「翠蘭様。」

「は……はい……」

「息子を……どうか、頼みます。」

涙が、止められなかった。

景文が、私の手をそっと握ってくれる。

――ようやく得た、家族の承認。

この一瞬が、どれだけ私の心を救ってくれたことか。

廊下に射し込む陽の光が、暖かくふたりを包んでいた。

「そうだとすれば、景文殿――」

静寂を破るように、王景殿の低く響く声が落ちた。

「あなたは、やらねばならぬことがおありだ。」

王景殿は、私の方をまっすぐに見つめた。

年輪を重ねた眼差しは、厳しさの中に、どこか温かさを含んでいた。

「こうなれば、皇帝陛下に妃を下賜いただくしか他あるまい。」

「か、下賜……⁉」

私は思わず息を呑んだ。

下賜――それは皇帝の持ち物や地位ある者を、家臣に“与える”という意味。

すなわち、私は「皇帝の妃」から「景文の妻」へと、公式に渡されるということになる。