戦虚空に転生したJK、聖女だからと武将たちに囲われそうになってますが?

 顔合わせの時からずっと、久遠は豆臣に色目を使っているように感じた。私がただそういうのに耐性がないだけかもしれないが。
 だが、隣の島が不愉快そうにしていたし、豆臣は貼り付けた笑みで対応をしていた。やっぱり普通ではないんだろうな。
 あれだけ美人でも、やっぱり下心丸見えだと萎えるみたいだ。
 

 久遠は、本当に匿ってもらいにきたのかと疑問に思うほどピンピンしていた。
 私の想像であれば、いつ徳海が攻めてくるかと恐怖し、部屋にこもっていると思っていた。だが、城に来てからずっと、豆臣や石口に構ってもらおうと必死に後を追っている。これがもう数日続いていたりする。
 その度に豆臣も石口も何かと理由をつけて遠ざけている。
 時々、私を使って逃げたりもするので、久遠にものすごく怖い顔で睨まれてしまう。勘弁してほしい。
 
 そうして逃げているうちに、なぜか私の部屋に豆臣も石口も避難している始末。
 久遠はどうやら私とあまり関わりたくないらしい。私に近寄ろうとせず、廊下でばったり会っても無視。かなりの嫌われっぷりだ。
 だから豆臣と石口にとって、私の部屋は安全ということになっている。
 面白いことになったなぁ。でも私の部屋、全然休めなくなったなぁ。

「夜、どうするんですか?」
「あの女が夜這いに来るのだから、帰れるわけないだろ」
「石口の言うとおりだよ。帰れないよ」
 
 石口はうんざりした表情をしているが、仕事の手を止めることはない。その隣では、疲れ果て畳の上で横になっている豆臣。どうやら今日も仕事中の二人の部屋に押しかけていたようだ。
 書類を持ってきた島は、豆臣と石口を見て、ため息を漏らした。
 
「だからと言って、妻でもない女の部屋にいつまでも入り浸っているわけにもいきません」
「……なぜ島は標的にされてないんだ?」

 横になったままの豆臣は、島を見てジト目だ。
 
「身分が低く、無骨な男は好きではないのでしょう」

 身分は正直私にはわからないが、石口の部下となれば豆臣と石口よりも身分が下なのは間違いないだろう。石口よりも身分の下の男は対象外なのかもしれない。
 だが、島は気にすることなく石口が処理した書類を集め束ね、豆臣には「そろそろ仕事してください」と茶と菓子を机に置いた。

「そうだ、島様の部屋に移動すれば良いんじゃないですか?」
「それも考えたが、島の部屋は駄目だ。巡回が入る」
「じゅ、巡回」

 ちょっと笑いそうになってしまった。
 私のところには一切来ていないが、島や他の人の部屋の前は絶対に通るらしい。しかも数時間ごとに。狐というよりも獲物を狙っている蛇なのかもしれない。
 
「だからここが一番安心して過ごせるんだ」

 ちなみに、私は身内用の部屋、久遠の部屋は客用として準備された部屋。
 ここに住んでいる者の部屋とはかなり遠くに設置されているらしい。だから私と久遠の部屋の距離もかなりある。久遠が私の部屋を誰かに聞いたり見つけない限りは安心ということだ。
 もちろん豆臣や石口、島との部屋と私の部屋の距離もかなり遠い。だが、女中がうっかり3人の部屋を教えてしまったらしく巡回しているのだとか。
 
「と、言ってもなぁ。そうだ、隣の部屋って空いてますか?」
「空いている。物置になっているがな。だが、お前がいないと隠れられないだろ」

 石口としては、誰か来た場合に対処するのをすべて私に任せたいらしい。
 流石に同じ部屋で寝るのはよくない。それなのにどうしても、久遠を遠ざけたいために私を利用したいらしい。

「隣の部屋と繋がってたりしませんか?」
「繋がってるよ。大体の部屋は隠し扉をつけてみたんだ」
 
 驚いた石口は、思わず豆臣を見た。
 
「隠し扉……そんなものまでつけていたのですか」
「遊び心ってやつだよ。知ってるのは僕と、建てた職人くらいかな」

 豆臣は悪びれる様子もなく笑っていた。
 それを見て私は手を叩く。
 
「じゃあ、私が物置で寝るので、この部屋で過ごしたらいいんじゃないんですか?」
「そうさせてもらおう。島、寝具持ってきて。絶対あの女に見つからないようにね」
「……今日のところは従いますが、あの女をいつまで匿っておくつもりですか? これでは仕事が滞ってしまいますよ」

 まだ数日しか経っていないのに、島はすでに限界が近そうだ。
 私のときより拒絶の色が濃いのは、きっと色仕掛けや仕事の妨害が目に余るからだろう。

「……まあね。まだ偽物と断定できないから、あからさまには追い出せないんだよ」
 
 豆臣は肩をすくめる。

「もちろん、それ以外にも引っかかる点はある。でも、それは……また別の日に話すよ」

 豆臣の目が少しだけ険しくなる。
 それを察したのか、石口も表情を引き締めた。
 
「豆臣様のご判断はいつも的確ですが、話せることは早めにお願いします」
「はいはい。確証が持てたらすぐ教えるから安心して。……それより、遠征部隊。そろそろ戻ってくる頃だろう?」

 私は初耳だったが、どうやら久遠が「父を助けて」と頼み込んだことで、豆臣が遠征部隊を組んで派遣していたらしい。その部隊がまもなく帰還するというのだ。
 
「はい、そろそろ戻るはずです。……まさか、その治療をあの女に?」
「うん。副作用の確認にはちょうどいい機会だしね。石口に人選は頼んであるから、安心して」

「それなら……良いのですが」

 遠征部隊の兵が実験体扱いされているような気もして、ちょっと可哀想に思えた。
 でも、ふと気づく。
 
 ……もしかして、私の時も“確認”されてたのでは?

 そんなことを思って豆臣の顔を見たが、穏やかな笑顔しか返ってこない。
 でもきっと、いや絶対、あのときも少しは私のことを疑ってたんだと思う。

 誰もが何かを隠しているように見えて、心が少しざわついた。
 そんな時、ふいに外から声がかかる。

「豆臣様、今よろしいでしょうか」

 現れたのは、島によると久遠と枯野を監視しているくノ一の一人だという。

「ああ、話せ」
「報告いたします。枯野終道――影で呪術師や民を集めております。使い道は不明ですが、どうやら“何か”を造ろうとしている様子。規模も、常人では制御不可能なほど大きなものと思われます」

 豆臣は手渡された報告書にざっと目を通すと、口の端をゆっくりと上げた。
 
「……枯野め。欲が深い上に、隠すのも下手だな」

 その笑みには、どこか楽しんでいるような気配があった。