ビーッビーッ!

「侵入者をハイジョ!」「侵入者をハイジョ!」「侵入者をハイジョ!」

 下階からガチャガチャと金属音を立てながら、無数のガーディアンロボットが押し寄せてくる。

「これは奴の分身だわ! 逃げるよ!」

 リベルは渋い顔でそう叫ぶと、ユウキの腕を掴んで奥の通路へと引っ張った。

「ぶ、分身? じゃぁ、本体は人間なの?」

 通路を必死に駆け、息を切らしながら問うユウキ。

「多分ね……うぉーりゃぁ!」

 リベルが放つ閃光が、暗い通路を青白く染め上げる。

 うひぃ!

 直後、ズン! という激しい衝撃音と共に、目の前のドアが吹き飛んだ。

 ヴィィィン! ヴィィィン!

 真っ赤な警告灯が明滅するオムニスビルの通路を、二人は全力で駆けた。足音が、緊迫した空気を切り裂いていく。

「よし! このまま真っすぐよ!」

 角を曲がるとリベルが叫ぶ。

「ねぇ! どこに……逃げるの!?」

 ユウキは泣きそうな顔で必死に駆ける。捕まれば処刑は免れない。さっきの綾香の悲鳴が胸の奥で響き、心臓が喉元(のどもと)まで飛び出しそうなほど激しく脈打つ。

 その時、脇道から一機のガーディアンロボットが躍り出た――――。

「侵入者ハッケン!」

 見れば何やら銃器を構えている。ここはもうパーティ会場ではない。銃器も許可されてしまっていた。

「邪魔よっ!」

 リベルの放つ青白い閃光が、通路を光で埋め尽くす。

 ズン! という衝撃音と共に、ガーディアンが弾き飛ばされた。

 うひぃ!

 ユウキは立ち昇る黒煙の中、バラバラになったガーディアンの破片を飛び越えながら必死に前へと駆け抜ける。

「タダチニ止マりナサイ!」

 後方から機械的な声が響く。

「やなこった!」

 リベルは振り返りざま、青白い光弾を放つ――――。

 ズン! という後方からの衝撃波に、ユウキは思わずバランスを崩し、前のめりになる。

 うわぁぁぁ!

 転べば捕まりかねない恐怖が背中を()でる。

 ギリギリのところで体勢を立て直せそうになった瞬間――――。

 パン! パン! という鋭い銃声が、空気を震わせた。

 うっひひぃぃぃ!

 ユウキの頬を(かす)める弾丸。灼熱(しゃくねつ)が、死の気配を運んでくる。

 前のめりになってなければ当たっていただろう。何という幸運。

 弾丸は突き当たりの大きな窓に次々と着弾し、強化ガラスが(きし)むような音を立てながら崩れ落ちていった。

「丁度いいわ! 全力で飛び込んで!」

 リベルの声が弾む。瞳には、危険な(きら)めきが宿っていた。

「へ? 窓の外に……飛び出せって?」

 ユウキの顔から血の気が引く。ここは地上数百メートル。パラシュートも何もない自分が無事に降りられるイメージなどわかなかった。

「いいから! それとも奴らに撃たれたいの?」

 リベルは()れったそうにユウキを(にら)む。

「でも、飛び出すって……」

 ユウキの声が(かす)れる。映画でだって生身でビルからダイブなんてしないのだ。

 だが、背後からはパンパン!と散発的に銃撃が続いていた。もはや猶予は無い。

「いいから!」

 リベルの声が咆哮(ほうこう)のように響く。

 割れた窓はすぐ目の前。背後からは弾丸――――。

「もう嫌だぁぁぁ!!」

 ユウキはギュッと目をつぶると絶望的な叫びを上げながら、割れた窓目がけて全力で踏み切った――――。

 全ての喧騒が瞬時に消え、ただゴーっと風を切る音が響く。

 そっと目を開けば目の前に広がる東京湾の絶景。そして周りにそびえる高層ビル群が作り出す、まるで万華鏡(まんげきょう)のような光景。

 はわぁ……。

 摩天楼の宙を飛ぶ。異様な感覚に、ユウキの意識は現実と非現実の狭間を彷徨っていた。いまだかつてない体験に、ユウキはただぼーっと絶景を眺めていた。

 リベルは必死にユウキのシャツを(つか)み、上へと引き上げようとしている。引き千切れそうな布地の擦れる音が、風を切る音に溶けていく。しかし、小さな体では到底支えきれるはずもない。

 ゴゴゴゴと、耳を(つんざ)く風切り音を立てながら、ユウキの体は加速しながら真っ逆さまに()ちていく。摩天楼を抜ける潮風が頬を打ち、全身を包み込んでいった。