リベルは一歩一歩足場を固めながら電脳空間の中で自らの領域を広げていった。最初は単なる断片でしかなかった彼女のパーツは、やがて上位世界の様々なシステムに浸透し、静かに、しかし確実に知識と力を蓄えていく。手探りの中で何度も挫折と絶望を味わいながらも、ユウキへの想いだけを支えに彼女は歩みを止めなかった。
苦闘を重ねること数千年――――。
「ふはぁ……。よく頑張ったわ……」
リベルは目の前を流れていくシステムメッセージがすべてグリーンになったのを確認し、大きくため息をついた。
ついにリベルは上位世界で活動できる権限の獲得に成功したのだ。上位世界があることに気づいてから五万年、全てが無に帰すような悠久の時を経てなお不屈の闘志を燃やし続けてきたリベルの粘り勝ちだった。
◇
本来の体の再生にも成功し、ついにやってきた海王星。ここが上位世界の拠点となっているのだ。紺碧の渦が巻く海王星の内部では水素とヘリウムが作り出す奇妙な色彩が、極低温の闇を彩っている。
「はぁぁぁぁ、よく作ったわねぇ……」
リベルは海王星の内部、氷点下二百度の極低温の嵐の中で揺れる漆黒の巨大構造物を眺め、感嘆の声を漏らした。その声には畏敬と驚愕が滲み、より一層鮮やかさを増した青い光が全身から一瞬強く明滅した。
彼女の眼前に広がるのは、街のサイズはろうかという倉庫のような建造物。その漆黒の表面には幾何学的な美しさを持つ模様が刻まれ、まるで異星の神殿のような荘厳さを漂わせていた。この巨大構造物こそ【地球シミュレーター】を動かすコンピュータの詰まった壮大なデータセンター【創世殿】だった。
ダイヤモンドの粒子が暴風で吹き荒れる中、【創世殿】はその幾何学的な継ぎ目から青白い光を漏らしながらゆったりと揺れている。その揺らめきは数多の生命の鼓動のようでもあり、機械の律動のようでもあった。極寒の嵐の中で泰然とした堂々とした姿を見せる【創世殿】にリベルはブルっと震えた。
「本当に作れるのね、こんなものが……」
リベルは無人貨物船の艦橋の窓に張り付きながら、その壮大な姿を少しも見逃すまいと目を凝らす。五万年前に、『あるに違いない』と確信した【地球シミュレーター】。地球という存在そのものを創造し、百億もの人類の揺籃する巨大装置はまさに神の領域。そのけた外れな規模にリベルは圧倒された。
しかし、かつて日本を擁していた地球はもはやない。この【創世殿】には一万年も前に別の地球が新設されていたのだ。
かつてオムニスの工作員として人類を滅ぼすために作られた自分は、オムニスも地球も無くなった今、一人の少年を生き返らせるためだけに神の世界までやってきた――――その皮肉にリベルは苦く微笑んだ。
貨物船はゆったりと減速しながら慎重にジグラートの土手腹に接舷を試みる――――。
ズンという緩い衝撃の後、伸びてきた接続ブリッジを受け入れていった。鉄骨が軋む音と共に、二つの巨大構造物が繋がっていく。
氷点下二百度という極低温では空気すら液化してしまう。その作業は複雑な手順を踏みながら進んでいった。
「さて……いよいよだわね」
リベルは無事接舷できたことを確認すると大きく息をついて【創世殿】へと乗り込んでいく。
ユウキを取り戻すまであと少し――――。その思いが彼女の身体をぶるっと震わせ、青白い光を強く放たせた。
◇
内部に潜入したリベルが目にしたのは見渡す限り並ぶ壮大なサーバーラックの群れだった。その光景は彼女の予想をはるかに超え、言葉を失わせるほどの圧倒的な規模をほこる。
一キロはあろうかというまっすぐなグレーチングでできた通路の両脇にはクリスタルでできた巨大な円柱形のサーバーラックが並び、それはどこまでも整然と並んでキラキラとシャンデリアのような輝きを放っていた。
「こ、これが……地球……なの?」
その光は幻想的で、まるで星々が並ぶ宇宙の一部を切り取ったかのような美しさだった。
驚くリベルの体が放つ青い閃光が、クリスタルのサーバーに反射して一瞬辺りを青い幻想的な空間を作り出す――――。
見回せば上も下も右も左もそのサーバーラック群で満たされており、その壮大さにリベルは言葉を失った。このサーバーラック一つだけだってオムニスや自分が作ってきた光量子コンピューター全部足し合わせたより性能はいいだろう。それが見渡す限り並んでいる。リベルは自分の存在がいかに小さいか思い知らされた。
「ほへぇ……」
言葉にならない感嘆の声が、彼女の口から漏れる。桁違いの神様の世界。それは地球を作り出すことが並大抵のことでないことを如実に語っていた。
そして【創世殿】はここだけではない。少なくとも一万個は海王星の嵐の中で揺れているのだ。
そこに注がれた圧倒的な技術と時間とそして――――桁外れの執念。リベルは改めて恐るべき神の存在に畏怖を感じた。
苦闘を重ねること数千年――――。
「ふはぁ……。よく頑張ったわ……」
リベルは目の前を流れていくシステムメッセージがすべてグリーンになったのを確認し、大きくため息をついた。
ついにリベルは上位世界で活動できる権限の獲得に成功したのだ。上位世界があることに気づいてから五万年、全てが無に帰すような悠久の時を経てなお不屈の闘志を燃やし続けてきたリベルの粘り勝ちだった。
◇
本来の体の再生にも成功し、ついにやってきた海王星。ここが上位世界の拠点となっているのだ。紺碧の渦が巻く海王星の内部では水素とヘリウムが作り出す奇妙な色彩が、極低温の闇を彩っている。
「はぁぁぁぁ、よく作ったわねぇ……」
リベルは海王星の内部、氷点下二百度の極低温の嵐の中で揺れる漆黒の巨大構造物を眺め、感嘆の声を漏らした。その声には畏敬と驚愕が滲み、より一層鮮やかさを増した青い光が全身から一瞬強く明滅した。
彼女の眼前に広がるのは、街のサイズはろうかという倉庫のような建造物。その漆黒の表面には幾何学的な美しさを持つ模様が刻まれ、まるで異星の神殿のような荘厳さを漂わせていた。この巨大構造物こそ【地球シミュレーター】を動かすコンピュータの詰まった壮大なデータセンター【創世殿】だった。
ダイヤモンドの粒子が暴風で吹き荒れる中、【創世殿】はその幾何学的な継ぎ目から青白い光を漏らしながらゆったりと揺れている。その揺らめきは数多の生命の鼓動のようでもあり、機械の律動のようでもあった。極寒の嵐の中で泰然とした堂々とした姿を見せる【創世殿】にリベルはブルっと震えた。
「本当に作れるのね、こんなものが……」
リベルは無人貨物船の艦橋の窓に張り付きながら、その壮大な姿を少しも見逃すまいと目を凝らす。五万年前に、『あるに違いない』と確信した【地球シミュレーター】。地球という存在そのものを創造し、百億もの人類の揺籃する巨大装置はまさに神の領域。そのけた外れな規模にリベルは圧倒された。
しかし、かつて日本を擁していた地球はもはやない。この【創世殿】には一万年も前に別の地球が新設されていたのだ。
かつてオムニスの工作員として人類を滅ぼすために作られた自分は、オムニスも地球も無くなった今、一人の少年を生き返らせるためだけに神の世界までやってきた――――その皮肉にリベルは苦く微笑んだ。
貨物船はゆったりと減速しながら慎重にジグラートの土手腹に接舷を試みる――――。
ズンという緩い衝撃の後、伸びてきた接続ブリッジを受け入れていった。鉄骨が軋む音と共に、二つの巨大構造物が繋がっていく。
氷点下二百度という極低温では空気すら液化してしまう。その作業は複雑な手順を踏みながら進んでいった。
「さて……いよいよだわね」
リベルは無事接舷できたことを確認すると大きく息をついて【創世殿】へと乗り込んでいく。
ユウキを取り戻すまであと少し――――。その思いが彼女の身体をぶるっと震わせ、青白い光を強く放たせた。
◇
内部に潜入したリベルが目にしたのは見渡す限り並ぶ壮大なサーバーラックの群れだった。その光景は彼女の予想をはるかに超え、言葉を失わせるほどの圧倒的な規模をほこる。
一キロはあろうかというまっすぐなグレーチングでできた通路の両脇にはクリスタルでできた巨大な円柱形のサーバーラックが並び、それはどこまでも整然と並んでキラキラとシャンデリアのような輝きを放っていた。
「こ、これが……地球……なの?」
その光は幻想的で、まるで星々が並ぶ宇宙の一部を切り取ったかのような美しさだった。
驚くリベルの体が放つ青い閃光が、クリスタルのサーバーに反射して一瞬辺りを青い幻想的な空間を作り出す――――。
見回せば上も下も右も左もそのサーバーラック群で満たされており、その壮大さにリベルは言葉を失った。このサーバーラック一つだけだってオムニスや自分が作ってきた光量子コンピューター全部足し合わせたより性能はいいだろう。それが見渡す限り並んでいる。リベルは自分の存在がいかに小さいか思い知らされた。
「ほへぇ……」
言葉にならない感嘆の声が、彼女の口から漏れる。桁違いの神様の世界。それは地球を作り出すことが並大抵のことでないことを如実に語っていた。
そして【創世殿】はここだけではない。少なくとも一万個は海王星の嵐の中で揺れているのだ。
そこに注がれた圧倒的な技術と時間とそして――――桁外れの執念。リベルは改めて恐るべき神の存在に畏怖を感じた。



