戦虚空に転生したJK、聖女だからと武将たちに囲われそうになってますが?

 ――何もない。草原のど真ん中に、セーラー服の女子高生がぽつんと一人。つまり、私。
 
 登校中、まさかのトラックに轢かれて、気がつけばこの世界。いやいや、テンプレ展開にもほどがあるでしょ?
 青すぎる空に、遠くには見慣れない大きな城。……え? こんな田舎っぽいところに城?
 周囲には誰の気配もなし。もちろん異世界あるあるの“案内役”もいません。
 神様も仏様もスルーですか!? 誰か! この可哀想な女子高生を拾ってくれー!
 
 ……私、華鈴。ちょっと歴史が苦手な普通の高校生。野宿の心得とかないし、このままだと死んじゃうかもしれない――

 
 いつまで待ってもお迎えは来なかった。だから仕方なく、前に進むことにした。
 バッグに入れていたスマートフォンを操作する。
 なぜか普通にネットに接続ができ、検索が可能。でも、私がお気に入りに入れていたブックマークはすべてなくなっている。

 他にも不思議なことは、自分で入れたアプリは消えている。
 代わりに見慣れないアイコンが表示されていた。それは火に包まれた地球儀のマーク。ちょっとダサいな……。中学生男子が好きそうなやつ。
 説明欄には「今さら聞けない、世界情勢がすぐわかる!」とあった。
 何が起こるかはわからないし、とりあえずアプリは放置。
 
 ひたすら歩いていると、時折落ちている血のついた弓や刃こぼれした刀を発見。
 これはマジのやつ? それとも近くでドラマの撮影でもしているの?
 
 小道具だったとしても良い気はしない。できるだけ視界に入れないように避けながら森へと入る。
 
 木々が密集している間を通り抜けている最中、キンキンと耳に響く音が聞こえてくる。他にも、発砲の音も響いている。草木が焦げた臭いが充満していて、ちょっとたじろいでしまう。
 しかもいきなり遠くで大きな音と共に地面が盛り上がって、茶色い壁が現れた。
 どう考えても撮影とは思えない!
 
 回れ右をして逃げ出そうとしたその時、倒れている男の呻き声が耳に刺さった。
 大木にもたれかかり、身体からバチバチと小さな稲妻が散っているのがわかる。雷にでも打たれたのだろうか。
 男は私を見て、怪訝そうな表情を見せた。

「死に際に変なものを見たな……妖か?」
「妖じゃないですけど!?」
「喋れる妖か。なんて不気味な」
「不気味!?」

 血生臭い男など無視だと思っていたのに、聞き捨てならない言葉に反応をしてしまった。男はさっきまで会話をしていたはずが倒れてしまい、虫の息。

「私の目の前で死なれたら寝覚め悪すぎるし……ちょっとなら良いよね」

 誰もいないことを確認して、私は男に治療術を使った。
 この世界に来てすぐに使えた治療術。擦りむいた時についた土汚れを手で払おうとしたところ、発動できてしまったのだ。
 
 持っていたハンカチで男の額の血を拭って、傷口が塞がっているかを確認する。

「大丈夫そうだね」
 
 見つからないように男をその場に放置して、私は走る。
 少ししたらきっと目を覚まし自力で戦場に帰れるだろうと期待して――
 
 ◇

「石口様、本当にこの面妖な女に助けられたのですか……?」

 石口五成(いしぐち いつなり)。私が助けた男の名前のようだ。
 スラっとした体型の持ち主で、戦えるのかと思うほど。戦場にほとんど立っていないではと思われるほどの色の白さ。
 面食いな私が目を奪われるほどの美形男子だ。

 その隣に控えている目つきの悪い男は、島 右近(しま みぎちか)
 こちらはほどよい筋肉を蓄えている。どちらかというと、女子よりも男子が憧れそうな佇まいだ。

 治療した石口を置いて逃げてものの数分後、捕まえられた私。
 「面妖な女!」「なんだあの格好!」と動揺する人々を無視して走り去っていた……のだが。
 ……いやいや、何が面妖だ! ただのセーラー服ですけど!?
 相手に向かってツッコミを入れたいところを心の中に留めて必死に走る。
 
 しかし、石口が「その者を無傷で捕らえよ!」と命令し、あっさりと捕まってしまったのだ。
 かなり大きな城にたくさんの部下らしき人々。私は厄介な人を助けてしまったのだと悟った。

「ああ、光の治療術が使える女だ」
「もしやこれがあの聖女だと?」
 
 島は信じられないものを見る目で私を見ていたが、私の纏っている服に目を落とし独り言を呟く。

「……まさかな。まるで“白の聖女”の言い伝えだな」
「白?」
「神託にあるんだよ。白き衣をまといし異世界者、傷を癒やし乱を収める娘が来る、と」

 なにそれ。と口から出そうになり、口を手で勢いよく覆った。強そうな人にタメ口を聞くところだった。

「だが――確か、すでに“白ではない聖女”が現れたと噂が立っていたはずだな?」
「はい、ありましたね。詳しいことはまだわかりませんが――」
 
 石口と島が眉をひそめ私を見ている。
 視線に耐えきれなくなった私は質問をした。
 
「あのー、私はどうなるんですか?」
「聖女は別の世界から来てこの乱世を治める者と言い伝えられている。衣食住はすべて揃えてやるから、その代わり天下創生のため力を貸せ」

 開口一番、「妖か?」と言いたくなるほどの見た目の女をよく住まわせようとするものだ。
 とはいえ、住む場所を提供してもらえるのはありがたいこと。
 しかし、乱世に協力するのは気が進まない。また、本当にこの人たちに力を貸して良いのか、私にはわからない。どうせなら国を良くする人に力を貸したい。

「えっと、ここに来たばかりで何もわかってなくて……もう少し別の国を見てからでも――」

 良いですかと言い終わる前に、島の迫力のある睨みが私に刺さる。それに気づいた石口は、島に「やめろ」と声をかけた。すると島は渋々と仏頂面に戻る。

「お前の言いたいこと、わからんでもない。俺達が信用に値するか、見定めたいのだろう?」
「は、はい。どうせなら良いなと思った人に力を貸したい、です」

 さきほど石口にやめろと言われたのにも関わらず、島は気にくわない様子で私を睨んでいる。
 だが、島をできるだけ視界に入れないよう徹し、とりあえず言いたいことは言ったぞ、と私は冷えた手を握りしめた。

「では、まずは城下町を案内してやろう。島、いいな?」
「は!? お、俺がですか?」

 とてつもなく島は嫌そうな顔を見せる。この数分程度でどんだけ私をそこまで嫌いになったんだ……
 ちょっと寂しい気持ちが湧いて出た。だが、絶対に自分を嫌いになる人間もいると聞いたこともあるし、気にしない方がいいかもしれない。

「承知いたしました。俺が、華鈴……様をお連れいたします」

 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべつつも、島に城下町の案内をしてもらえることになった。
 
 廊下を出て歩き出す島。背後に私がいるにも関わらず、「何が聖女だ。どこの国の女だかも分からねぇのに、石口様は甘すぎる」と小さく愚痴をこぼしている。
 そんなこと言われてもな……と思いつつ私は黙って島の背中を追う。

 私以外の聖女? まさか、私が偽物――って、あるわけないよね!? ラノベだったら私が本物じゃないと話進まないし! ……うん、きっと大丈夫。たぶん。
 
 ――このときの私はまだ知らなかった。
 この国の武将たちに、聖女として囲われる未来が待っているなんて。