そんなある日。

「――あのお妃様」

背後から、控えていた侍女が小さく呼びかける。

私は顔を上げ、問いかけるように視線を向けた。

「その……油が、切れてしまいました」

「……油?」

「はい。今宵から、火を灯すことができません」

ああ……ついに尽きてしまったのだ。

寝殿の灯りをともすための灯油すら、もう残っていない。

「金子は?」

そう尋ねると、侍女は小さく首を振る。

「前月で底を尽きました。補填の申請も通らず……」

「そう……」

皇帝に寵愛される妃には、たっぷりと褒美や衣が与えられると聞く。

豪奢な間取り、専属の侍女、香を焚く器に金箔の文房具。

なのに私には、灯り一つすら与えられない。

「これでは……」

私は唇を噛んだ。

これでは、田舎にいる弟たちに仕送りもできない。

学問に励むための紙も筆も、買ってやれない。

姉として、役に立てていると思いたかったのに。

指先が、ふるりと震えた。