約十年前────…

「じゃ、今日も俺の家集合な!」

「うん!」

私の名前は桧山 雫(ひやま しずく)

保育園の頃、隣に住んでいる犬神 五木(いぬがみ いつき)くんと遊ぶのが日課だった。

「うえええぇん!!いつきぃ…どこおぉ…っ」

「ここにいるっての!ったく…本当にお前は俺がいなきゃダメだな~」

家が隣通しということもあって小学生に上がってもそれは変わらず、自然的に幼馴染という関係になっていた。

でも、中学に上がってからその関係はガラリと変わっていってしまった。


中学一年生の春ごろ⎯⎯⎯⎯

「ねえ、いつきってば…!なんで無視するの!」

「うっせえ!ついてくんじゃねえよ」

学ランのポケットに両手を突っ込んでズカズカと廊下を歩く五木の後を追いながら、名前を呼ぶと

顔だけでこちらに振り向いた彼に、今まで聞いたこともないような低いトーンでそう言い放たれる。

つい、ピクっと足を止めてしまった。

その時初めて壁を感じ

怖いと思った。

彼が振り向くことは無かったし、その日を境に避けられ始めたように感じた。

次に彼に話しかけられたのは中2の家庭科の調理実習で

「ヘッタクソ、やっぱお前はだめだな~」

私が生地の焼き加減を間違え、黒焦げにしてしまったとき

本当に急に、話しかけられたと思ったら

焦がしてしまった生地に向かって指をさしながらそれはもう大笑いする始末。


それからだった。

彼はここぞとばかりに私のダメなところを見つけては嘲笑い、からかうようになって

気付けば、私自身も買い言葉に売り言葉、彼に悪態を着くようになっていた。


そんな関係が続いたまま、幸か不幸か同じ高校に入学が決まった。