「あっ、お兄ちゃんだー!」

子供たちが一斉に駆け出した先に立っていたのは――景文だった。

春の陽射しを浴びて、白い衣を軽やかに揺らすその姿。

「景文……」

私は、思わずその名を口にしていた。

景文は私に気づくと、にっこりと微笑んだ。

「お兄ちゃんって、やっぱり……景文だったのね。」

そう言うと、彼は小さく肩を竦めて、照れたように笑った。

「はは。せっかくの桃源郷だ。子供がいなくてどうする。」

そう言って彼は膝をつき、小さな子の頭を優しく撫でた。

もう一人の子の手を引いてくるくると回してみせる。

その姿はまるで、本当の父親のようだった。

私は、そんな景文の後ろ姿を静かに見つめた。

「……景文は、子供が好きなの?」

そう尋ねると、彼は子供たちの笑い声の中で少しだけ視線をこちらに戻した。

「俺は、一人っ子だったからね。」