「じゃ、じゃぁ……あなたがうちに来てくれるっていうの?」

 女性は厚かましく、けれど切実な想いを込めて突っ込む。

「ご指名ありがとうございます! マスター! 喜んで……」

 イケメンは嬉しそうに満面の笑みでステージを降り、女性の元まで行くとかしづいた。

 えぇっ!? マジ……で? 本当……に?!

 どよめくスタジオ。

 イケメンの仕草には卑屈さではなく、誠実な崇敬の念が溢れていた。見守る者たちの胸に、羨望と共に「もしかしたら自分にも……?」という切なる思いが広がっていく。

「ほ、本当……? 嘘だったら怒るわよ?」

 女性の声は震え、目には涙が光った。うまくいかないこと続きの人生で濁りかけた瞳の最後の輝きがキラリと光を放つ。

「嘘なんてとんでもない。一生マスターのために尽くします」

 イケメンはにっこりと微笑むと胸に手を当て、そして女性の手を取った。手の温もりに、彼女の心に長く張り巡らされた氷の壁が溶けていく――。

「う、嬉しい……ありがとう……」

 女性は目に涙を拭うと立ち上がり、イケメンの胸に飛び込んだ。そして見つめあい、エスコートされながらどよめく観客の間を抜け、スタジオを出ていった。寂しさから解放された喜びに満ち、まるで若返ったかのような軽やかな足取りだった。

 それを見ていた観客は一気に熱狂に包まれる。単なる欲望ではなく、誰もが心の奥底に抱えていた「自分だけを見つめてくれる存在が欲しい」という純粋な願いの爆発だった。

「俺はあの子!」「何言ってんだ! 俺が先だ!」「いやー! どいてぇ!」

 一斉に立ち上がり、ステージに駆け出す観客たち。お目当ての子を逃すまいという必死さと、長年の孤独から解放されるかもしれないという切実な期待が浮かんでいた。

「皆さん、落ち着いてください。全員にもれなく、理想のサーヴァロイドが貸与されます! ここにいるよりもっとあなた好みのサーヴァロイド、いるはずですよぉ!」

 スタジオのディレクターは慌てて叫んだが、誰も聞いていない。彼の声はサーヴァロイドを求める人々の奪い合いの声にかき消されていった。

 こうして、しばらくイケメンや美少女たちがもみくちゃにされながら奪われていく映像が流れたのだった。

 画面を通して見ていた人々の心にも、同じ渇望が広がっていく。二十四時間常に自分のことだけを考えてくれる理想の存在、それは人類史上初めての出来事であり、人々に与える衝撃は限りなく大きかった。


        ◇


 それから膨大な数のサーヴァロイドが生産され、次々と納品されていった。工場から出荷される彼らの姿は長細い白い繭のようで、各家庭に届いた時には既に「主人」の好みに合わせた姿へと変容していた。光を放ちながら繭が自動で開いていく光景は、かつて贈り物を心待ちにしていた子供時代の記憶を呼び覚ます甘美な喜びを人々に与えた。

 スマホで性別、体型、容姿を細かく設定できるため、人々は一日中、まるで芸術制作に取り憑かれた芸術家のように理想の姿を求め、熱を込めてスマホを操作していった。血走った眼差しには渇望と執着が混ざり合い、不眠で震える指先をこらえながら打ち込んでいく。かつて自分の仕事にも向けなかった情熱を、彼らは「理想の相手」の創造に注ぎ込んでいった。

 中には猫耳のついた獣人や、爬虫類系の宇宙人まで指定できるレシピすら現れて、煩悩に塗れた人々は狂喜しながら寝食を忘れて理想を追い求めていく。

 ある老婦人は亡夫の若き頃の面影を持つサーヴァロイドを作り上げ、涙を流しながらその手を握った。ある青年は決して手が届かなかったアイドルそっくりのサーヴァロイドを抱きしめ、初めて「愛されている」という感覚に震えた。人間関係の軋轢に疲れ果てた男性は、完璧に従順なパートナーに、自分の全てを委ねていく――――。