ホール全体が軋むような低音を響かせ、床がわずかに揺れる。
光の壁に映し出されたミオの映像が、何度も途切れながらも必死に言葉を紡いだ。
「その端末……選ぶな……壊すな……“抜け出す”んだ」
「抜け出す……?」
美佳は眉をひそめる。
彩音が鋭い視線を向けた。
「そんな方法は存在しないはずよ。LAPISの管理下で……」
「あるんだよ」
ミオは彩音の言葉を遮る。
その声には迷いがなく、焦燥だけがにじんでいる。
「私が……そのためにここに戻ってきた」
純が目を細める。
「……お前、やっぱり“中”の人間だったか」
ミオは答えず、美佳にだけ視線を向ける。
「美佳、あんたが答えたアンケート──あれは単なる参加条件じゃない。
あれは都市の“核心”と同調するための認証だった。
つまり、今あんたは、この学園都市の心臓部と繋がってる」
美佳は思わず端末を握り直す。
心臓部──それはつまり、この世界そのものを動かす何か。
「でも、そんな繋がり……どうやって抜けるの?」
震える声で問いかけると、ミオは短く息をつき、映像越しに微笑んだ。
それはかつて電話で聞いた、あの優しい笑みに近かった。
「抜け出す方法はひとつ──“書き換え”だよ。
自分の記録を、自分で上書きする。そうすれば、この都市はあんたを追えなくなる」
「上書き……?」
彩音が顔をしかめる。
「そんな無茶な……もし失敗すれば、存在そのものが消える」
「それでもいいの?」
純の低い声が、美佳の心を刺す。
美佳は口を開きかけ、すぐに言葉を飲み込む。
消える──それは死よりも曖昧で、恐ろしい響きだった。
だけど、同窓会で笑っていたあの人たちを、誰かの“記録”に閉じ込めたままにはできない。
ミオの映像が再びノイズに包まれ、途切れがちになる。
「……場所は……旧校舎の……地下……“零域”……」
その瞬間、ホールの壁面全体が赤く染まった。
『警告──外部通信を遮断します』
ミオの姿は霧のように掻き消え、代わりにLAPISの紋章が冷たく浮かび上がる。
「……やばいな」純が低く呟く。
彩音はすでに動き出していた。
「零域に行くなら、急がなきゃ。封鎖されたら二度と入れない」
美佳は端末を握りしめ、深く息を吸い込む。
もう、立ち止まっている時間はない。
──選択肢は三つになった。
選ぶ、壊す、そして“抜け出す”。
その中で、美佳が取るべき道は……。
彼女は小さく頷き、純と彩音の後を追った。
背後でホールの扉が音を立てて閉ざされ、冷たい電子音が響き渡る。
光の壁に映し出されたミオの映像が、何度も途切れながらも必死に言葉を紡いだ。
「その端末……選ぶな……壊すな……“抜け出す”んだ」
「抜け出す……?」
美佳は眉をひそめる。
彩音が鋭い視線を向けた。
「そんな方法は存在しないはずよ。LAPISの管理下で……」
「あるんだよ」
ミオは彩音の言葉を遮る。
その声には迷いがなく、焦燥だけがにじんでいる。
「私が……そのためにここに戻ってきた」
純が目を細める。
「……お前、やっぱり“中”の人間だったか」
ミオは答えず、美佳にだけ視線を向ける。
「美佳、あんたが答えたアンケート──あれは単なる参加条件じゃない。
あれは都市の“核心”と同調するための認証だった。
つまり、今あんたは、この学園都市の心臓部と繋がってる」
美佳は思わず端末を握り直す。
心臓部──それはつまり、この世界そのものを動かす何か。
「でも、そんな繋がり……どうやって抜けるの?」
震える声で問いかけると、ミオは短く息をつき、映像越しに微笑んだ。
それはかつて電話で聞いた、あの優しい笑みに近かった。
「抜け出す方法はひとつ──“書き換え”だよ。
自分の記録を、自分で上書きする。そうすれば、この都市はあんたを追えなくなる」
「上書き……?」
彩音が顔をしかめる。
「そんな無茶な……もし失敗すれば、存在そのものが消える」
「それでもいいの?」
純の低い声が、美佳の心を刺す。
美佳は口を開きかけ、すぐに言葉を飲み込む。
消える──それは死よりも曖昧で、恐ろしい響きだった。
だけど、同窓会で笑っていたあの人たちを、誰かの“記録”に閉じ込めたままにはできない。
ミオの映像が再びノイズに包まれ、途切れがちになる。
「……場所は……旧校舎の……地下……“零域”……」
その瞬間、ホールの壁面全体が赤く染まった。
『警告──外部通信を遮断します』
ミオの姿は霧のように掻き消え、代わりにLAPISの紋章が冷たく浮かび上がる。
「……やばいな」純が低く呟く。
彩音はすでに動き出していた。
「零域に行くなら、急がなきゃ。封鎖されたら二度と入れない」
美佳は端末を握りしめ、深く息を吸い込む。
もう、立ち止まっている時間はない。
──選択肢は三つになった。
選ぶ、壊す、そして“抜け出す”。
その中で、美佳が取るべき道は……。
彼女は小さく頷き、純と彩音の後を追った。
背後でホールの扉が音を立てて閉ざされ、冷たい電子音が響き渡る。



