戦虚空に転生したJK、聖女だからと武将たちに囲われそうになってますが?

 二回目の療治所。
 今回は豆臣と島、二人が私の近くで待機している。
 やることもないだろうに、二人はどう過ごすつもりなのかと思っていたら、豆臣は巻物を広げ、島は「周辺を見てくる」と出ていってしまった。
 自由だな。

 私はやることもないので、静かな空間で空を眺めていると、徳海が現れた。

「聖女さま、あの時はあまり話せなかったな。改めて、オレは徳海だ。今回は大きな戦だから、あんたがいてくれて助かるよ」
「華鈴です。よろしくお願いします。えっと、そんなに大きな戦なんですか?」
「お? あんたは聞いてないのか。オレのやり方が嫌いな奴らが結託して攻めてきたんだ」

 バレないように仲間を集め、タイミングを見計らい、今日決行したのだと徳海は説明してくれた。
 
「枯野――白ではない聖女の父親が一枚噛んでそうなんだよな」

 枯野 終道(かれの しゅうどう)。白ではない聖女の父親の名前らしい。
 表では徳海に良い顔をして取り入ろうとする。だが、裏では徳海を潰す、または打撃を与えるために人を集めていた、と。

「徳海が気づかなければ、白ではない聖女が付け入る隙もできただろう」

 巻物を読んでいた豆臣は、巻物を片付けながら会話に参加してきた。私の隣に腰をかけ、徳海に笑いかける。その時徳海は、苦く笑っていた。
 
「内側から乗っ取るとかですか?」
「恐らくな。オレ、あんまり政治とか得意じゃないから臣下に頼ってばかりなんだ。きっと白ではない聖女に嫁がせて主導権を握りたかったんだろう」
「そこまで考えられるのになぜ気づかなかったのやら」

 豆臣は持っていた扇子で徳海の額を小突いた。徳海は小突かれた額を撫で、怒る様子もなく「本当になぁ」と笑っている。
 徳海に対してチクチク言葉が多い気がするんだけど、もしかしてあんまり仲良くない……?
 でも、それならなぜ助けることにしたのだろう。利用価値があるから?

「お礼は木タ殿でいいよ」
「勘弁してくれ。あいつがいなかったらもうすでに徳海は没落していそうだ」

 どんだけ木タに頼ってるんだ徳海。と思っていると、療治所に二人現れた。
 島と木タだ。こちらもあまり仲良くないようで、二人して睨んでいる。
 空気が悪いから、私の前でくらい仲良くしてほしい。

 木タは徳海の側で足を折り口をひらく。

「徳海様、そろそろお時間でございます」
「そうか。出迎えご苦労。じゃあ、オレはこれで」

 木タはすぐに立ち上がり、徳海の後ろをついていく。
 二人が去った後、島は息を吐き豆臣を見た。

「徳海に味方する理由を聞いても?」
「ええ? 僕言ったよね? 恩を売るんだって」
「あれほど嫌いだとほざいていた相手に、ですか?」

 眉を顰める島に、豆臣は笑顔で頷く。
 
「そうだけど? そもそも僕の最終目標は織田を倒すことだ。それなら徳海だって使わないと」

 「お人好しはこれで、少しは僕のことを味方につけることを思考するだろう」そう言って目を細める。穏やかじゃないなぁ。やっぱり徳海に保護してもらった方が良かったり――

「僕の本性を知っても逃げ出さないでね。……逃げたら、追いかけたくなるから」

 思考を読んだように怖いこと言わないでほしい。

 ◇

 その後は必死に怪我人の治療をした。隣では豆臣と島が治療の様子を見て驚いていた。
 そういえば石口しか治療を見ていなかった。驚くのも当たり前だろう。
 だって手が光ったかと思えばみるみる傷口が塞がっていくのだから。
 治療待ちの列が捌けたかと思えば、木タに引きずられてやってきた男が一人。

「嫌だ! 治療は受けない!」
「何度言えばわかる! "白ではない聖女"じゃないと言っているだろう」
「どうせ一緒だろ!? あんな思いするくらいなら俺は普段どおりの処置だけでいい!」

 男は雑にこちらに放り投げられた。おまけに、木タの属性なのだろうか――地面から隆起した岩が、男の身動きを封じるように周囲を囲んでいる。
 治療を拒む相手をわざわざ助けるほど、私はお人好しではない。……が、木タは「治療術をお願いしたい」と無言で訴えるように、鋭い眼光をこちらに向けていた。
 私が嫌ですと言えるわけもなく、私は嫌がる男に治療術をかけた。
 変な方向に曲がっていた足は正常な形へと戻った。それを見て、先ほどまで苦しそうにしていた男は、足をさすり黙ってしまった。木タが岩を消すと同時に男は立ち上がり私を睨む。

「礼は言わねぇからな!」

 そう言い残し、男はまた戦場へと戻ってしまった。
 その様子を見ていた木タは私に頭を深々と下げた。

「かたじけない。以前白ではない聖女に治療してもらった後、副作用があったと言っていた者なのです」
「副作用、ですか?」

 そんなものがあるなんて聞いていない。最初に治療をした石口だって何も言っていなかった。
 まだ発症していないだけで、これから副作用に苦しめられてしまうのだろうか。

「いつ、どのような症状が現れるんですか?」
「早くて次日、遅くても七日の間には発症すると聞いています。症状は様々で、あの男は治療後、喉元が熱く腫れ上がり、飲食が困難となりました」

 人によっては悪夢。腹を斬られていた場合は何度も腹を斬られる夢。
 人によっては黒い痣。数日すれば痣は消えるが、その痣がある限り思うように動かせなくなるのだという。

「どうしよう石口様に何かあったら。いや、それもあるけど織田様のところの人達、どんだけ助けたと思ってんの? 顔向けできないよぉ……」

 頭を抱え、その場で身を縮めていると、島から私の頭を無理やり起こされまっすぐな目で見つめられた。
 
「落ち着け。石口様はお前に治療されてもう一週間は経っている。普段通りだっただろう?」
「で、でも言わないだけで苦しんでたとかは?」
「その時はお前を危険因子だとして殺すか牢屋行きだ」
「確かに、私を野放しにする理由ないですもんね……」

 ある意味人を殺すのに躊躇いのない人達で良かったのかもしれない。
 私の治療術は多分大丈夫、なんだよね?
 完全には安心できないが、ちょっとほっとした。その様子を見ていた島は、私の表情を見て頭を軽く叩いて離れていったのだった。