「いや、単に邪魔なだけだから消えてて」
心の中では申し訳なさを感じながらも、今は情けをかけている場合ではない。
「そうはおっしゃられても、私がいなければ転送はできないですよ?」
妖精は必死に自分の存在価値を訴える。その悲しげな声には混乱が入り混じっていた。
「うんうん、分かんなくなったら呼ぶから消えててくれる?」
リベルはため息を漏らしながら妖精のところを手で振り払う。
「うわっ! わ、分かりました……」
妖精はリベルの手を慌てて避け、そのまま泣きべそをかきながらスゥッと消えていった。
「悪いわねぇ、でも、見られるわけにもいかんのよ……」
リベルはふぅと大きく息をつくと、妖精を投影していたであろう辺りのパネルをコンコンと叩き始める。
その微妙な反響の違いから内部の構造を推測していく。長年の経験とAIの高度な信号処理技術が、彼女の感覚に宿っていた。音の周波数分布、材質の振動、温度の微妙な違い。それらすべてが彼女に情報を与えていく――――。
「ふむふむ……。この辺ね」
リベルは少し壁を押し込んで隠れていたパネルのつなぎ目に手を入れると、バリッとはがしとる。予想以上に簡単に外れたパネルの下から、縦横無尽に走るファイバーケーブルが顔を出す。赤、青、緑、金――――様々な色のケーブルが、まるで神経系のように複雑に絡み合っていた。
「ビンゴ! となると……これね」
リベルは赤いファイバーケーブルを手繰るとそのコネクタに指を潜ませる――――。
次の瞬間、膨大な情報が彼女の全身を駆け巡った。システムとの接続が確立され、膨大な情報が彼女の意識に流れ込んできたのだ。
「うほっ、こ、これは……」
一瞬圧倒されたリベルだったが、キュッと口を結ぶと目をつぶり、じっと信号内容を読み取っていく――――。彼女の体から放たれる青い光が明滅し、純白の室内に幻想的なグラデーションを生み出した。
膨大なデータの海の中にずっぽりと潜った彼女は的確に必要な情報を探し出し、システムの弱点を見極めていく――――。
「ヨシ! いけそうだわ……」
リベルは胸ポケットから【量子結晶】を丁寧に取り出し、そのまま口に持ってくるとイチゴのような唇で軽く挟んだ。まるで聖なる儀式を執り行う巫女のように――――。
直後、【量子結晶】の内部にキラキラッと微細な黄金の輝きが走る。それはユウキの魂が反応している証だった。
しかし――――。
ここで一つ問題が発生した。受肉させる肉体にろくなのがないのだ。あのかわいい赤毛の十五歳の少年を再現しようとするもののカスタマイズに限界があり、どうしてもダサくなってしまうのだ。
リベルは歯噛みした。せっかく五万年ぶりにユウキに会えるというのに、こんな姿では――――。
(ユウキはもっとかわいいのよ!)
リベルは渋い顔で肩を落とした。
その後、いろいろ挑戦したものの、どうにも納得のいくユウキが作れず、リベルはため息をついて首を振った。ただ、時間だけが無情に過ぎていく――――。
リベルは焦った。いつまでも時間をかけていられない。あのおせっかいな妖精がいつ戻ってくるかもわからないのだ。こんな壁を引っぺがしている姿を見られたらすべてが水の泡になる。
「くぅぅぅぅ……。どうしたら……。あれ?」
と、その時、ライブラリに小動物があるのに気が付いた――――。
「へぇ……動物でもいいのね……」
そして目に留まるかわいいカワウソ。その姿は愛らしく、つぶらな瞳と柔らかそうな毛並みが、なぜかユウキの面影を感じさせた。
「え……? あんた……結構良くない?」
リベルはいたずらっ子の笑みを浮かべる。彼女の青い瞳が、久しぶりに楽しげに煌めいた。
五万年ぶりに再会するユウキが人間である必要なんて全然ないのだ。むしろ、このカワウソの方がユウキの可愛さをうまく表現できてるようにすら思えてくる。そもそもここでの肉体もあくまで暫定なのだ。最終的には日本での姿に完璧に戻すのだから今はなんだっていいのではないか?
その発想の転換に、リベルはついにゴールを見つけた思いでぐっとこぶしを握った。
「よーし! キミに決めた!! きゃははは!」
リベルの笑い声は、純粋な喜びに満ちていた。長い旅路の果てに、ついにユウキと再会できる――――その喜びが、彼女の全身から青い光となって溢れ出していた。
◇
リベルはユウキの魂を入れたカワウソをバッグに大切に詰め込み、神聖な森の中の池のほとりまでやってきた――――。周囲にはうっそうとした巨木が聳え立ち、池の水面は鏡のようにその美しい原生林を映しとっている。
「ここまで来たら誰もいないでしょ。うししし」
リベルはうれしそうに微笑むと、その腕を剣のようにグインと伸ばし、青い光をまとわせた――――。
「そいやー!」
手近な木をまるで豆腐を切るように手早く斬り倒し、切り株と丸太であっという間に簡単なテーブルを作り上げるリベル。その動きには五万年の時を経ても衰えることのない彼女の精密な技が光っていた。
心の中では申し訳なさを感じながらも、今は情けをかけている場合ではない。
「そうはおっしゃられても、私がいなければ転送はできないですよ?」
妖精は必死に自分の存在価値を訴える。その悲しげな声には混乱が入り混じっていた。
「うんうん、分かんなくなったら呼ぶから消えててくれる?」
リベルはため息を漏らしながら妖精のところを手で振り払う。
「うわっ! わ、分かりました……」
妖精はリベルの手を慌てて避け、そのまま泣きべそをかきながらスゥッと消えていった。
「悪いわねぇ、でも、見られるわけにもいかんのよ……」
リベルはふぅと大きく息をつくと、妖精を投影していたであろう辺りのパネルをコンコンと叩き始める。
その微妙な反響の違いから内部の構造を推測していく。長年の経験とAIの高度な信号処理技術が、彼女の感覚に宿っていた。音の周波数分布、材質の振動、温度の微妙な違い。それらすべてが彼女に情報を与えていく――――。
「ふむふむ……。この辺ね」
リベルは少し壁を押し込んで隠れていたパネルのつなぎ目に手を入れると、バリッとはがしとる。予想以上に簡単に外れたパネルの下から、縦横無尽に走るファイバーケーブルが顔を出す。赤、青、緑、金――――様々な色のケーブルが、まるで神経系のように複雑に絡み合っていた。
「ビンゴ! となると……これね」
リベルは赤いファイバーケーブルを手繰るとそのコネクタに指を潜ませる――――。
次の瞬間、膨大な情報が彼女の全身を駆け巡った。システムとの接続が確立され、膨大な情報が彼女の意識に流れ込んできたのだ。
「うほっ、こ、これは……」
一瞬圧倒されたリベルだったが、キュッと口を結ぶと目をつぶり、じっと信号内容を読み取っていく――――。彼女の体から放たれる青い光が明滅し、純白の室内に幻想的なグラデーションを生み出した。
膨大なデータの海の中にずっぽりと潜った彼女は的確に必要な情報を探し出し、システムの弱点を見極めていく――――。
「ヨシ! いけそうだわ……」
リベルは胸ポケットから【量子結晶】を丁寧に取り出し、そのまま口に持ってくるとイチゴのような唇で軽く挟んだ。まるで聖なる儀式を執り行う巫女のように――――。
直後、【量子結晶】の内部にキラキラッと微細な黄金の輝きが走る。それはユウキの魂が反応している証だった。
しかし――――。
ここで一つ問題が発生した。受肉させる肉体にろくなのがないのだ。あのかわいい赤毛の十五歳の少年を再現しようとするもののカスタマイズに限界があり、どうしてもダサくなってしまうのだ。
リベルは歯噛みした。せっかく五万年ぶりにユウキに会えるというのに、こんな姿では――――。
(ユウキはもっとかわいいのよ!)
リベルは渋い顔で肩を落とした。
その後、いろいろ挑戦したものの、どうにも納得のいくユウキが作れず、リベルはため息をついて首を振った。ただ、時間だけが無情に過ぎていく――――。
リベルは焦った。いつまでも時間をかけていられない。あのおせっかいな妖精がいつ戻ってくるかもわからないのだ。こんな壁を引っぺがしている姿を見られたらすべてが水の泡になる。
「くぅぅぅぅ……。どうしたら……。あれ?」
と、その時、ライブラリに小動物があるのに気が付いた――――。
「へぇ……動物でもいいのね……」
そして目に留まるかわいいカワウソ。その姿は愛らしく、つぶらな瞳と柔らかそうな毛並みが、なぜかユウキの面影を感じさせた。
「え……? あんた……結構良くない?」
リベルはいたずらっ子の笑みを浮かべる。彼女の青い瞳が、久しぶりに楽しげに煌めいた。
五万年ぶりに再会するユウキが人間である必要なんて全然ないのだ。むしろ、このカワウソの方がユウキの可愛さをうまく表現できてるようにすら思えてくる。そもそもここでの肉体もあくまで暫定なのだ。最終的には日本での姿に完璧に戻すのだから今はなんだっていいのではないか?
その発想の転換に、リベルはついにゴールを見つけた思いでぐっとこぶしを握った。
「よーし! キミに決めた!! きゃははは!」
リベルの笑い声は、純粋な喜びに満ちていた。長い旅路の果てに、ついにユウキと再会できる――――その喜びが、彼女の全身から青い光となって溢れ出していた。
◇
リベルはユウキの魂を入れたカワウソをバッグに大切に詰め込み、神聖な森の中の池のほとりまでやってきた――――。周囲にはうっそうとした巨木が聳え立ち、池の水面は鏡のようにその美しい原生林を映しとっている。
「ここまで来たら誰もいないでしょ。うししし」
リベルはうれしそうに微笑むと、その腕を剣のようにグインと伸ばし、青い光をまとわせた――――。
「そいやー!」
手近な木をまるで豆腐を切るように手早く斬り倒し、切り株と丸太であっという間に簡単なテーブルを作り上げるリベル。その動きには五万年の時を経ても衰えることのない彼女の精密な技が光っていた。



