胸が、きゅんと痛んだ。

怖い。でも、あたたかい。

景文は、それ以上何も言わず、身を離した。

「今日は、ゆっくりしていろ。屋敷の者には、そなたのことを“親戚の娘”と伝えてある。」

そう言って、軽く羽織を整える。

「……仕事って、まさか……宮殿に⁉」

私が声を上げると、景文は口の端だけを少し上げて答えた。

「ああ。何事もなかった顔で、な。」

そう言い残し、彼は扉の向こうへと消えていった。

日中。

景文の屋敷の中庭に出て、私はぼんやりと花を眺めていた。

水面に揺れる睡蓮。

梅と桃の花が並ぶように咲く、手入れの行き届いた木々。

控えめながら、どこか優雅な庭だった。

宮殿の庭園とは、規模も格式も違う。

けれど。

「……まるで、生きた桃源郷ね。」

風が優しく髪を撫でる。

ここで生きる。

それは、後宮の妃として生きることを捨て、ひとりの女として歩むということ。