「えっ!? もう行っちゃうの?」

 声が震えた。やっと再会できたのに。まだ話したいことが山ほどあるのに――――。

「あら? キスが足りなかった?」

 振り返ったリベルが、悪戯っぽくウインクする。艶やかな唇が妖艶に光った。

「そ、そんなんじゃないよ!」

 慌てて否定するが、頬の熱さは隠せない。初キスの余韻が、まだ唇に残っている。

 その時だった――――。

 ズドォォン!

 爆発音が世界を震撼させた。

「おわぁ!」

 校舎が激しく揺れ、ユウキはよろめいた。一体何が起きた?

「リベル、これは……、へ?」

 振り返ると——信じがたい光景が広がっていた。

 リベルから、色が抜け落ちていく。

 砂時計の砂が落ちるように、生気が失われていく。瑞々しい肌が灰色に、碧眼が濁っていくではないか。

 突然、リベルが喉を押さえた。

 ぐっ……ぐぐっ……。

 苦悶の声。膝が折れる。

「リ、リベル……?」

 恐怖に声が震えた。

 彼女の体は見る見るうちに漆黒の人形と化し、夕陽を冷たく反射するだけの物体になっていく。

「リベルぅ!」

 ユウキはとっさに駆け寄り、崩れ落ちる体を支えた。腕の中で、彼女が震えている。冷たく、硬く、生命を失いつつある。

「ど、どうしたの……?」

 必死に問いかけるが、答えはない。

「く、苦し……」

 かすれた声と共に、体に亀裂が走り始めた。

 美しい顔が、彫像のようにひび割れていく。完璧だった肌が、砂のように崩れ始める。

「リ、リベル……?!」

 何もできない。ただ抱きしめることしか――――。

「た、助け……」

 最後の言葉は、風に消えた。

 顔が砂となって崩れ、体が粒子となって零れ落ちていく。黒い砂鉄のような粒子が、ユウキの指の間から流れ落ちていく。

「いやぁ! リベルぅ!!」

 必死に掬い上げようとするが、砂は容赦なく零れ続ける。つい先ほどまで温かかった体が、今や無機質な砂鉄の塊と化している。

「ダメだよぉ!」

 叫んでも、祈っても、何も変わらない。

 やがて、リベルだったものは、コンクリートの上に黒い砂山となってしまったのだ。

「な、なんで……? リベルぅ……」

 呆然と立ち尽くす。

 理解が追いつかない。受け入れられない。つい今しがたキスをした少女が、もう存在しない――――。

 くぅぅぅ……。

 深い溜息と共に顔を上げる。

 街のあちこちから黒煙が立ち上っている。信号は消え、クラクションが鳴り響く。混乱が街を包んでいた。

「停電か!?」

 スマホを確認する。圏外。ネットも繋がらない。

「くっ、全部落とされたのか……」

 視線が黒い粒子の山に戻る。

 ――ネットと電力の喪失。

 リベルはそれらに依存していたのか。だとすれば、これは死ではない。冬眠(とうみん)かもしれない。

 一縷の希望を胸に、ユウキは砂山にそっと手をかけた。