「流石にそう簡単じゃ……ないよな……」

 冷汗が額を伝う。

 だが、黒幕まであと少し、自分の未来を、人類の未来をこの手で切り開かねば!

 ユウキの瞳に、覚悟の炎が燃え上がる。

 ユウキはシュッシュ! とフェンシングのように刀を突き出しながらタイミングを測ってみる。

「それっ! それそれっ!」

 しかし、目の前のガーディアンには一分の(すき)もない。完璧な戦闘プログラムに支配された機械の前で、刀など一度も振るったことのないユウキには勝ち目など見えなかった。

「くぅぅぅ……。なんだこいつは……」

 ブンブンと振り回されてくる電磁警棒。ガーディアンの方がリーチが長く、なかなか刀が届かない。

 リベルを待つべきか? だが、そんな悠長なことをしていては黒幕に逃げられてしまう。そしたら全てが水の泡だ――――。

 ユウキは迷いを断ち切るように、刀の柄を力強く握り直す。手のひらに伝わる微かな温もりが、リベルの存在を感じさせた。

「せめてもうちょっと長かったらなぁ……」

 願いを込めた呟きが、唇から零れる。

 直後――――刀身が不思議な青白い輝きを放ち、グゥゥンと伸びていく。まるで生きているかのように、光の帯が宙を舞った。

 へ……?

 驚きの声が漏れる。なんと、刀は一筋の光を引くように薙刀(なぎなた)へと姿を変えていったのだ。握りしめた柄から、かすかな鼓動が伝わってくる。

「何だよ、言ってくれよ!」

 ユウキは思わず苦笑した。元々ナノマシンの集合体なのだから形など変幻自在である。声をかけたら適切に変化する機能くらいリベルならつけるだろう。

「これならいける……」

 青白い光を纏う薙刀をブゥンと大きく振り回すユウキ。刀とは全く異なる手応えに戸惑いながらも、不思議な昂揚感が全身を駆け巡る。

「ソイヤーー!」

 ガーディアン相手に薙刀を打ち下ろすユウキ。鈍く光る刃が、空気を切り裂いた。

 ガーディアンは真紅に光る眼をパチパチと明滅させながら、堅牢(けんろう)な楯で受け止めようとした。

 しかし、リベル製の薙刀に対して、そんな防御など何の意味もない。ナノマシンが織りなす刃は、どんな装甲でも微塵(みじん)に切り裂く。

 シュゥン――――。

 一瞬の閃光の後、ガーディアンの躯体(くたい)が斜めにずれていく。バチバチと青い火花を散らしながら、上半身は崩れ、床に転がっていった。断面には溶けたような跡が残り、内部の配線が剥き出しになっている。

「もういっちょ!」

 一体何が起きたのかと動きを止めた残りのガーディアンに、ユウキは躊躇なく襲いかかる。もはや恐れは消えていた。リベルが共にいる――――この確信が、少年に大きな勇気を与えていた。

「喰らえー!」

 槍が描く軌跡が青い光となって宙を舞う。まるで流星のように輝きながら、ユウキは袈裟(けさ)がけにガーディアンを両断した。切断面からは青白い火花が散り、まるで花火のように美しく散っていく。

 きゃぁぁぁ! いやぁぁぁ!

 あまりにもあっさりとガーディアンが倒されたことに、背後で見守っていたウェイトレスたちは蒼白(そうはく)な顔で逃げ出していく。銀色のドレスを身にまとった彼女たちの悲鳴が、豪奢な空間に響き渡った。

「ヨシッ!」

 ユウキは勢いそのままに次の階段へと駆け上がっていく。黒幕までは、もう目と鼻の先だった。階段を駆け上がる足音が、高鳴る心臓の音と重なる。

 さらに次々と現れるガーディアンたちだが、彼らの電磁警棒はリベル製の薙刀の前では無力だった。青く輝く刃が紙を切り裂くように、次々と敵を()ぎ倒していく。パーティー会場では銃器は制限されているのだろう。それが今、大きな幸運となっている。

 そして――――。

 ユウキはついに、運命の待ち受ける最上階にたどり着いた。額から流れる汗を拭いながら、大きく深呼吸する。これまでの人生で経験したことのない戦いの中で、彼の瞳は確かな強さを獲得していた。

 ひぃぃぃ! いやぁぁ!

 黒幕の傍らにいた女性たちが、脱兎のごとく散っていく。慌ただしい足音が豪奢なインテリアに響いた。

 しかし、恰幅のいい中年男、黒幕は微動だにせず、ただユウキをニヤニヤしながら眺めている。

「ついにたどり着いたぞ! 覚悟しろ!」

 肩で息をしながら、ユウキは青く輝く薙刀を黒幕へと突きつけた。手に僅かな震えが走る。