今夜も、陛下の夜伽を務めなければならない。

私は陽の沈まぬうちから、湧き上がる涙を止められずにいた。

心が壊れてしまいそうだった。

景文に抱かれたぬくもりが、まだこの体に残っているのに。

そして夜。

身を清めようと浴場へ向かう途中、廊下の向こうからガタンと音がした。

「誰?」

思わず声を上げる。だが、その影を見た瞬間、息が止まった。

「翠蘭……俺だ。」

低く、懐かしい声。

「景文!」

私は走った。迷わず彼の元へ。

窓を開け放ち、その腕に飛び込んだ。

「生きていたのね……っ」

「当たり前だ。お前がこの宮にいるのに、死んでいられるか。」

その言葉に、涙がまたあふれた。

景文の腕が、迷いなく私を包む。

誰の目もない夜の風の中、ようやく私は、自分を取り戻せた気がした。

「改めて、俺の元に来い。」

景文は、真っ直ぐな瞳で私に手を差し出した。

その手が、あの日と同じ温もりを宿しているのがわかる。