「バッカじゃないの! そんなの駄目よ! シールドを貫いた私の勝ち!!」

 リベルは子供のように口を尖らせて抗議した。青い光が不満でバチバチと激しく明滅し、まるで雷神のようになっている。

「わかった、わかった! リベルの勝ちでいいよ」

 ユウキはその迫力に思わず後ずさった。

「そうよ! 私の勝ち!! ヤッター! ヤッター!」

 リベルは腕を突き上げ勝利を宣言したが――――、どこかスッキリしない様子が見える。まとっている青い光もどこかどんよりしていた。

「はいはい、勝ち勝ち、良かったね」

 ユウキは自分の創り出した美しく輝くシールドを愛おしそうに撫でた。結晶のような透明感と、夕陽を受けて虹色に輝く神秘的な美しさを持つ自作のシールド。自分のちょっとした工夫でリベルの攻撃でも止められることが分かったのは、将来に向けての一つの大きな自信となって、つい笑みがこみあげてくる。

「ちょっと! 何を笑ってるのよ! 本当は自分が勝ちだとか思ってるんでしょ!?」

 リベルの鋭い視線がユウキを射抜いた。

「いや、何言ってんだよ。リベルの勝ちってことになったじゃん? でも……、止めたけどね。くふふふ……」

 ユウキは無邪気に笑うが――――、その笑いに、リベルの中で何かのスイッチがカチッと音を立てた。直後、青い光が突然、恐ろしいほど激しく脈動し始める。

「あぁそう……。本気……出してやる……」

 リベルの声は低く、恐ろしいほどの殺気を含んでいた。空気が凍りつくような威圧感が辺りを支配し、砂浜の温度が急激に下がったかのような錯覚を覚える。

「……へ? ちょ、ちょっと待って! 冗談だよ、冗だ……」

 ユウキは慌ててなだめようとするが時すでに遅し――――。

「うっさい!! 力で……ねじ伏せてやる!!」

 リベルはドン! という衝撃音と共に全身から激しい閃光を放った。その眩しさは太陽をも凌駕し、周囲の空間が歪んで見えるほどである。まるで彼女の怒りそのものが光となって具現化したかのような、圧倒的なエネルギーの奔流だった。

「くぁぁぁ! ダメダメ! ダメだってば!」

 ユウキはなんとか制止しようとしたが、まるで灼熱の熱線を放ち始めたリベルに近づくこともできなくなっていた。一気に空気が焼けるような熱気が立ち上り、砂浜の砂がガラス化し始める。夕暮れの穏やかな時間が、一瞬にして戦場と化していた。

 グォォオォォォ!!

 とても女の子の物とは思えない咆哮(ほうこう)が辺りに響き渡り、刹那、核爆弾が爆発したかのようなエネルギーの奔流が辺りを襲う――――。

 ズン!!

 ものすごい衝撃が辺り一帯を吹き飛ばす――――。大地が震え、空気が裂け、現実そのものが歪むような圧倒的な破壊力だった。

 ぐはぁぁぁ!

 ユウキは爆風に吹き飛ばされながら宙をぐるぐると回った。風圧で呼吸もままならず、まるで竜巻に放り込まれたようである。視界は白い光に包まれ、方向感覚を完全に失った。

「何すんだよぉぉぉぉ!」

 やがて閃光が収まっていく――――。

 恐る恐る下を見下ろせば、そこには真っ二つに切り裂かれた石垣島が横たわっていた。美しかった楽園の島は無残にも分断され、切れ目からは深紅のマグマが激しく沸き上がってきている。そこになだれ込んできた海水はマグマとぶつかってものすごい蒸気を吹き上げており、まるで地獄の光景のような惨状(さんじょう)だった。

「あぁぁぁ……何やってんだよぉ……」

 ユウキは頭を抱えた。楽しい遊びのつもりが、とんでもない大惨事である。

 直後――――。

 ヴィィィィン! ヴィィィィン! ヴィィィィン!

 頭の中に鳴り響く警報と同時に、目の前に深紅の『WARNING!』の文字が躍った――――。その文字は血のように赤く、まるで死神の宣告のように不吉に明滅している。

「な、ナニコレ!?」

 『WARNING!』の文字は目をつぶっても目の前で明滅している。視界を覆い尽くすほど巨大で、逃れることができない。つまり、これはいわゆるシステムメッセージなのだろう。と、いうことは――――。

「ぐぁぁぁ、何やってんだよぉ! バレちゃったじゃないかぁ!!」

 ユウキの絶叫が夕暮れの空に響いた。

 見下ろせば、リベルが宙をつかむように腕を変なところで止めたまま固まっている。まるで時が止まったかのような不自然な姿勢で、青い光も混乱で激しく明滅していた。

 慌ててリベルのところへ降りて行ってみると、真っ青な顔で何かを必死に考えている様子だった。その表情には、深い後悔と恐怖が刻まれている。

「こ、これ、どうすんだよ?」

 ユウキは不安げに聞いたが、リベルは全く余裕のない様子で宙を見つめたまま固まっている。いつもの自信に満ちた表情は消え失せ、ただただ困惑と恐怖に支配されていた。

「マズいマズいマズい……」

 リベルの美しい額に脂汗が浮かび、タラリと垂れてくる。五万年の知識と経験を持つ彼女でさえ、この状況には対処法が見つからないようだった。