戦虚空に転生したJK、聖女だからと武将たちに囲われそうになってますが?

 無事、徳海の勝利が決まった。
 だが、織田の時とは違い、徳海は忙しそうにしていた。

「すぐに枯野から話を聞いて方針を固めたい。だから、すまんがお礼は後日な!」

 そうして織田の時とは違い、すぐに私達は馬車に乗り真っ直ぐ豆臣の城へと帰ったのだった。
 また「うちに来ないか?」と言われると思って、念の為断りの言葉を考えていたが、言う必要がなくなって安心だ。

 城に帰り、すぐに私は石口の様子を見に行った。もちろん場所は知らないので島に案内してもらった。

「本来、未婚の女が男の裸を見ることは、はしたないとされるものだ。しかし、今回は傷や痣の確認のため――」
 
 渋々と言った様子で島は言い、最後に「余計なことするなよ?」と。
 余計なことってなんだと思いつつ、とりあえず頷いておいた。

「石口様、ちょっと確認したいことがあるんですけど、入っていいですか?」

 襖をノックするわけにもいかず、私は石口の部屋の前で少し大きめの声で言う。すぐに「入れ」と言葉をもらい部屋へと入った。

 お、今日は着物なんだ。しかもちょっと気崩してる。完全にオフモード? ……て違う違う。
 私は石口の容態を聞きにきたんだ。
 
「石口様、体の調子どうですか? 痛みがぶり返してきたとか、悪夢を見たとかそういうのは――」
「ない。副作用の話はすでに文で確認している」

 こちらを見ることなく筆で何かずっと書いている。鉛筆とかシャープペンシルとか、そう言うのがないのって不便そうだ。あのくねくねする筆先で文字を書くのが私は苦手だからそう思うのかもしれないが。

「怪我してたところ、見せてもらえませんか?」
「ほう、そうくるか」
「うん?」

 石口は躊躇うことなく上半身を晒し、私を見た。
 意外と筋肉あるな……。細マッチョというやつ――

「じゃなくて! なんでいきなり脱ぐんですか!?」
「お前が見たいと言ったのだろうが」

 羞恥心はないらしく、石口は上半身を晒したまま仁王立ち。
 
「少しくらい、躊躇いは……はあ、もういいや。それで、どこを怪我したんですか? 全然わからないんですけど」
「そういうことだ」
「どういうこと!?」
 
 納得いっていない私に石口は近づいてきて、怪我をした場所を一つずつ指を差した。

「ここと、ここ。あとこちらも斬られたな。……なぜ目を背ける。お前が見たいと言ったのだろう。しっかりと見ろ」
「ひえ……」

 筋肉フェチとかそんなものではないが、至近距離で筋肉を見せつけられて、正常でいられる女子はいるのだろうか。私は今かなり動揺しているし、ドキドキしている。
 とりあえず言われた箇所を見て、傷が残っていないことを確認した。これ以上は私が逃げ出したくなる。

「もういいです。わかりましたありがとうございました!」

 腰に落ちていた着物の上を、顔を背けながら慌てて着せて、襖を勢いよく閉め――ようとしたが石口に「待て」と襖を掴まれてしまった。

「これをお前にやる。織田のではなくこれを着けろ」

 手渡されたのは銀色で装飾の抑えられたかんざしだった。織田のものと比べると地味に見えるが、普段使いとしてはかなり良さそうだ。

「ありがとうございます」
「礼はいい。助けてもらった礼をしていなかったからな」

 そう言った後、石口はさっさと襖を締めてしまった。
 ちょっとだけむすっとしていた気がしたけど、気のせい……だよね。

 ◇
 
 豆臣の城で過ごすのも今日で一ヶ月くらい。
 豆臣は戦をせず、今は蓄え時だと言って防衛戦のみ。他の国は戦を頻繁に行っているみたいだが、良いのだろうか。そんなことを思っていると、一人の女が豆臣の城の門を叩いたと言う。
 聞いたセリフはこうだ。

「豆臣様……どうか、どうかわたくしを匿っていただきたく! 徳海様に反逆者扱いされて困っているのです!」

 門を叩いたのは、白ではない聖女と呼ばれている女だった。名前は枯野 久遠(かれの くおん)
 
 私も顔合わせの場に呼ばれてしまった。豆臣はまだ私と久遠を合わせたくないと言っていたが、さすがに礼儀的に顔を合わせた方がいいのかもしれない。
 
 部屋へ行こうと廊下を歩いていると、奥から香の強い風が吹き込むようにして現れた、黒髪を艶やかに結い上げた女。美人ではあるが、目つきは鋭い。それはまるで狐のようにも見える。
 私が初めて見る、異様なほどの豪奢をまとった女だった。
 髪には金の玉かんざし、絹のような生地の着物は遠目にもわかる刺繍の細かさ。
 鼻につくほどの香に、思わず一歩引いた私を見て、女はふっと笑った。
 
「ご挨拶もできないの? 白の聖女様?」
「あ、えっと、こんにちは? 私は華鈴です」
「あらあら、見た目と同様お可愛らしいこと。わたくしは枯野久遠。少しの間、こちらに滞在させていただきますの。仲良くしてくださると嬉しいですわ」

 どう見ても仲良くしてほしいという態度ではない。
 私のことを鼻で笑っている。鈍感な私でもさすがにわかるほどの嫌味ったらしさだ。

「はい。よろしくお願いします……」

 お辞儀をした時に手の甲の紋様が見えたのか、久遠の眉がわずかに動いた。

「なんですの、そのうっすい紋様は。まさかそれが聖女の証とでも言うのかしら?」
「知りません。治療術を使っていたら浮かび上がってきたので」
「あら、そうなの。聖女のくせに聖女のことを何も知らないのね」

 なぜか勝ち誇った笑みを浮かべる久遠。私は怒りよりも、なんて面倒臭い女なんだ……と思ってしまった。愚痴りたい気分だけど、愚痴れる相手がいない。
 一人でいきなりこんな世界に飛ばされて、友達もいない。少し寂しさを覚えた私だった――