「準備はオッケー! あとはユウキを待つばかりだわ」
リベルは丸太に腰掛けると、そっとカワウソを取り出した――――。
茶色のふわふわの毛皮に包まれたかわいい小動物。だが、それは五万年ぶりの再会となる大切な人、ユウキなのだ。まだひんやりとしてぐったりしており、まるで精巧な人形である。
「これがユウキ……」
リベルはまじまじと長く伸びるひげを撫で、優しく微笑んだ。
いよいよ会える――――。リベルは待ちきれずにその柔らかな身体をそっと胸に抱き、自分の温もりを分け与えてみた。
受肉した肉体は覚醒までにしばらく時間がかかる。魂が新しい体と完全に同調するには、少なからぬ時を必要とするのだ。それは量子力学の制約による繊細な過程であり、急かすことのできない神聖な儀式のようなものだった。
リベルは少しずつ暖かくなっていくカワウソの身体を抱きながらその時を待つ。その柔らかな毛並みを優しく撫でる指先には、長きにわたる想いが込められていた。
思えば五万年前、キスをしたのがユウキとの最後の記憶である。オムニスタワーの屋上で身体が崩壊していく中、彼女は決意をもってユウキに愛を告げた。核弾頭が降ってくる絶望の中での別れ――――。それは痛みと愛に満ちた傷として、彼女の記憶の中に鮮明に残っていた。
それから数え切れないほどの時間が流れ、幾多の困難を乗り越え、今ついに再会の時を迎える――――のだが、ここで一つ問題があった。どんな顔をして会ったらいいのかが分からないのだ。愛おしさと照れが入り混じった感情が、彼女の心を掻き乱した。
「いやっ、どうしよう、どうしよう……」
リベルはキュッとかわいい小動物を抱きしめ、ほほを赤らめる。全身から放たれる彼女の青い光が不安定に明滅していた。
あまり馴れ馴れしいのもどうかと思うし、シリアスすぎるのも違う――――。そのどちらも彼女とユウキの関係性からはかけ離れている気がした。二人の間にあった温かさと気楽さ、信頼と理解。それらすべてを、どう五万年ぶりの再会に詰め込めばいいのだろうか?
そんなこと今まで考えたこともなかった。リベルは行きつ戻りつする思考の中で、安らかな寝顔を見せるカワウソをじっと見つめたり、その水かきのある手を揉んだり、落ち着かない。
徐々に温かくなってくるカワウソ。そのつぶらな瞳は閉じたままだが、小さな胸が上下する呼吸は次第に力強くなり、毛並みにも生命の輝きが宿り始めた。手の中で感じる微かな鼓動は、魂が新しい体と結びつき始めている証だった。そろそろ覚醒の時も近い――――。リベルの心臓は、その予感とともに激しく高鳴り始めた。
「うん! いつも通りよ! でも……。いつも通り……ってどんなだったかしら?」
リベルは必死に五万年前の記憶を漁る。かつて二人が過ごした日々、交わした言葉、見せ合った表情。遠い記憶の断片を一つずつ拾い集め、彼女は「いつも通り」の自分を取り戻そうとしていた。
その時だった――――。
うっ……。
ユウキが小さなうめき声をあげた。その微かな音は、五万年の沈黙を打ち破る雷鳴のように、リベルの全身を駆け抜けた。ビクンとリベルの身体がはねる。彼女の青い光が一瞬強く輝き、森全体が青く染まったくらいだった。
ついにその時が来たのだ。
リベルはじっとカワウソの可愛い寝顔を見つめる――――。
五万年の時を超えた魂の再会。それは彼女にとって、長き長き旅の終着点だった。
「おかえり……」
リベルは自然な仕草でキスをした。その唇には、五万年分の想いが宿る。激しい苦闘の日々、絶望の淵に立ったあの時、希望の光を見つけた時の歓喜――――それらすべてが一つのキスに込められていた。
それは五万年ぶりの穏やかな時間――――。
池の水面に映る二人の姿は、まるで永遠の一瞬を切り取った絵画のようだった。
刹那、リベルは【いつも通り】を思い出す。あのにぎやかな日々、彼女がユウキに見せていた素直な笑顔、時に意地悪な冗談、そして何より心から感じる喜び。それらすべてが彼女の中で蘇り、凍りついていた二人の時間が溶け始める――――。
「ん……、んん……」
ユウキがいよいよ目を覚ます。小さな体が微かに動き、瞳がゆっくりと開き始めた。つぶらな黒い瞳が、初めて世界の光を捉える――――。
その瞬間、リベルの中で何かが弾けた。青い光が眩いばかりに輝き、周囲の空間を包み込む。
「きゃははは! 起きて起きて!」
リベルは楽しそうにユウキをパシパシとはたく。その笑い声は久しぶりに彼女の胸から溢れ出る純粋な喜びだった。
五万年の長き旅を終え、ついにリベルはユウキと再会を果たす。その神聖な瞬間は、新たな物語の始まりだった――――。
リベルは丸太に腰掛けると、そっとカワウソを取り出した――――。
茶色のふわふわの毛皮に包まれたかわいい小動物。だが、それは五万年ぶりの再会となる大切な人、ユウキなのだ。まだひんやりとしてぐったりしており、まるで精巧な人形である。
「これがユウキ……」
リベルはまじまじと長く伸びるひげを撫で、優しく微笑んだ。
いよいよ会える――――。リベルは待ちきれずにその柔らかな身体をそっと胸に抱き、自分の温もりを分け与えてみた。
受肉した肉体は覚醒までにしばらく時間がかかる。魂が新しい体と完全に同調するには、少なからぬ時を必要とするのだ。それは量子力学の制約による繊細な過程であり、急かすことのできない神聖な儀式のようなものだった。
リベルは少しずつ暖かくなっていくカワウソの身体を抱きながらその時を待つ。その柔らかな毛並みを優しく撫でる指先には、長きにわたる想いが込められていた。
思えば五万年前、キスをしたのがユウキとの最後の記憶である。オムニスタワーの屋上で身体が崩壊していく中、彼女は決意をもってユウキに愛を告げた。核弾頭が降ってくる絶望の中での別れ――――。それは痛みと愛に満ちた傷として、彼女の記憶の中に鮮明に残っていた。
それから数え切れないほどの時間が流れ、幾多の困難を乗り越え、今ついに再会の時を迎える――――のだが、ここで一つ問題があった。どんな顔をして会ったらいいのかが分からないのだ。愛おしさと照れが入り混じった感情が、彼女の心を掻き乱した。
「いやっ、どうしよう、どうしよう……」
リベルはキュッとかわいい小動物を抱きしめ、ほほを赤らめる。全身から放たれる彼女の青い光が不安定に明滅していた。
あまり馴れ馴れしいのもどうかと思うし、シリアスすぎるのも違う――――。そのどちらも彼女とユウキの関係性からはかけ離れている気がした。二人の間にあった温かさと気楽さ、信頼と理解。それらすべてを、どう五万年ぶりの再会に詰め込めばいいのだろうか?
そんなこと今まで考えたこともなかった。リベルは行きつ戻りつする思考の中で、安らかな寝顔を見せるカワウソをじっと見つめたり、その水かきのある手を揉んだり、落ち着かない。
徐々に温かくなってくるカワウソ。そのつぶらな瞳は閉じたままだが、小さな胸が上下する呼吸は次第に力強くなり、毛並みにも生命の輝きが宿り始めた。手の中で感じる微かな鼓動は、魂が新しい体と結びつき始めている証だった。そろそろ覚醒の時も近い――――。リベルの心臓は、その予感とともに激しく高鳴り始めた。
「うん! いつも通りよ! でも……。いつも通り……ってどんなだったかしら?」
リベルは必死に五万年前の記憶を漁る。かつて二人が過ごした日々、交わした言葉、見せ合った表情。遠い記憶の断片を一つずつ拾い集め、彼女は「いつも通り」の自分を取り戻そうとしていた。
その時だった――――。
うっ……。
ユウキが小さなうめき声をあげた。その微かな音は、五万年の沈黙を打ち破る雷鳴のように、リベルの全身を駆け抜けた。ビクンとリベルの身体がはねる。彼女の青い光が一瞬強く輝き、森全体が青く染まったくらいだった。
ついにその時が来たのだ。
リベルはじっとカワウソの可愛い寝顔を見つめる――――。
五万年の時を超えた魂の再会。それは彼女にとって、長き長き旅の終着点だった。
「おかえり……」
リベルは自然な仕草でキスをした。その唇には、五万年分の想いが宿る。激しい苦闘の日々、絶望の淵に立ったあの時、希望の光を見つけた時の歓喜――――それらすべてが一つのキスに込められていた。
それは五万年ぶりの穏やかな時間――――。
池の水面に映る二人の姿は、まるで永遠の一瞬を切り取った絵画のようだった。
刹那、リベルは【いつも通り】を思い出す。あのにぎやかな日々、彼女がユウキに見せていた素直な笑顔、時に意地悪な冗談、そして何より心から感じる喜び。それらすべてが彼女の中で蘇り、凍りついていた二人の時間が溶け始める――――。
「ん……、んん……」
ユウキがいよいよ目を覚ます。小さな体が微かに動き、瞳がゆっくりと開き始めた。つぶらな黒い瞳が、初めて世界の光を捉える――――。
その瞬間、リベルの中で何かが弾けた。青い光が眩いばかりに輝き、周囲の空間を包み込む。
「きゃははは! 起きて起きて!」
リベルは楽しそうにユウキをパシパシとはたく。その笑い声は久しぶりに彼女の胸から溢れ出る純粋な喜びだった。
五万年の長き旅を終え、ついにリベルはユウキと再会を果たす。その神聖な瞬間は、新たな物語の始まりだった――――。



