「……ああ、すみません。今、人がいますので。」

慌てて寝衣を整えた景文が、静かに立ち上がり、扉を開けた。

すると、そこに現れたのは――威厳と優しさを兼ね備えた、一人の壮年の男だった。

その男は、景文の姿を一目見るなり、ふっと目を細め、そして扉の敷居の前に静かに膝をついた。

――この人が。
景文を育てた、父とも言える存在。
刺青をもつ子――皇帝陛下の落胤である景文を、血縁ではないのに引き取り、育ててくれた恩人だという。

「その方が、陛下の妃だという――翠蘭様か。」

王景の声が静かに響く。

私は寝台の中で、思わず息を殺して寝ているふりをした。

微かにまぶたを伏せたまま耳を澄ませる。

「……はい、父上。」

景文の声が応える。

その言葉に、胸がきゅっと痛んだ。

――父上。

陛下ではなく、王景殿を“父”と呼ぶその声が、どこか切なくて、遠く感じた。