「ったく、共同作成ありだからって、レポートの資料の手伝いだのレポートを書くコツの伝授だのこんな遅くまでさせあがって…。」
俺はしぶしぶ陽斗のために集めた図書室や資料室にあった参考資料を返却ボックスに入れた。
「まじでサンキュー。今度なんかおごるわ!!」と締め切りは明日で、10ページ書かないといけないというのにこの陽斗の能天気さは一周回って尊敬したい。
辺りはもうすっかり真っ暗で、大学の寮に住む陽斗はパジャマ姿で鼻歌を歌っていた。
「っか今何時だよ。外真っ暗じゃん。」そう聞くと陽斗はお菓子を片手にスマホを開いた。
「えーと、1:05!!」
「この時間からカロリー高いもの食べるのやば。」
「まぁまぁ、気にしない気にしない♪翔も終電まで時間あるし食べてく??」そう誘惑する陽斗に「遠慮しとく」」ときっぱり断り大学の校門に向かった。
「も~。釣れないな。」そう不服そうに言いつつ、校門まで見送ってた。
駅までは歩いて大体十分ある。
夏のコーラスが響き渡り、月光があたりを照らしていた。「コーラス」といえば、俺はバンドサークルに所属している
陽斗もそのうちの一人で合計で4人。俺たちは今期の1年生の中でで一番最初にできたバンドグループだった。
バンドグループに所属するには先生方が趣味や経歴などなどで構成し、何回か演奏したり、話したりして異議がなければ、バンドグループができるというシステムだった。そのおかげか、卒業しても一緒に演奏したり、飲んだりしているグループが多いらしい。
そんなこんな駅に着くに来た時直前になると陽斗からメールが届いた。
『誠に申し訳ございません。俺のスマホ時間がなぜかずれてました・・・。』
即座にその意味が分かり、俺は全力で駅のホームに向かった。
プルルルル~♪
改札を出たときにはすでに、終電のチャイムの音がホームに鳴り響いていた。
猛ダッシュで階段を降り切るも、その時にはすでにドアが閉まってしまった。
ただ、おいて行かれるような感覚で俺はその場で何とも言えない絶望感に浸っていた。
そうすると、トントンと後ろから肩をたたかれた。
「松浦くんだよね、私たち終電逃しちゃったね。」そう落ち着いた声で話しかけてきたのは、バンド仲間の宮島だった。
正直驚きが隠せなかった。
「お前、今日早退したのに何でまだいるんだよ。ってか、体調は大丈夫なのかよ。」
「微妙なラインなんだよね。実は。」そう軽く微笑むと宮島は後ろの椅子にそっと腰を掛けた。
そういうと、『隣おいで』と席を軽くたたいた。
「微妙なラインってなんだよ。」
そう聞くと、宮島はもう一度微笑み、「松浦くんは優しいね。」と顔を向けてきた。
「どうゆうことだよ、っかこっちが聞いてるわけだし。」そう荷物を椅子横に置きながら言った。
「そういうところなんだよね。『微妙なライン』って言った時『ずる休み』って言わなかったからさ。」
そうどこか寂しそうに言う宮島のサマーカーディガンが風でふわりと揺れていた。
「じゃあ、逆に言われたことがあるのかよ。」
「まぁね、結構最近も言われちゃったんだよね。って、自分語りしちゃってごめんね!」
そう手を合わせる宮島の手は少しやせ細ってる気がした。
「お前、飯ちゃんと食ってるんかよ。」そういうと、「どこ見てるの!」と少し怒られた。
夏でも夜というのもあるが、気温が夏にしては低めの天気だった。
風がホームを遮るように吹いた。
「っ、シュン、ごめん!!」
「結局体調崩してるんじゃん。」そういうと全力で首を振るものの少し顔が赤いので嘘はバレバレだった。
「…。近くのホテルに泊まるか。」そう立ち上がると、「そっか。また明日!!」と手を振ってきた。
「いやいや、お前も行くんだよ、今一番今泊まらないといけない人だろ。もうすぐ雨降るらしいし、来い。」
「でも、泊まれるようなお金持ってないよ!!」
「俺がお前の分の部屋は払うから気にするな。」
「ますます申し訳ない!!一人で歩いて帰る!!」そういうが、女子一人で返すわけにもいかなかった。
「分かったよ。じゃあ、どっちかにしろ。黙ってホテルとまるか、俺がお前の家まで送るか。」
宮島の家は電車だと15分ぐらいの距離と前言っていたが歩きだと1時間は余裕でかかる距離だった。
「分かった。じゃあ、ホテルで…。今度ちゃんと返します。」
そんなこんなで、俺たちは駅前のビジネスホテルに泊まった。
「雨だけど、15階だってさ。景色いいといいな。」
エレベータに乗り、カードキーを宮島に渡した。
「悪いけど、部屋ほぼ満員みたいで隣だけど許せよ。」
そいうと、「全然!!ありがとう。」とカードキーを受け取った。
15階につき部屋に入る前、「おやすみ。」というと宮島は部屋の中に入ってってしまった。
とりあえず明日は幸いにも講義がなく、午後からバイトだったのでシャワーだけしてとりあえずベットにパソコンと一緒にダイブした。今現在取り組んでいる研究の統計レポートを1時間弱作成し2時過ぎに俺は寝た。
____________________________________________________________
朝起きて支度を済ませホテルのドアを開けるとそこには宮島がたっていた。
「おはよう。昨日はありがとうね。助かった。」
「体調は大乗か。」そういうと、少し間があいてから、軽くうなずいた。
「俺は今日講義ないけど、お前は?」エレベータにカードキーをタッチしながら聞いた。
「今日は午前だけ。昨日は遅くまでありがとう。明日は講義ある??」少し申し訳なさそうに訪ねてきた。
「まぁ、一応。陽斗に無理やり取らされた全学部共通ゼミだけど。」そういうと軽く微笑み、「明日ホテル代返させてもらうね。」
そういうと、エレベータをでて、カードを受付に返すと、宮島は軽く手を振るとホテルから小走りででていってしまった。
俺はひとまず近くの喫茶店でアイスコーヒーを買い、電車に乗った。太陽が雲から出てきて、一気に真夏の温度になってきた。
電車の中に取り付けられた風鈴の音が心地いい季節になったということは夏休み前のテストが近づいてきたということ。
(ぁあ、だりー。)
そう思いつつスマホを開くと陽斗から連絡が来ていた。
『翔・・・。データ吹っ飛んだ泣』
締め切り1時間前。ドンマイとしか言いようがない。
『だから、そういう時のために複製しとけって言ったのに。黙って教授の眠い補修受けるんだな。』そう返すと
『冷たいな~。』と返ってきたので、
『今日みたいな炎天下な日にはそのぐらいがいいだろう。』と返しといた。
気が付けば最寄りに着くころで、夏休みに行われる祭りの準備が始まっていた。
飲み終えたアイスコーヒーを捨て、駅から近いタワーマンションが俺の家だった。
親は二人とも医者をしていて、家にいることは少ない。俺は着替えて、リュックを部屋の机の横にかけてエコバックに必要なものを入れて少しレポートをまとめてから家を後にした。
俺のバイト先は楽器店。そこで楽器の修理のお手伝いやミニレッスンなどをしている。
おかげで、バイトを通して培った音楽の専門知識はサークルでも役立ってる。
店につき着替えて会計でスタンバイしていると、見覚えのあるポニーテールをした女性が入ってきた。
「誰かと思ったら、お前かよ、稲本。」そういうと真顔で「同じサークルメンバーとはいえ、客なんですけど。」と不服そうに言う稲本に、「この間言ってたシンセサイザー専用の音楽入力コードは向こうの奥の方。」そういうと、「覚えてなら最初からそう言いなさいよ。」とめんどくさそうにコード類コーナへと入っていた。
(こんなことならバイト先言うんじゃねかった。)
以前サークル、HENCEFORTHの奴らと結成打ち上げをしたときにバイト先の話になった。
宮島は本屋。陽斗はペットショップ。稲本はコスメ店らしい。
結構サークル長の先生が大学側に毎月申請して補助金を出してくれるとはいえ、グループでは足りても個人の機材のメンテなどには足りなかった。
そんなこんな、レジで在庫確認と売上高を計算してると、「よろしく。」と商品を渡してきた。
「今度集まる日来週だけど、夏休み明けの審査まで10回は最低でも練習したいんだけど。」
会員カードを片手で渡してくるリーダーも実は誰かさんと同じで補修組だった。
「お前はまず補修終えてからじぇね。非計画を直してからだ、今回の補修クリアしないと来週もあるんだろう。一応経済学部は提出来週だからな。」そういうと、何も言い返せなくなったのかそっぽを向いてしまった。
「ったく、しっかりしろ、リーダー。補修陽斗のやつと同じ武道室でだろ、まず今日の分クリアしてこい。」そういい、店限定のジュースを2本渡した。「片方は陽斗に渡しといてくれ。」そういうと、小声でお礼をすると店を後にした。
____________________________________________________________
気が付けば時はすでに夕方になっていた。
「松浦くん、あがってええぞー。」そういう店長さんに挨拶をし、店を出た。
ふと空を見上げると夕焼けがすごくきれいに彩らせていた。
(久しぶりに「あそこ」行くか…)
自分の家とは反対方向の目的地に向かった。
そこは少し遠くて海の近くにあるところで、俺の地元でもあった。
近くの花屋さんで、花を一束購入して神社の奥の方にある墓地へと向かった。
俺が今から会いに行く人がいるところは一番奥の海側のところにあった。
歩いて5分ぐらい、その場につくと今日は珍しく先客がいた。
挨拶をしようとしたとき、こちらを振り返った。
それはほかの誰でもない宮島だった。
お互い、「会いに来た奴」との関係性を疑うような様子だった。
「っ~と、奇遇だな。」と片手を首元にあてた。
軽くうなずき、少し目をそらすと宮島は、「ごめん!!」と走ってってしまった。
こういう時、俺は追いかけるべきなのか、そのままにしとくのが良いのかわからなかった。
でも、きっと「あいつ」ならー。
俺は気づいたときには追いかけていた。
「なんでだよ。お前何も悪いことしてないのになんだよ。俺なんかお前にしたか?」と宮島の鞄を引っ張っていた。
最初は少し抵抗していたけれど、ピタリと後ろ振り返って止まった。
「してない。してないよ。」そうつぶやく宮島は続けて、「びっくりしちゃっただけ、いきなり走り出してびっくりしたよね。ごめんね。」だんだんと暗くなる空の下で少し寂しそうにそう伝えてくれた。
俺は花を飾り置き、線香をあげた。
線香の煙が消えたときにはすでにあたりは暗くなっていた。
ここに来た時はすでに6時半過ぎだった。
そして今は7時。こっから駅まで30分弱歩かなければならなかった。
「お前は帰るの?」そうきくと、「帰ろうかな。もう暗くなってきてるし。何より明日フルで講義とってるから、」
「そう。じゃあ帰るぞ。」というと「え、あ、うん」と俺を追いかけ、俺の横に来た。
霊園をでても、特にお互い「あいつ」との関係性も聞くことがなく、特に話すこともなくただただ無言で駅に向かっていた。
聞こえるのは夏の風物詩のみ。そんな時、海の近くの花壇で、花壇用具のフェンスにしっぽが引っ掛かった猫がいた。
それに気づいたのか、宮島は小走りで猫のもとに駆け寄り、そっと引っ掛かったしっぽを直していた。
そうすると猫はお礼を言うかのように鳴き、後ろを一回振り返るとまた帰って行ってしまった。
「なんかあいつみたいだな、ドジなところ。」と思いが漏れていた。
宮島がこっちを見るなり、俺はとっさに、「わりぃ。」というと宮島は微笑んで「別に私は気にしないからいいよ。逆にいきなりまた走り出しちゃってごめんね。」と言ってくれた。
「いや別にそれはいいけど。」というと、宮島は「でも、松浦くんの言う通り、らしいよね。おちょこちょいなところ。でも、お礼は忘れないところ、似てるね。」と。
いつもなら名前という名の名詞をだす宮島だが、今あいつの名前を出さないのはあえての配慮なんだろう。
「だな。」そう話していると暑かったはずの夏の空気が海からの風で一瞬涼しくなった。
「明日の講義、頑張れよ。」そういうと、「頑張るありがとう。松浦君も明日講義あるの?」と聞くと、「陽斗の付き合いでな。」と言うと、「そっか、私も応援してるね。」とその会話でまた静けさが戻ったが、久々に凄い懐かしさを感じた。
____________________________________________________________
大学の講義室でスライドをいじっていると、陽斗が申し訳なさそうに土下座してきた。
その後ろにいたのは、稲本で、「なにやってるの。カツアゲ?こわ。」と講義室の廊下側の階段の上で足を止め、俺たちを見下ろした。。
「ちげーよ。こいつの時計の時間がずれてて、終電乗りそびれたんだよ。」というと、
「二人とも悪い。陽斗も最近遅刻ばっかしてるて聞いたしそれはそれで気付けという話だし、翔も翔で人に頼らず自分で確認しろ。」とうるさい親のように俺たち二人まとめて講義室にいる生徒の前で叱られた。稲本の母性本能にはうんざりしている。
怒られたばっかだというのに、駄菓子を片手にスマホを見るなり、「あれ、今13時??これ一限だよね、」という爆弾発言に稲本に「いい加減スマホショップでそのラグ何とかしてもらいなさい。」と怒られていたのはまた別の話。
そんなこんなで講義五分前になると、宮島も講義に応募してた模様。
「あ、ゆーちゃんも応募してたんだ!!」と陽斗が振り替えるなり、俺も軽く手を振った。
「最近よく合うねー。まあそれも、うちらの大学、全学部共通講義制度で講義副専攻とか関係なく受けれる制度あるからねー。別で副専攻で受けることもできるけど。もう大学始まって3か月半たってるけど結構講義とかでも同じになってるよね~。ゆーちゃん隣おいで!!」と今更驚きももしないが、俺と話すときの態度とは180度真逆。
「萌絵ちゃん!ありがとう。」と横に座るなり筆記用具を出しながら、女子特有の女子トークをし始めた。
人気の洋服だの、流行ってるテレビ番組だの、よくわからない話をし始めていた。
気が付くと先生が教壇に立っていて、講義の準備をしていた。
それに気づいたのか二人の会話は息を合わせるかのようにピタリと止まり、ノートを開き始めた。
俺と陽斗はその2人を上の段の机から様子をうかがっていた。
相変わらず陽斗は横でPCで動物特集の記事を読んでいた。
今回の講義は『現代の音楽・美術がもたらす影響』という内容で、おそらく宮島は心理学部でとっていて、俺たちは「音楽」に反応したのだろう。
一コマは90分前後。
開始10分もたたないうちに稲本は爆睡。陽斗はワイヤレスイヤホンまでして動物の動画を見始めた。
周りもちらほら稲本&陽斗現象が起きていて、ちゃんと真面目に受けてる生徒は少なかった
眠い教授の講義を聞きながら、同時並行で配布プリントの内容までノートにきれいにまとめていた宮島のノートは教授のノートそのものだった。俺はどちらかというとノートは使わない派で、プリントに軽く買い込みをするのみ。けれど、これはサークル活動の時にも出ていて、宮島は自分のパートだけではなくほかのメンバーのパートまで覚えてるようなメンバーだった。
だからこそ、宮島に甘い稲本にも納得がいく。稲本は気が済むまでやり通すタイプだった。けれども、なぜその性格を単位に生かせないんだか。
そんな中教授は両者の伝統や歴史、技術などそれが人間や動物にどのような影響を与えるかなど、映画館のスクリーンに埋りそうなぐらいの板書を書いていた。
そんな講義も終盤になり、「ほんじゃ、来週テストするから準備しとくように。」というと教授は帰ってしまい、予定より10分早く終わった。
みんなが片付けはじめ、会話でざわざわする中、まだまだ二人は自分の世界に入り込んでいた。
宮島は稲本を起こすのにオロオロしていたが、隣で動画見ている陽斗はほったらかして講義室を後にした。
そのあと陽斗いわく動画を見終えて講義室の時計を見たら次の講義開始まで1分で猛ダッシュで移動したんだとか。
稲本に関しては宮島がギリギリまで寝かして起こしたらしい。
俺は次の講義は空きコマだったため、サークルで演奏する予定曲の導入部分の練習をするべく部室へと向かった。
部室に前もって置いといたペースをアンプに接続し弦のチューニングをしていると、後ろドアが開く音がした。
「あ、松浦くん。」と宮島が入ってきた。
「今この間のホテル代返しても大丈夫かな??ごめんね、本当はあの時返せたらよかったんだけど…。」という宮島に「1週間以内に返してくれてるわけだし気にするな。」というとわざわざご丁寧に封筒に包まれてた状態で渡してきた。
「そういえばお前で今日の講義フルで取ってたんじゃなくて?」そうチューニングに戻りつつ聞くと、
「休講になっちゃったんだよね。だから二コマ分空いちゃったんだ。」と言ってきた。
「私もここで練習していっても大丈夫?」と尋ねてくる宮島に「部室だし、そういうの気にする必要なくね。」そういうと「ありがとう。」というと後ろにかけてあったギターを弾き始めた。
♪~♪~
その音は一音一音はっきりしているけど、滑らかだった。
「お前ずいぶん手馴れてるよな。ギターサークル入って初めてやったんだろ?」というと宮島はあわてて後ろの棚からヘッドホンを取り出して、「ごめん!邪魔しちゃってたよね!!」といいギターにつなげようとする手を止めて、「別にそんままでいい。で、お前も予定曲弾いなら合わせようぜ。」というと「わかった」といいアンプにつなげていた。
「どこまでお前練習したんだ。やっぱりすべて?」と問うと「まぁ、一応。」とのこと。
「俺は1サビまでしか練習できてないけどそこまででもいいか。」と聞くと、「全然いいよ。」と言ってくれた。
「松浦くんと二人だけでの演奏は初めてだね。」と言ってくる宮島に俺は「そうだな。」と答えた。
「じゃあ、やるか。」とメトロノームをセットし、俺が合図をすると即座に前奏を弾き始めた。
俺は前奏が始まって少し後に入る。
この前奏の不協和音を生かしてサビに入るという少し難しい曲となっていた。
サビも弾き終え、俺は一息つき、宮島は講義の確認をしていた。
「そういえば、他のバンドメンバーの奴は知らないみたいだけど、お前って高校の時ピアノで賞を取ったって聞いたけど、なんでシンセサイザーにしなかったの?最初サークルに入ってメンバー構成する前に選べたけど。」
「それ誰から聞いたの??」と少しびっくりした様子で聞いてきた。
「「あいつ」から。」
「そっか。聞いたんだ。」という宮島が続けて話してきた。
「少し長くなるけど、いい?」と聞く宮島に少し話しにくいことを聞いてしまったのかと思いつつ、
「俺は別にいいけど、言いたくなかったら話さなくてもいいけど。」というも
「別に松浦くんには隠す理由ないからいいよ。」と
「もともとはさ、この前濁すように駅で言っちゃったけど。」
「私元々は中学生後半~高校生の時は不登校の繰り返しだったんだよね。平熱は低い方だけど、とある日の朝微妙にぼーとしたり、体調悪くて、朝起きれなくなって。親は医療機関で働いてて幸い理解もあって。いわゆる『起立性調節障がい』ってやつなんだけどね。でも、忙しくて常に家にはいなくて午前中は本を読んだりしてたんだよね。頑張って最初の方は学校行ったりしてたけど、結局早退したりになっちゃって。みんなからは「ずる休み」とか「注目が欲しいだけ」とか言われるうちに本当に外に出ることすら怖くなったんだ。」
「でもね、」
「そんな時私に声をかけてきてくれたのが、他の誰でもない」
「音羽、だったんだよ。」
「いつも学校終わりに連絡帳をポストに入れたりしてくれてたんだ。でも、一回だけどうしても受け取らないといけない荷物があって、時間になっても来ないからドアを開けたらね。目の前にいたんだよ。」
「その時目が思い切りあっちゃって、でもすぐに笑顔で話しかけてくれて、おまけに給食の残りのプリンまでくれて。」
「そっからだったんだ、音羽と仲良くしてもらったのは。」
「その日から毎日付箋に手紙が書いてあって。特に学校のことは書いてなかったんだけど、好きなものとか。」
「結局中学校はまともに行けなかったんだけど、土日とか午後に一緒に家で遊ぶにはなって、その時ピアノを一緒に弾いたりしたんだ。」
「でも、まさか高校に上がって、音羽が私みたいにみんなから嫌なことされたり、言われたりするとは当時は知らなかったんだ。私の時よりひどい、本人にしかわからない形でのことだったんだ。」
「でも、中学生の時助けてくれた分今度が力になりたい。そう思ったんだ。」
「でも、それはできなかったんだ。」
「とある日いきなり、「嫌い、私コンクールでないから、後は好きにやって」って言われて、その場で眼鏡壊されたんだけど。」
「でもその時私普段ならまたかって何とも言えなくなるけど、その時はなんか私がまた中学生の時みたいにみんなを不快な思いにさせちゃったのかなって思って。その時にはさ、一緒にピアノコンクールでよう!ってきまってて、音羽は私をさ、ずっと引っ張ってくれてたからさ、どうしたらいいのかわからなくなったんだ。」
「でも、そのコンクール曲は一緒に作った曲なんだ。でも、せっかく一緒に作ったからには弾きたかったんだ。」
「音羽は当日風邪でお休みになっちゃったんだけど、やるからにはやりたいって思って。幸い優勝できたんだけど、」
「でも、その次の日謝りもかねて家言った時に言われたんだよね。」
「音羽が自ら…って。」
「親御さんはその後「音羽と仲良くしてくれてありがとう」って」
「その日から私はピアノを弾こうにも、弾けなくなった、というよりは弾かなくなったんだ。弾くなら仲直りしていつか一緒に弾きたい。そう思ったんだ。だからその日まではギターにしようかなって思ったんだ。音羽が気持ちをメロディーに乗せてくれたように、私もその気持ちを天に届けたい。思いのこもった曲を届けるにはどうしたらいいかなって思って。結局あの一件から、高校は通信に切り替えて、色々なことを考えたんだ。その時に、心理学を勉強すれば音羽があの時そう言った理由がわかるかなって、高校生の時一人で弾ける楽器で思いついたのが持ち運びできる利点があるギターで、思いのこもった曲を空の下で弾けるかなって。」
「それが理由かな。」
というなり、「そろそろ次の講義があるから行くね。」というので、「今日放課後家来てくれ。あとで住所送る。」
動揺するなり、「わ、わかった!!」と出て行った。
あいつは知らないのだろう、俺があいつの実の兄でそして親が離婚して、旧姓戻っていることを。
____________________________________________________________
ピンポーン~♪
夕方になり家のインターホンがなり、開けると宮島が菓子を手にドア前に立っていた。
「お邪魔します。」とリビングに着くなり、手土産の菓子をわたしてくれた。
「別にそういうの気にしなくていいのに。俺の部屋そこの手前だから入って待ってて。」というと「え、あ、うん」と部屋に入っていった。
俺は部屋に入るのを確認すると、リビング下の鍵付きの引き出しから手紙を一通取り出した。
これをあいつに渡す、というあいつからのお願いを果たすという心の準備をしつつ、再度鍵を閉めた。
部屋にはいるなり、俺はそっと手紙を宮島の目の前にあるちゃぶ台に置いた。
「???え、どういうこと、、、???」と聞いてくる宮島に俺は、「驚かないで聞いてほしい。」
「親は離婚して旧姓になって、分け合って引っ越してきたここでも、一緒に生活しているが、」
「音羽は俺の実の妹だ。別に悪く思うな。」
「まぁ、俺が何か言うよりまず手紙、読んでやってくれ。」と俺は部屋の外に出た。
俺はあいつのこと実は前から知っていた。
本来ならすぐにでも渡したかった手紙。
ようやく渡せたと思うと同時に兄としての役割がこれで終わってしまうということ。
けれど、ようやく渡すことができたぞ、音羽。
俺は家の中から見える夕日をリビングから見ていた。
___________________________________________________________
「…。」
いきなり目にする現実。
どういう言葉で表したらいいのかもわからない。
でもまず、私はそれを受け入れるしかなかった。
久しぶりに見る音羽の筆跡。
白い封筒に包まれている手紙。
そっと持ち上げ、私は手紙を取り出した。
当時の音羽の部屋のフレグランスぽい匂いをほんのりと感じた。
『優へ
この手紙を見てるということは、そういうことなんだ。
何も言わずにおいていっちゃってごめんね。
多分これを渡すにはお兄ちゃんだと思う。
お兄ちゃんいるんだよ!!びっくりでしょう!!
そしてなにより先に言いたいことは、あの日言ったことは嘘なんだ。
本当は優のこと大好き。大好きなんだ。たくさん遊んで、一緒に話して、やっぱあの日のこと嘘なんか言わなきゃよかったって。怒ってないよって。
優に嫌われたら、やっぱり嫌。私も嫌な思いのままは嫌だ。しかも、不安にさせるようなこと言っちゃったなって。でも、私にはには直接言う勇気がなかったんだ。
でも、そんな中私たちの曲を弾いてくれてありがとう。優勝おめでとう!!
やっぱり、優の曲は思いがこもった素敵な曲なんだよ♪私は優の曲も歌声も優しいところも全部大好きだよ。
本当に大好き!!たくさん仲良くしてくれて、変わってるところが多かった私だけど、それを受け入れてくれて、ありがとう!!
私のわがままだけど、優のことだからピアノ弾いてないんだろうなって思う。ピアノは優が嫌で嫌いじゃない限り、弾いて、これからも色々な人に届くように奏でてほしい。
何回も言うけど、優のことは大好きだし、ありがとうじゃ伝わらにぐらいお礼を言いたいし、何より優は永遠に親友だよ。』
手紙を読み終わるなり、袖は洗濯したときの袖と同様だった。
音羽…。置いていかないでほしかったよ私。
私も怒ってない。
でも、これでいいのかなって。
それが音羽の遺志、いや意志なら。
私にできることは泣くことじゃなくて、多分奏でることなんだ。
私、音羽に届くように音を羽にして天に届けるよ。
____________________________________________________________
宮島がそっと俺の部屋のドアを開ける音がした。
「松…いや、翔くん。」
「手紙ありがとう。だからだったんだね。今日の質問。」
「まあな、すぐ渡せなくて悪かったな。」
というと、宮島軽く頭を横に振った。
「全然だよ。多分ちょうどいいタイミングで渡してくれたと思う。」
「家にあるピアノ、処分しようか迷ってたから。」
「思い出が形として残るってさ、悲しいから私は処分しようと思ったけど、その思い出は私のお守りでもあると思う。
だから、今手紙に渡されなかったら、それに気付けなかったと思う。」
「私、ギターも、ピアノもちゃんと自分の意志で弾き続けるよ。」
「こういう時こそ、「HENCEFORTH」だね。」と宮島が微笑んだ。
HENCEFORTH、それは俺たちのバンドの名前で、「これからも」という意味があった。
夕日に照らされる部屋で、俺たち二人は、音羽の「いし」を叶えようとそう誓った。
そんな時、俺たち二人の電話がなった。
「げ、フェイス電話にしてくんなよ。」
「そんなこといいから、二人とも予定ていないでしょ。たまたま、陽斗とあって私らご飯まだだからどっかで食べない??」
そう聞いてくる稲本に、宮島は「いく?」とサインを送ってきた。
「じゃあ、来るんだったら、いつものところで。じゃーね。」と電話をブチと切られた。
「ったく、じゃあ行くか?」というとうん!と俺の横に小走りできた。
家を出た茂みから、この前宮島が助けた猫が出てきた。
少し俺らをみて鳴くとまたどこかへ行ってしまった。
けれども、それは俺たちに何か言いに来たかのようだった。
電車に乗ると陽斗が忘れ物をしてしまったぽく、稲本にグールプメッセージで叱られていたが、前まで嫌っていたわちゃわちゃ感はほほえましくなった。
生意気だけど、なんやかんやちゃんと見てくれてる稲本。
おちょこちょいで抜けてるけど、友達思いの陽斗。
そして今、横で寝てしまっている宮島もそれぞれの考えや思いを大切にしてくれる。
友達を作るのが、苦手な俺でも、こいつらとは「これからも」いたいいと思えた。
それはきっと、どこかで俺も兄としての思いがあったからなのだろう。
でも、その欠けていた思いがどこかで宮島と通じあったのだろう。
兄としての役目はやっぱまだまだ終わってなかったよ。
ちゃんと何回も届くように俺らたくさん弾くからちゃんと聞いてろよ。
その日の夕焼けは今まで見てきた中で一番きれいだった。
俺はしぶしぶ陽斗のために集めた図書室や資料室にあった参考資料を返却ボックスに入れた。
「まじでサンキュー。今度なんかおごるわ!!」と締め切りは明日で、10ページ書かないといけないというのにこの陽斗の能天気さは一周回って尊敬したい。
辺りはもうすっかり真っ暗で、大学の寮に住む陽斗はパジャマ姿で鼻歌を歌っていた。
「っか今何時だよ。外真っ暗じゃん。」そう聞くと陽斗はお菓子を片手にスマホを開いた。
「えーと、1:05!!」
「この時間からカロリー高いもの食べるのやば。」
「まぁまぁ、気にしない気にしない♪翔も終電まで時間あるし食べてく??」そう誘惑する陽斗に「遠慮しとく」」ときっぱり断り大学の校門に向かった。
「も~。釣れないな。」そう不服そうに言いつつ、校門まで見送ってた。
駅までは歩いて大体十分ある。
夏のコーラスが響き渡り、月光があたりを照らしていた。「コーラス」といえば、俺はバンドサークルに所属している
陽斗もそのうちの一人で合計で4人。俺たちは今期の1年生の中でで一番最初にできたバンドグループだった。
バンドグループに所属するには先生方が趣味や経歴などなどで構成し、何回か演奏したり、話したりして異議がなければ、バンドグループができるというシステムだった。そのおかげか、卒業しても一緒に演奏したり、飲んだりしているグループが多いらしい。
そんなこんな駅に着くに来た時直前になると陽斗からメールが届いた。
『誠に申し訳ございません。俺のスマホ時間がなぜかずれてました・・・。』
即座にその意味が分かり、俺は全力で駅のホームに向かった。
プルルルル~♪
改札を出たときにはすでに、終電のチャイムの音がホームに鳴り響いていた。
猛ダッシュで階段を降り切るも、その時にはすでにドアが閉まってしまった。
ただ、おいて行かれるような感覚で俺はその場で何とも言えない絶望感に浸っていた。
そうすると、トントンと後ろから肩をたたかれた。
「松浦くんだよね、私たち終電逃しちゃったね。」そう落ち着いた声で話しかけてきたのは、バンド仲間の宮島だった。
正直驚きが隠せなかった。
「お前、今日早退したのに何でまだいるんだよ。ってか、体調は大丈夫なのかよ。」
「微妙なラインなんだよね。実は。」そう軽く微笑むと宮島は後ろの椅子にそっと腰を掛けた。
そういうと、『隣おいで』と席を軽くたたいた。
「微妙なラインってなんだよ。」
そう聞くと、宮島はもう一度微笑み、「松浦くんは優しいね。」と顔を向けてきた。
「どうゆうことだよ、っかこっちが聞いてるわけだし。」そう荷物を椅子横に置きながら言った。
「そういうところなんだよね。『微妙なライン』って言った時『ずる休み』って言わなかったからさ。」
そうどこか寂しそうに言う宮島のサマーカーディガンが風でふわりと揺れていた。
「じゃあ、逆に言われたことがあるのかよ。」
「まぁね、結構最近も言われちゃったんだよね。って、自分語りしちゃってごめんね!」
そう手を合わせる宮島の手は少しやせ細ってる気がした。
「お前、飯ちゃんと食ってるんかよ。」そういうと、「どこ見てるの!」と少し怒られた。
夏でも夜というのもあるが、気温が夏にしては低めの天気だった。
風がホームを遮るように吹いた。
「っ、シュン、ごめん!!」
「結局体調崩してるんじゃん。」そういうと全力で首を振るものの少し顔が赤いので嘘はバレバレだった。
「…。近くのホテルに泊まるか。」そう立ち上がると、「そっか。また明日!!」と手を振ってきた。
「いやいや、お前も行くんだよ、今一番今泊まらないといけない人だろ。もうすぐ雨降るらしいし、来い。」
「でも、泊まれるようなお金持ってないよ!!」
「俺がお前の分の部屋は払うから気にするな。」
「ますます申し訳ない!!一人で歩いて帰る!!」そういうが、女子一人で返すわけにもいかなかった。
「分かったよ。じゃあ、どっちかにしろ。黙ってホテルとまるか、俺がお前の家まで送るか。」
宮島の家は電車だと15分ぐらいの距離と前言っていたが歩きだと1時間は余裕でかかる距離だった。
「分かった。じゃあ、ホテルで…。今度ちゃんと返します。」
そんなこんなで、俺たちは駅前のビジネスホテルに泊まった。
「雨だけど、15階だってさ。景色いいといいな。」
エレベータに乗り、カードキーを宮島に渡した。
「悪いけど、部屋ほぼ満員みたいで隣だけど許せよ。」
そいうと、「全然!!ありがとう。」とカードキーを受け取った。
15階につき部屋に入る前、「おやすみ。」というと宮島は部屋の中に入ってってしまった。
とりあえず明日は幸いにも講義がなく、午後からバイトだったのでシャワーだけしてとりあえずベットにパソコンと一緒にダイブした。今現在取り組んでいる研究の統計レポートを1時間弱作成し2時過ぎに俺は寝た。
____________________________________________________________
朝起きて支度を済ませホテルのドアを開けるとそこには宮島がたっていた。
「おはよう。昨日はありがとうね。助かった。」
「体調は大乗か。」そういうと、少し間があいてから、軽くうなずいた。
「俺は今日講義ないけど、お前は?」エレベータにカードキーをタッチしながら聞いた。
「今日は午前だけ。昨日は遅くまでありがとう。明日は講義ある??」少し申し訳なさそうに訪ねてきた。
「まぁ、一応。陽斗に無理やり取らされた全学部共通ゼミだけど。」そういうと軽く微笑み、「明日ホテル代返させてもらうね。」
そういうと、エレベータをでて、カードを受付に返すと、宮島は軽く手を振るとホテルから小走りででていってしまった。
俺はひとまず近くの喫茶店でアイスコーヒーを買い、電車に乗った。太陽が雲から出てきて、一気に真夏の温度になってきた。
電車の中に取り付けられた風鈴の音が心地いい季節になったということは夏休み前のテストが近づいてきたということ。
(ぁあ、だりー。)
そう思いつつスマホを開くと陽斗から連絡が来ていた。
『翔・・・。データ吹っ飛んだ泣』
締め切り1時間前。ドンマイとしか言いようがない。
『だから、そういう時のために複製しとけって言ったのに。黙って教授の眠い補修受けるんだな。』そう返すと
『冷たいな~。』と返ってきたので、
『今日みたいな炎天下な日にはそのぐらいがいいだろう。』と返しといた。
気が付けば最寄りに着くころで、夏休みに行われる祭りの準備が始まっていた。
飲み終えたアイスコーヒーを捨て、駅から近いタワーマンションが俺の家だった。
親は二人とも医者をしていて、家にいることは少ない。俺は着替えて、リュックを部屋の机の横にかけてエコバックに必要なものを入れて少しレポートをまとめてから家を後にした。
俺のバイト先は楽器店。そこで楽器の修理のお手伝いやミニレッスンなどをしている。
おかげで、バイトを通して培った音楽の専門知識はサークルでも役立ってる。
店につき着替えて会計でスタンバイしていると、見覚えのあるポニーテールをした女性が入ってきた。
「誰かと思ったら、お前かよ、稲本。」そういうと真顔で「同じサークルメンバーとはいえ、客なんですけど。」と不服そうに言う稲本に、「この間言ってたシンセサイザー専用の音楽入力コードは向こうの奥の方。」そういうと、「覚えてなら最初からそう言いなさいよ。」とめんどくさそうにコード類コーナへと入っていた。
(こんなことならバイト先言うんじゃねかった。)
以前サークル、HENCEFORTHの奴らと結成打ち上げをしたときにバイト先の話になった。
宮島は本屋。陽斗はペットショップ。稲本はコスメ店らしい。
結構サークル長の先生が大学側に毎月申請して補助金を出してくれるとはいえ、グループでは足りても個人の機材のメンテなどには足りなかった。
そんなこんな、レジで在庫確認と売上高を計算してると、「よろしく。」と商品を渡してきた。
「今度集まる日来週だけど、夏休み明けの審査まで10回は最低でも練習したいんだけど。」
会員カードを片手で渡してくるリーダーも実は誰かさんと同じで補修組だった。
「お前はまず補修終えてからじぇね。非計画を直してからだ、今回の補修クリアしないと来週もあるんだろう。一応経済学部は提出来週だからな。」そういうと、何も言い返せなくなったのかそっぽを向いてしまった。
「ったく、しっかりしろ、リーダー。補修陽斗のやつと同じ武道室でだろ、まず今日の分クリアしてこい。」そういい、店限定のジュースを2本渡した。「片方は陽斗に渡しといてくれ。」そういうと、小声でお礼をすると店を後にした。
____________________________________________________________
気が付けば時はすでに夕方になっていた。
「松浦くん、あがってええぞー。」そういう店長さんに挨拶をし、店を出た。
ふと空を見上げると夕焼けがすごくきれいに彩らせていた。
(久しぶりに「あそこ」行くか…)
自分の家とは反対方向の目的地に向かった。
そこは少し遠くて海の近くにあるところで、俺の地元でもあった。
近くの花屋さんで、花を一束購入して神社の奥の方にある墓地へと向かった。
俺が今から会いに行く人がいるところは一番奥の海側のところにあった。
歩いて5分ぐらい、その場につくと今日は珍しく先客がいた。
挨拶をしようとしたとき、こちらを振り返った。
それはほかの誰でもない宮島だった。
お互い、「会いに来た奴」との関係性を疑うような様子だった。
「っ~と、奇遇だな。」と片手を首元にあてた。
軽くうなずき、少し目をそらすと宮島は、「ごめん!!」と走ってってしまった。
こういう時、俺は追いかけるべきなのか、そのままにしとくのが良いのかわからなかった。
でも、きっと「あいつ」ならー。
俺は気づいたときには追いかけていた。
「なんでだよ。お前何も悪いことしてないのになんだよ。俺なんかお前にしたか?」と宮島の鞄を引っ張っていた。
最初は少し抵抗していたけれど、ピタリと後ろ振り返って止まった。
「してない。してないよ。」そうつぶやく宮島は続けて、「びっくりしちゃっただけ、いきなり走り出してびっくりしたよね。ごめんね。」だんだんと暗くなる空の下で少し寂しそうにそう伝えてくれた。
俺は花を飾り置き、線香をあげた。
線香の煙が消えたときにはすでにあたりは暗くなっていた。
ここに来た時はすでに6時半過ぎだった。
そして今は7時。こっから駅まで30分弱歩かなければならなかった。
「お前は帰るの?」そうきくと、「帰ろうかな。もう暗くなってきてるし。何より明日フルで講義とってるから、」
「そう。じゃあ帰るぞ。」というと「え、あ、うん」と俺を追いかけ、俺の横に来た。
霊園をでても、特にお互い「あいつ」との関係性も聞くことがなく、特に話すこともなくただただ無言で駅に向かっていた。
聞こえるのは夏の風物詩のみ。そんな時、海の近くの花壇で、花壇用具のフェンスにしっぽが引っ掛かった猫がいた。
それに気づいたのか、宮島は小走りで猫のもとに駆け寄り、そっと引っ掛かったしっぽを直していた。
そうすると猫はお礼を言うかのように鳴き、後ろを一回振り返るとまた帰って行ってしまった。
「なんかあいつみたいだな、ドジなところ。」と思いが漏れていた。
宮島がこっちを見るなり、俺はとっさに、「わりぃ。」というと宮島は微笑んで「別に私は気にしないからいいよ。逆にいきなりまた走り出しちゃってごめんね。」と言ってくれた。
「いや別にそれはいいけど。」というと、宮島は「でも、松浦くんの言う通り、らしいよね。おちょこちょいなところ。でも、お礼は忘れないところ、似てるね。」と。
いつもなら名前という名の名詞をだす宮島だが、今あいつの名前を出さないのはあえての配慮なんだろう。
「だな。」そう話していると暑かったはずの夏の空気が海からの風で一瞬涼しくなった。
「明日の講義、頑張れよ。」そういうと、「頑張るありがとう。松浦君も明日講義あるの?」と聞くと、「陽斗の付き合いでな。」と言うと、「そっか、私も応援してるね。」とその会話でまた静けさが戻ったが、久々に凄い懐かしさを感じた。
____________________________________________________________
大学の講義室でスライドをいじっていると、陽斗が申し訳なさそうに土下座してきた。
その後ろにいたのは、稲本で、「なにやってるの。カツアゲ?こわ。」と講義室の廊下側の階段の上で足を止め、俺たちを見下ろした。。
「ちげーよ。こいつの時計の時間がずれてて、終電乗りそびれたんだよ。」というと、
「二人とも悪い。陽斗も最近遅刻ばっかしてるて聞いたしそれはそれで気付けという話だし、翔も翔で人に頼らず自分で確認しろ。」とうるさい親のように俺たち二人まとめて講義室にいる生徒の前で叱られた。稲本の母性本能にはうんざりしている。
怒られたばっかだというのに、駄菓子を片手にスマホを見るなり、「あれ、今13時??これ一限だよね、」という爆弾発言に稲本に「いい加減スマホショップでそのラグ何とかしてもらいなさい。」と怒られていたのはまた別の話。
そんなこんなで講義五分前になると、宮島も講義に応募してた模様。
「あ、ゆーちゃんも応募してたんだ!!」と陽斗が振り替えるなり、俺も軽く手を振った。
「最近よく合うねー。まあそれも、うちらの大学、全学部共通講義制度で講義副専攻とか関係なく受けれる制度あるからねー。別で副専攻で受けることもできるけど。もう大学始まって3か月半たってるけど結構講義とかでも同じになってるよね~。ゆーちゃん隣おいで!!」と今更驚きももしないが、俺と話すときの態度とは180度真逆。
「萌絵ちゃん!ありがとう。」と横に座るなり筆記用具を出しながら、女子特有の女子トークをし始めた。
人気の洋服だの、流行ってるテレビ番組だの、よくわからない話をし始めていた。
気が付くと先生が教壇に立っていて、講義の準備をしていた。
それに気づいたのか二人の会話は息を合わせるかのようにピタリと止まり、ノートを開き始めた。
俺と陽斗はその2人を上の段の机から様子をうかがっていた。
相変わらず陽斗は横でPCで動物特集の記事を読んでいた。
今回の講義は『現代の音楽・美術がもたらす影響』という内容で、おそらく宮島は心理学部でとっていて、俺たちは「音楽」に反応したのだろう。
一コマは90分前後。
開始10分もたたないうちに稲本は爆睡。陽斗はワイヤレスイヤホンまでして動物の動画を見始めた。
周りもちらほら稲本&陽斗現象が起きていて、ちゃんと真面目に受けてる生徒は少なかった
眠い教授の講義を聞きながら、同時並行で配布プリントの内容までノートにきれいにまとめていた宮島のノートは教授のノートそのものだった。俺はどちらかというとノートは使わない派で、プリントに軽く買い込みをするのみ。けれど、これはサークル活動の時にも出ていて、宮島は自分のパートだけではなくほかのメンバーのパートまで覚えてるようなメンバーだった。
だからこそ、宮島に甘い稲本にも納得がいく。稲本は気が済むまでやり通すタイプだった。けれども、なぜその性格を単位に生かせないんだか。
そんな中教授は両者の伝統や歴史、技術などそれが人間や動物にどのような影響を与えるかなど、映画館のスクリーンに埋りそうなぐらいの板書を書いていた。
そんな講義も終盤になり、「ほんじゃ、来週テストするから準備しとくように。」というと教授は帰ってしまい、予定より10分早く終わった。
みんなが片付けはじめ、会話でざわざわする中、まだまだ二人は自分の世界に入り込んでいた。
宮島は稲本を起こすのにオロオロしていたが、隣で動画見ている陽斗はほったらかして講義室を後にした。
そのあと陽斗いわく動画を見終えて講義室の時計を見たら次の講義開始まで1分で猛ダッシュで移動したんだとか。
稲本に関しては宮島がギリギリまで寝かして起こしたらしい。
俺は次の講義は空きコマだったため、サークルで演奏する予定曲の導入部分の練習をするべく部室へと向かった。
部室に前もって置いといたペースをアンプに接続し弦のチューニングをしていると、後ろドアが開く音がした。
「あ、松浦くん。」と宮島が入ってきた。
「今この間のホテル代返しても大丈夫かな??ごめんね、本当はあの時返せたらよかったんだけど…。」という宮島に「1週間以内に返してくれてるわけだし気にするな。」というとわざわざご丁寧に封筒に包まれてた状態で渡してきた。
「そういえばお前で今日の講義フルで取ってたんじゃなくて?」そうチューニングに戻りつつ聞くと、
「休講になっちゃったんだよね。だから二コマ分空いちゃったんだ。」と言ってきた。
「私もここで練習していっても大丈夫?」と尋ねてくる宮島に「部室だし、そういうの気にする必要なくね。」そういうと「ありがとう。」というと後ろにかけてあったギターを弾き始めた。
♪~♪~
その音は一音一音はっきりしているけど、滑らかだった。
「お前ずいぶん手馴れてるよな。ギターサークル入って初めてやったんだろ?」というと宮島はあわてて後ろの棚からヘッドホンを取り出して、「ごめん!邪魔しちゃってたよね!!」といいギターにつなげようとする手を止めて、「別にそんままでいい。で、お前も予定曲弾いなら合わせようぜ。」というと「わかった」といいアンプにつなげていた。
「どこまでお前練習したんだ。やっぱりすべて?」と問うと「まぁ、一応。」とのこと。
「俺は1サビまでしか練習できてないけどそこまででもいいか。」と聞くと、「全然いいよ。」と言ってくれた。
「松浦くんと二人だけでの演奏は初めてだね。」と言ってくる宮島に俺は「そうだな。」と答えた。
「じゃあ、やるか。」とメトロノームをセットし、俺が合図をすると即座に前奏を弾き始めた。
俺は前奏が始まって少し後に入る。
この前奏の不協和音を生かしてサビに入るという少し難しい曲となっていた。
サビも弾き終え、俺は一息つき、宮島は講義の確認をしていた。
「そういえば、他のバンドメンバーの奴は知らないみたいだけど、お前って高校の時ピアノで賞を取ったって聞いたけど、なんでシンセサイザーにしなかったの?最初サークルに入ってメンバー構成する前に選べたけど。」
「それ誰から聞いたの??」と少しびっくりした様子で聞いてきた。
「「あいつ」から。」
「そっか。聞いたんだ。」という宮島が続けて話してきた。
「少し長くなるけど、いい?」と聞く宮島に少し話しにくいことを聞いてしまったのかと思いつつ、
「俺は別にいいけど、言いたくなかったら話さなくてもいいけど。」というも
「別に松浦くんには隠す理由ないからいいよ。」と
「もともとはさ、この前濁すように駅で言っちゃったけど。」
「私元々は中学生後半~高校生の時は不登校の繰り返しだったんだよね。平熱は低い方だけど、とある日の朝微妙にぼーとしたり、体調悪くて、朝起きれなくなって。親は医療機関で働いてて幸い理解もあって。いわゆる『起立性調節障がい』ってやつなんだけどね。でも、忙しくて常に家にはいなくて午前中は本を読んだりしてたんだよね。頑張って最初の方は学校行ったりしてたけど、結局早退したりになっちゃって。みんなからは「ずる休み」とか「注目が欲しいだけ」とか言われるうちに本当に外に出ることすら怖くなったんだ。」
「でもね、」
「そんな時私に声をかけてきてくれたのが、他の誰でもない」
「音羽、だったんだよ。」
「いつも学校終わりに連絡帳をポストに入れたりしてくれてたんだ。でも、一回だけどうしても受け取らないといけない荷物があって、時間になっても来ないからドアを開けたらね。目の前にいたんだよ。」
「その時目が思い切りあっちゃって、でもすぐに笑顔で話しかけてくれて、おまけに給食の残りのプリンまでくれて。」
「そっからだったんだ、音羽と仲良くしてもらったのは。」
「その日から毎日付箋に手紙が書いてあって。特に学校のことは書いてなかったんだけど、好きなものとか。」
「結局中学校はまともに行けなかったんだけど、土日とか午後に一緒に家で遊ぶにはなって、その時ピアノを一緒に弾いたりしたんだ。」
「でも、まさか高校に上がって、音羽が私みたいにみんなから嫌なことされたり、言われたりするとは当時は知らなかったんだ。私の時よりひどい、本人にしかわからない形でのことだったんだ。」
「でも、中学生の時助けてくれた分今度が力になりたい。そう思ったんだ。」
「でも、それはできなかったんだ。」
「とある日いきなり、「嫌い、私コンクールでないから、後は好きにやって」って言われて、その場で眼鏡壊されたんだけど。」
「でもその時私普段ならまたかって何とも言えなくなるけど、その時はなんか私がまた中学生の時みたいにみんなを不快な思いにさせちゃったのかなって思って。その時にはさ、一緒にピアノコンクールでよう!ってきまってて、音羽は私をさ、ずっと引っ張ってくれてたからさ、どうしたらいいのかわからなくなったんだ。」
「でも、そのコンクール曲は一緒に作った曲なんだ。でも、せっかく一緒に作ったからには弾きたかったんだ。」
「音羽は当日風邪でお休みになっちゃったんだけど、やるからにはやりたいって思って。幸い優勝できたんだけど、」
「でも、その次の日謝りもかねて家言った時に言われたんだよね。」
「音羽が自ら…って。」
「親御さんはその後「音羽と仲良くしてくれてありがとう」って」
「その日から私はピアノを弾こうにも、弾けなくなった、というよりは弾かなくなったんだ。弾くなら仲直りしていつか一緒に弾きたい。そう思ったんだ。だからその日まではギターにしようかなって思ったんだ。音羽が気持ちをメロディーに乗せてくれたように、私もその気持ちを天に届けたい。思いのこもった曲を届けるにはどうしたらいいかなって思って。結局あの一件から、高校は通信に切り替えて、色々なことを考えたんだ。その時に、心理学を勉強すれば音羽があの時そう言った理由がわかるかなって、高校生の時一人で弾ける楽器で思いついたのが持ち運びできる利点があるギターで、思いのこもった曲を空の下で弾けるかなって。」
「それが理由かな。」
というなり、「そろそろ次の講義があるから行くね。」というので、「今日放課後家来てくれ。あとで住所送る。」
動揺するなり、「わ、わかった!!」と出て行った。
あいつは知らないのだろう、俺があいつの実の兄でそして親が離婚して、旧姓戻っていることを。
____________________________________________________________
ピンポーン~♪
夕方になり家のインターホンがなり、開けると宮島が菓子を手にドア前に立っていた。
「お邪魔します。」とリビングに着くなり、手土産の菓子をわたしてくれた。
「別にそういうの気にしなくていいのに。俺の部屋そこの手前だから入って待ってて。」というと「え、あ、うん」と部屋に入っていった。
俺は部屋に入るのを確認すると、リビング下の鍵付きの引き出しから手紙を一通取り出した。
これをあいつに渡す、というあいつからのお願いを果たすという心の準備をしつつ、再度鍵を閉めた。
部屋にはいるなり、俺はそっと手紙を宮島の目の前にあるちゃぶ台に置いた。
「???え、どういうこと、、、???」と聞いてくる宮島に俺は、「驚かないで聞いてほしい。」
「親は離婚して旧姓になって、分け合って引っ越してきたここでも、一緒に生活しているが、」
「音羽は俺の実の妹だ。別に悪く思うな。」
「まぁ、俺が何か言うよりまず手紙、読んでやってくれ。」と俺は部屋の外に出た。
俺はあいつのこと実は前から知っていた。
本来ならすぐにでも渡したかった手紙。
ようやく渡せたと思うと同時に兄としての役割がこれで終わってしまうということ。
けれど、ようやく渡すことができたぞ、音羽。
俺は家の中から見える夕日をリビングから見ていた。
___________________________________________________________
「…。」
いきなり目にする現実。
どういう言葉で表したらいいのかもわからない。
でもまず、私はそれを受け入れるしかなかった。
久しぶりに見る音羽の筆跡。
白い封筒に包まれている手紙。
そっと持ち上げ、私は手紙を取り出した。
当時の音羽の部屋のフレグランスぽい匂いをほんのりと感じた。
『優へ
この手紙を見てるということは、そういうことなんだ。
何も言わずにおいていっちゃってごめんね。
多分これを渡すにはお兄ちゃんだと思う。
お兄ちゃんいるんだよ!!びっくりでしょう!!
そしてなにより先に言いたいことは、あの日言ったことは嘘なんだ。
本当は優のこと大好き。大好きなんだ。たくさん遊んで、一緒に話して、やっぱあの日のこと嘘なんか言わなきゃよかったって。怒ってないよって。
優に嫌われたら、やっぱり嫌。私も嫌な思いのままは嫌だ。しかも、不安にさせるようなこと言っちゃったなって。でも、私にはには直接言う勇気がなかったんだ。
でも、そんな中私たちの曲を弾いてくれてありがとう。優勝おめでとう!!
やっぱり、優の曲は思いがこもった素敵な曲なんだよ♪私は優の曲も歌声も優しいところも全部大好きだよ。
本当に大好き!!たくさん仲良くしてくれて、変わってるところが多かった私だけど、それを受け入れてくれて、ありがとう!!
私のわがままだけど、優のことだからピアノ弾いてないんだろうなって思う。ピアノは優が嫌で嫌いじゃない限り、弾いて、これからも色々な人に届くように奏でてほしい。
何回も言うけど、優のことは大好きだし、ありがとうじゃ伝わらにぐらいお礼を言いたいし、何より優は永遠に親友だよ。』
手紙を読み終わるなり、袖は洗濯したときの袖と同様だった。
音羽…。置いていかないでほしかったよ私。
私も怒ってない。
でも、これでいいのかなって。
それが音羽の遺志、いや意志なら。
私にできることは泣くことじゃなくて、多分奏でることなんだ。
私、音羽に届くように音を羽にして天に届けるよ。
____________________________________________________________
宮島がそっと俺の部屋のドアを開ける音がした。
「松…いや、翔くん。」
「手紙ありがとう。だからだったんだね。今日の質問。」
「まあな、すぐ渡せなくて悪かったな。」
というと、宮島軽く頭を横に振った。
「全然だよ。多分ちょうどいいタイミングで渡してくれたと思う。」
「家にあるピアノ、処分しようか迷ってたから。」
「思い出が形として残るってさ、悲しいから私は処分しようと思ったけど、その思い出は私のお守りでもあると思う。
だから、今手紙に渡されなかったら、それに気付けなかったと思う。」
「私、ギターも、ピアノもちゃんと自分の意志で弾き続けるよ。」
「こういう時こそ、「HENCEFORTH」だね。」と宮島が微笑んだ。
HENCEFORTH、それは俺たちのバンドの名前で、「これからも」という意味があった。
夕日に照らされる部屋で、俺たち二人は、音羽の「いし」を叶えようとそう誓った。
そんな時、俺たち二人の電話がなった。
「げ、フェイス電話にしてくんなよ。」
「そんなこといいから、二人とも予定ていないでしょ。たまたま、陽斗とあって私らご飯まだだからどっかで食べない??」
そう聞いてくる稲本に、宮島は「いく?」とサインを送ってきた。
「じゃあ、来るんだったら、いつものところで。じゃーね。」と電話をブチと切られた。
「ったく、じゃあ行くか?」というとうん!と俺の横に小走りできた。
家を出た茂みから、この前宮島が助けた猫が出てきた。
少し俺らをみて鳴くとまたどこかへ行ってしまった。
けれども、それは俺たちに何か言いに来たかのようだった。
電車に乗ると陽斗が忘れ物をしてしまったぽく、稲本にグールプメッセージで叱られていたが、前まで嫌っていたわちゃわちゃ感はほほえましくなった。
生意気だけど、なんやかんやちゃんと見てくれてる稲本。
おちょこちょいで抜けてるけど、友達思いの陽斗。
そして今、横で寝てしまっている宮島もそれぞれの考えや思いを大切にしてくれる。
友達を作るのが、苦手な俺でも、こいつらとは「これからも」いたいいと思えた。
それはきっと、どこかで俺も兄としての思いがあったからなのだろう。
でも、その欠けていた思いがどこかで宮島と通じあったのだろう。
兄としての役目はやっぱまだまだ終わってなかったよ。
ちゃんと何回も届くように俺らたくさん弾くからちゃんと聞いてろよ。
その日の夕焼けは今まで見てきた中で一番きれいだった。
