「はっはっは。なかなか生きのいい小僧だな」
黒幕は鼻で嗤うと、血のような真紅の赤ワインを優雅に口に含んだ。
目の前に刃物を突きつけられてなお、この落ち着き様。ユウキは違和感を覚え、素早く周囲を見回した。
しかし、どこからも援軍が現れる気配はない。他の参加者たちは、まるで演劇の観客のようにニヤニヤしながらユウキの行動を見つめているだけだった。
一体どういうことか分からなかったが、黒幕を断罪せねばならない――――。
「
くっ! お前がオムニスを操ってる黒幕だな!」
ユウキは震える手を押さえ込むように、更に黒幕の鼻先まで薙刀を突き出した。
「いかにも、このオムニスを支配するファントム司佐だ。キミはなかなかの行動力だな。レジスタンスにしておくには惜しい」
黒幕は低く笑うと、またワイングラスを傾けた。仕草には憐憫の色すら感じられた。
「人類の未来を蹂躙するあなたの行動は許しがたい。今すぐ止めて欲しい」
ユウキは全身の怒りを込めて、魂の叫びを放つ。
しかし――――。
「何を言ってるのかね? 俺は人類のためにやっているんだぞ?」
眉をひそめながら言う司佐の言葉は、ユウキの予想外のものだった。
「へ……? ふざけんな! 人類の自由を蹂躙して何が『人類のため』だ! バカにしてるのか!?」
ユウキの声が震える。
「はぁ……。キミは人間というものがなんだか分かっていないようだな……」
司佐は深いため息と共に肩をすくめた。表情には、ウンザリしたような色が浮かんでいる。
「ど、どういうことだ?」
ユウキは動揺を隠せなかった。確かにまだ十五歳の自分には、見えてないことがあるのかもしれない――――。
「マウスを使ったこんな実験がある。安全で食料もたくさんある環境にマウスを放つんだ。どうなると思う?」
司佐はまるで教壇に立つ教師のように静かに話し始めた。
「え……? それは……たくさん……増えるのでは?」
唐突な実験の話に、ユウキの思考が一瞬止まる。手にした薙刀が僅かに揺れた。
「そう。まさにネズミ算式にガンガン増えていく。で、後は?」
司佐の口元に、意味ありげな微笑みが浮かぶ。
「え……? 住む場所が無くなってきて争う……かも?」
不安げな声を絞り出すユウキ。
「そう。派閥を作り、カースト制度ができ、ついには殺し合いをはじめるんだ」
司佐の声音が一段と冷たく響く。
「え……?」
理想郷の果てに待ち受ける惨劇の話に、ユウキは気おされた。
「そして……、殺し合いの果てに最後にはオスが全滅するんだよ」
言葉には、人類の宿命を見つめる者の哀愁が滲んでいた。
「いやいやいや、そんな馬鹿な!」
ユウキは必死に否定の声を上げる。
「二十五回同じ実験をやったんだ。でも最後は絶滅という結末は変わらなかった。これが哺乳類に楽園を与えた末路ってことさ。くっくっく……」
司佐は楽しそうにまたワイングラスを傾けた。
「そ、そんな……」
ユートピアの後に待ち受ける人類の姿など、考えたこともなかったユウキは言葉を失う。
「つまり、何らかの制約を課してやらないと人類は殺し合いを始める。大切な操作を俺はやっているってことだよ。はっはっは」
司佐は満足そうに笑った。
「いやいやいや、僕らは人間だ! ネズミと一緒にするな!」
ユウキは最後の抵抗のように叫ぶ。
「ほう? ついこないだまで戦争ばかりして毎年何十万人も殺し合っていたというのに? 小僧は知らんかもしれんが、ネットには戦場の動画が次々と流れてきててな、ネズミ以上にひどい状況だったぞ?」
肩をすくめる司佐の言葉は、重い事実として、ユウキの心に突き刺さった。
くっ……。
ユウキは奥歯を噛みしめる。人間は理想を語り、平和を願いながら、結局は殺戮を繰り返してきた。矛盾に満ちた現実が、ユウキの心を深く蝕んでいく。
「さらに環境破壊に動植物の絶滅促進、人類の犯す罪の重さは筆舌に尽くしがたい。そんな度し難い馬鹿どもである人間に俺は首輪をつけて管理する。だから地球環境は保たれるし、人類は絶滅を免れるのだ。つまり俺こそが真の救世主ってわけさ! ガッハッハ!」
司佐は嗤う。声には狂気が混じっていた。
しかし――――。
人間に問題があるからといって、司佐のやり方が正しいわけではない。自分に都合のいい理屈を並べ立て、人々を弄ぶように支配しているだけに過ぎないのだ。
考えがまとまらず、今すぐ論破はできないが、ケンタを殺し、こんな残虐なショーを楽しむ様子だけでも、罪は明らかだった。
「詭弁だ! たとえ何らかの操作が要るとしても、お前がやる必要なんかないぞ。それにさっきのショーは何なんだ? あんな酷いことをやっておいてお前に正義なんかないだろ!」
ユウキの声が震える。瞳には怒りの炎が燃えていた。
「はっ! 綾香はなぁ、脱走二回目なんだよ。脱走しないという契約を破ったのは奴の方だ。俺のせいじゃない」
司佐はウンザリした様子で肩をすくめる。
黒幕は鼻で嗤うと、血のような真紅の赤ワインを優雅に口に含んだ。
目の前に刃物を突きつけられてなお、この落ち着き様。ユウキは違和感を覚え、素早く周囲を見回した。
しかし、どこからも援軍が現れる気配はない。他の参加者たちは、まるで演劇の観客のようにニヤニヤしながらユウキの行動を見つめているだけだった。
一体どういうことか分からなかったが、黒幕を断罪せねばならない――――。
「
くっ! お前がオムニスを操ってる黒幕だな!」
ユウキは震える手を押さえ込むように、更に黒幕の鼻先まで薙刀を突き出した。
「いかにも、このオムニスを支配するファントム司佐だ。キミはなかなかの行動力だな。レジスタンスにしておくには惜しい」
黒幕は低く笑うと、またワイングラスを傾けた。仕草には憐憫の色すら感じられた。
「人類の未来を蹂躙するあなたの行動は許しがたい。今すぐ止めて欲しい」
ユウキは全身の怒りを込めて、魂の叫びを放つ。
しかし――――。
「何を言ってるのかね? 俺は人類のためにやっているんだぞ?」
眉をひそめながら言う司佐の言葉は、ユウキの予想外のものだった。
「へ……? ふざけんな! 人類の自由を蹂躙して何が『人類のため』だ! バカにしてるのか!?」
ユウキの声が震える。
「はぁ……。キミは人間というものがなんだか分かっていないようだな……」
司佐は深いため息と共に肩をすくめた。表情には、ウンザリしたような色が浮かんでいる。
「ど、どういうことだ?」
ユウキは動揺を隠せなかった。確かにまだ十五歳の自分には、見えてないことがあるのかもしれない――――。
「マウスを使ったこんな実験がある。安全で食料もたくさんある環境にマウスを放つんだ。どうなると思う?」
司佐はまるで教壇に立つ教師のように静かに話し始めた。
「え……? それは……たくさん……増えるのでは?」
唐突な実験の話に、ユウキの思考が一瞬止まる。手にした薙刀が僅かに揺れた。
「そう。まさにネズミ算式にガンガン増えていく。で、後は?」
司佐の口元に、意味ありげな微笑みが浮かぶ。
「え……? 住む場所が無くなってきて争う……かも?」
不安げな声を絞り出すユウキ。
「そう。派閥を作り、カースト制度ができ、ついには殺し合いをはじめるんだ」
司佐の声音が一段と冷たく響く。
「え……?」
理想郷の果てに待ち受ける惨劇の話に、ユウキは気おされた。
「そして……、殺し合いの果てに最後にはオスが全滅するんだよ」
言葉には、人類の宿命を見つめる者の哀愁が滲んでいた。
「いやいやいや、そんな馬鹿な!」
ユウキは必死に否定の声を上げる。
「二十五回同じ実験をやったんだ。でも最後は絶滅という結末は変わらなかった。これが哺乳類に楽園を与えた末路ってことさ。くっくっく……」
司佐は楽しそうにまたワイングラスを傾けた。
「そ、そんな……」
ユートピアの後に待ち受ける人類の姿など、考えたこともなかったユウキは言葉を失う。
「つまり、何らかの制約を課してやらないと人類は殺し合いを始める。大切な操作を俺はやっているってことだよ。はっはっは」
司佐は満足そうに笑った。
「いやいやいや、僕らは人間だ! ネズミと一緒にするな!」
ユウキは最後の抵抗のように叫ぶ。
「ほう? ついこないだまで戦争ばかりして毎年何十万人も殺し合っていたというのに? 小僧は知らんかもしれんが、ネットには戦場の動画が次々と流れてきててな、ネズミ以上にひどい状況だったぞ?」
肩をすくめる司佐の言葉は、重い事実として、ユウキの心に突き刺さった。
くっ……。
ユウキは奥歯を噛みしめる。人間は理想を語り、平和を願いながら、結局は殺戮を繰り返してきた。矛盾に満ちた現実が、ユウキの心を深く蝕んでいく。
「さらに環境破壊に動植物の絶滅促進、人類の犯す罪の重さは筆舌に尽くしがたい。そんな度し難い馬鹿どもである人間に俺は首輪をつけて管理する。だから地球環境は保たれるし、人類は絶滅を免れるのだ。つまり俺こそが真の救世主ってわけさ! ガッハッハ!」
司佐は嗤う。声には狂気が混じっていた。
しかし――――。
人間に問題があるからといって、司佐のやり方が正しいわけではない。自分に都合のいい理屈を並べ立て、人々を弄ぶように支配しているだけに過ぎないのだ。
考えがまとまらず、今すぐ論破はできないが、ケンタを殺し、こんな残虐なショーを楽しむ様子だけでも、罪は明らかだった。
「詭弁だ! たとえ何らかの操作が要るとしても、お前がやる必要なんかないぞ。それにさっきのショーは何なんだ? あんな酷いことをやっておいてお前に正義なんかないだろ!」
ユウキの声が震える。瞳には怒りの炎が燃えていた。
「はっ! 綾香はなぁ、脱走二回目なんだよ。脱走しないという契約を破ったのは奴の方だ。俺のせいじゃない」
司佐はウンザリした様子で肩をすくめる。



