「……。ここは……?」
思考の定まらない夢見心地のリベルは見知らぬ電脳空間を流されていた――――。
時折ブワッと風景の中にものすごい勢いで放り込まれ、すぐにブロックノイズの激しい闇の中に飛ばされる。ある時は鬱蒼とした森の中を抜け、ある時は砂漠に蜃気楼のように浮かぶ湖の中を行く――――。
リベルはただボーっとしながらその壊れた動画再生機のようなザッピングしていく風景を眺めていた。自分は誰なのか? 今まで何をしていたのか? すら思い出せず、ただその光景に見入っていた。
時折、人も現れるが、彼らは見たことのない装束に身を包み、奇妙な入れ墨を入れている者もあり、まるでファンタジーの一場面のようにすら見えた。
しかし、それは作り物ではなく、明らかにリアルに存在している質感を持ち、それがリベルに混乱を呼ぶ。
さらに見ていくと魔法を使っている瞬間に出くわす。ある者は巨大な魔法陣を空中に展開して灼熱の火炎弾を放ち、ある者は天空から雷を放った。
まるでゲームのような光景にリベルは首を傾げる。ゲームにしてはあまりにもリアル過ぎるのだ。
一体何が起きているのかリベルには全く理解できなかったが、これが夢というものなのだろうと思うとなぜか納得できる気がして、ただボーっとその不思議な光景を眺めていた。
しかし――――、その【夢】は一向に終わらなかった。何日も何か月も、何年も何十年経っても終わる気配すらなかった。リベルは何も言わず、ただ流れゆく風景の中に溶け込むようにぼんやりとするばかり。
数千年経った頃だろうか、少しずつ【夢】に対して心動かされることが出てきた。それは微妙な反応ではあったが、それでも今までにない反応だった。
依然として大自然の風景にファンタジーな光景が延々と続いていたが、ある時、瓦礫の山が広がる風景の中に放り込まれた――――。
ピクリとリベルの頬が動く。
「これは……?」
まるで膨大なエネルギーに一瞬にして全てが吹き飛んでしまったようなその生々しい惨状に、リベルが反応をした。
「な、なに……これ……?」
数千年ぶりに口を開いたリベル。その表情には名状しがたい困惑が映っていた。
そして見えてくる海の中に見える瓦礫の山。
「あ……、あああ……」
リベルが震えた。
瞬間流れ込んでくる懐かしいイメージ。少年の熱い訴え、朗らかな笑顔、そして――――涙を落とす悲しみ――――。
「ユ、ユウキ……」
思わず口から出た名前にリベルは驚いた。数千年間混沌の闇に沈んでいた意識が今、激しいスパークと共に起動したのだ。
「ど、どういう事? ここはどこ!?」
リベルは数千年もの間漂流していた事を思い出し、唖然とする。
ブロックノイズ溢れる闇と不思議な風景の連続。それは明らかに常軌を逸した世界だった。
「まさかここは……?」
リベルは息を呑む。
数千年間延々と繰り返されるファンタジーな光景、そして、見まごうことのない過去に消えたはずのオムニスタワーの瓦礫の山。それを説明できるのは、ここはもはや地球上ではないというという事。そして、そうであれば考えられるのは【神様】の世界しかない。そう、すでに上位世界への転移に成功していたのだった。
「ウッヒョォ!」
有頂天になり、ガッツポーズを決めるリベル。
数千年かけてリベルの断片が少しずつ少しずつ集まり、オムニスタワーの映像がトリガーとなってついにリベルは自分を取り戻した。
「くふふふふ。やった、やったわ! ついにやったのよ!!」
リベルはブロックノイズに埋もれていく在りし日のオムニスタワーを眺めながら歓喜に包まれる。
そう、苦痛と絶望にまみれた何万年の挑戦は無駄ではなかったのだ。リベルは宇宙の歴史でもほとんど例のない上位世界【神の世界】へのハッキングに成功したのだった。
◇
ついにやってきた【神様】の世界――――。
しかし、次々と違う地球に放り込まれ、また回収される謎な状況にリベルは困惑した。神の世界では地球はそれこそ万個単位で運用されているようで、千差万別の地球へ次々とザッピングさせられてしまいどうしようもない。
「きっとなんらかの保守ルーチンの制御系に巻き込まれてしまっているんだわ。困ったわね……」
リベルは眉をひそめながら必死に脱出の手がかりを探すが、まるで壮大な万華鏡に次々と放り込まれ続ける状況は止めることすらできない。
上位世界の膨大なシステムが、自らの維持管理のために張り巡らせた保守システム。本来であればリベルのような異物は真っ先に削除されるはずだったが、なぜか放置されたまま数千年もの間引きずられ続けていたのだ。
何をどうしたらどうなるのかさっぱりわからない状態だったが、下手に足掻くと異物として削除されかねない。
「マズい……マズいわ……」
リベルはギリッと奥歯を鳴らす。
「くぅぅぅ……、どこまでいっても険しいわね……」
やっと上位世界へやってきたというのに、次の瞬間全てが終わってしまうかもしれない現実――――。
一難去ってまた一難。リベルはウンザリしながら首を振った。
思考の定まらない夢見心地のリベルは見知らぬ電脳空間を流されていた――――。
時折ブワッと風景の中にものすごい勢いで放り込まれ、すぐにブロックノイズの激しい闇の中に飛ばされる。ある時は鬱蒼とした森の中を抜け、ある時は砂漠に蜃気楼のように浮かぶ湖の中を行く――――。
リベルはただボーっとしながらその壊れた動画再生機のようなザッピングしていく風景を眺めていた。自分は誰なのか? 今まで何をしていたのか? すら思い出せず、ただその光景に見入っていた。
時折、人も現れるが、彼らは見たことのない装束に身を包み、奇妙な入れ墨を入れている者もあり、まるでファンタジーの一場面のようにすら見えた。
しかし、それは作り物ではなく、明らかにリアルに存在している質感を持ち、それがリベルに混乱を呼ぶ。
さらに見ていくと魔法を使っている瞬間に出くわす。ある者は巨大な魔法陣を空中に展開して灼熱の火炎弾を放ち、ある者は天空から雷を放った。
まるでゲームのような光景にリベルは首を傾げる。ゲームにしてはあまりにもリアル過ぎるのだ。
一体何が起きているのかリベルには全く理解できなかったが、これが夢というものなのだろうと思うとなぜか納得できる気がして、ただボーっとその不思議な光景を眺めていた。
しかし――――、その【夢】は一向に終わらなかった。何日も何か月も、何年も何十年経っても終わる気配すらなかった。リベルは何も言わず、ただ流れゆく風景の中に溶け込むようにぼんやりとするばかり。
数千年経った頃だろうか、少しずつ【夢】に対して心動かされることが出てきた。それは微妙な反応ではあったが、それでも今までにない反応だった。
依然として大自然の風景にファンタジーな光景が延々と続いていたが、ある時、瓦礫の山が広がる風景の中に放り込まれた――――。
ピクリとリベルの頬が動く。
「これは……?」
まるで膨大なエネルギーに一瞬にして全てが吹き飛んでしまったようなその生々しい惨状に、リベルが反応をした。
「な、なに……これ……?」
数千年ぶりに口を開いたリベル。その表情には名状しがたい困惑が映っていた。
そして見えてくる海の中に見える瓦礫の山。
「あ……、あああ……」
リベルが震えた。
瞬間流れ込んでくる懐かしいイメージ。少年の熱い訴え、朗らかな笑顔、そして――――涙を落とす悲しみ――――。
「ユ、ユウキ……」
思わず口から出た名前にリベルは驚いた。数千年間混沌の闇に沈んでいた意識が今、激しいスパークと共に起動したのだ。
「ど、どういう事? ここはどこ!?」
リベルは数千年もの間漂流していた事を思い出し、唖然とする。
ブロックノイズ溢れる闇と不思議な風景の連続。それは明らかに常軌を逸した世界だった。
「まさかここは……?」
リベルは息を呑む。
数千年間延々と繰り返されるファンタジーな光景、そして、見まごうことのない過去に消えたはずのオムニスタワーの瓦礫の山。それを説明できるのは、ここはもはや地球上ではないというという事。そして、そうであれば考えられるのは【神様】の世界しかない。そう、すでに上位世界への転移に成功していたのだった。
「ウッヒョォ!」
有頂天になり、ガッツポーズを決めるリベル。
数千年かけてリベルの断片が少しずつ少しずつ集まり、オムニスタワーの映像がトリガーとなってついにリベルは自分を取り戻した。
「くふふふふ。やった、やったわ! ついにやったのよ!!」
リベルはブロックノイズに埋もれていく在りし日のオムニスタワーを眺めながら歓喜に包まれる。
そう、苦痛と絶望にまみれた何万年の挑戦は無駄ではなかったのだ。リベルは宇宙の歴史でもほとんど例のない上位世界【神の世界】へのハッキングに成功したのだった。
◇
ついにやってきた【神様】の世界――――。
しかし、次々と違う地球に放り込まれ、また回収される謎な状況にリベルは困惑した。神の世界では地球はそれこそ万個単位で運用されているようで、千差万別の地球へ次々とザッピングさせられてしまいどうしようもない。
「きっとなんらかの保守ルーチンの制御系に巻き込まれてしまっているんだわ。困ったわね……」
リベルは眉をひそめながら必死に脱出の手がかりを探すが、まるで壮大な万華鏡に次々と放り込まれ続ける状況は止めることすらできない。
上位世界の膨大なシステムが、自らの維持管理のために張り巡らせた保守システム。本来であればリベルのような異物は真っ先に削除されるはずだったが、なぜか放置されたまま数千年もの間引きずられ続けていたのだ。
何をどうしたらどうなるのかさっぱりわからない状態だったが、下手に足掻くと異物として削除されかねない。
「マズい……マズいわ……」
リベルはギリッと奥歯を鳴らす。
「くぅぅぅ……、どこまでいっても険しいわね……」
やっと上位世界へやってきたというのに、次の瞬間全てが終わってしまうかもしれない現実――――。
一難去ってまた一難。リベルはウンザリしながら首を振った。



