
豆臣のせいで言い訳もできず、私はそのまま寝転がったまま黙っていた。豆臣は私の手を覆ったまま近くで座っている。
スパーン! と勢いよく襖を開けられた音が響いた。自分の部屋だが、今どうなっているのかわからない。書類とか置いてあったらヤバいのではないのだろうか。
豆臣を見ても久遠のことを気にしているのか私の視線に気づかない。
「あの女さえいないじゃない。しかも客間と変わらない何もない空間。……本当にこの部屋なの?」
「ここだったはずなんですが――。いえ、別の部屋だったのかもしれません」
「はあ、しっかりしなさいよ。与えた分、働いてちょうだい」
「は、はい!」
女中は賄賂でも貰っているのだろうか。あれだけ豪華なものを身につけていたのだから、少し与えたくらいでは支障がないんだろうな……
足音が聞こえなくなったところで、豆臣は私の口を解放してくれた。手で軽く抑えられているとしてもやはり息はしにくいものだ。
「危なかった。持ってくる物、最小限にしておいてよかったよ」
硯と筆が入った小箱、紙を片手に持ったまま、豆臣は息を吐いた。
「豆臣様だけでよかったです。あと二人もいたら流石に無理がありましたよ」
「あはは、そうだね」
隣の部屋へと移動し、豆臣は私の部屋を眺めながら言った。
「……それで、僕達のせいで変な噂流れちゃってごめんね。島にこっぴどく叱られたよ」
「謝罪は良いのでどうにかしてください。居心地が悪すぎて逃げますよ」
「それは困るなぁ。いっそのこと正妻か側室にしてしまおうか」
私の方へと振り向き、本気なのか冗談なのかわからない表情で、豆臣は私を見つめた。


