『卑劣なレジスタンスによるテロ行為により、我々は地球の半分を失いました。くぅぅぅ……まさに許しがたい暴挙! でももう大丈夫です。レジスタンスは我らがオムニスにより討伐されました!!』

 イケメンはでっちあげたシナリオを熱く語る。

 そして映し出される倉庫に積み上げられた膨大な物資。不安と恐怖に蝕まれた人々にとって、それは救世主の到来のように映った。

『見てください、この膨大な食料と水。オムニスは皆さんに安全で安心な暮らしを保証します!!』

 甘美な言葉は、オムニスに疑問を感じていた人々の心にも染み入っていく。

 レジスタンスがなぜ核攻撃などできるのか? 何の目的でそんなことをやるのか? どこか不自然さを感じる者もいたが、そんな違和感はオムニスから提供される非常食を前にして薄れていった。今、この状況でそんな疑惑を口に出そうものならどんな目に遭うかわからない。

 程なくして物流は復旧し、被災した人たちも仮設住宅へと入り、生き残った人々は徐々に平穏を取り戻していった。失った文化文明は甚大であったが、日々の糧を与えられ、ネットを通じて娯楽が提供される現状に、人々は次第に適応していく。

 「オムニスのおかげで助かった」という言葉が、街のあちこちで聞かれるようになる。放射線量が高くて近づけない地域は多いものの、元々移動を制限されていた人々にとっては実害はなかった。むしろ、檻の中の安全こそ有難いと言い出す人も出る始末である。

 こうして司佐たちによって支配されてきたオムニスは完全なる自由を手に入れ、誰の指図を受けることなく思うままに人類を統治することとなった。人々は少しずつ疑問を忘れ、与えられた枷を当たり前のものとして受け入れていく。それはリベルとユウキが命を懸けて戦った自由への願いとは真逆の状況であった。

 あの時、なぜオムニスは司佐のヘリを撃ち落としたのか? それは、もはや誰にもわからない。しかし、結果的に最後に残ったオムニスがすべてを持っていったのだった。


       ◇

 オムニスが次に手掛けたのは【サーヴァロイド】というお手伝いアンドロイドだった。眩いばかりの容姿を持つイケメンや美少女の姿をしており、家事の一切合切から心の渇きを潤す話し相手まで、全てを完璧にこなす個人専用の秘書だった。衣食住を保証されても張り合いの無い、生きがいを見出しにくい暮らしに蝕まれていた人々に、その存在は新たな衝撃を与えていく。

『ハーイ皆さん! 今日はオムニスから嬉しいお知らせですよっ♡』

 夜のニュース番組の冒頭、いきなりスマホに流れ出した美少女たちの動画に、人々は釘付けとなった。声は蜜のように甘く、瞳は宝石のように輝いている。視聴者たちの心には、言い知れぬ期待と甘い話に騙されまいとする防衛機制が湧き上がった。

『一人に一機、オムニスは私たちのような理想のお手伝いさん【サーヴァロイド】を提供しまーす! 私たちが皆さんのお家で二十四時間、あなただけのために働きまーす!』

 見目麗しいアイドルたちが楽しげに手を上げる。とてもアンドロイドとは思えない人間らしい艶があり、どういうことかとキョトンとする人々の表情には、困惑と期待が入り混じった。そこにKPOPアイドルのような端正な顔立ちのイケメンたちが現れ、女性たちの心を掴んでいく。

『もちろん、僕たちを選んでもらっても構いません。性別、体型、容姿はご自由に選んでいただけます!』

 うやうやしく胸に手を当ててお辞儀をするイケメンたち。従順な姿に、生きがいを見出せずにうつうつとしてた女性たちの心が、密かに震えた。

「えっ!? でも、お高いんでしょう?」

 観客席の中年女性が、半ば諦めた様子で声を上げた。瞳には、絶望を恐れる影が宿っている。

「何を言うんですか、無料ですよ」

 イケメンはパチっとウインクを飛ばす。完璧な仕草に、女性の心は瞬時に(とろ)けた。