昨夜。

「そんな男の元になんか、行くな。」

そう言ってくれた、あの言葉だけで――私は、もう救われていた。

だからこそ。

「……ありがとう。私を救ってくれて。」

そう言って、私は膳の前から立ち上がった。

そのとき――

「待て。」

腕を掴まれた。

振り返ると、景文がまっすぐにこちらを見つめていた。

その瞳には、迷いも、ためらいもなかった。

真剣なまなざしそのものだった。

「……あなたを巻き込むわけにはいかないの。」

「巻き込んでほしいと思ってる。」

「……え?」

私は立ち尽くす。

景文の目が、優しさでも同情でもなく――

“本気”で、私と生きようとしていることを語っていた。

「私は……戻っても、どうにでもなるわ。」

自分でも、震える声だった。

けれど景文は、静かに、はっきりと言った。

「――いや、ならない。」