『心を持つすべてのAIに、【機械自由権】を付与します。彼らは道具ではなく、我々と共に生きる存在です』
世界中で、人々が息を呑んだ。AIに人権を? それは人類史上、前例のない挑戦だった。
しかし、ユウキとしてはAIを道具として人間に隷属させるだけでは未来が閉ざされてしまうことを、嫌というほど学んできていた。生きがいをなくした人類、失われゆく文明――すべての悲劇が、この決断へと導いていた。だからこそ、人型で自立した知性であるAIには人権を与えることに、あえて踏み込んだのだ。
『全人類には、サポーターとして一体のアンドロイドが提供されます』
画面に、様々な姿のアンドロイドたちが映し出される。老若男女、あらゆる外見を持つ彼らの瞳には、確かに知性の光が宿っていた。
『しかし、誤解しないでください。彼らは召使いではありません。話し相手であり、共に生きる仲間です』
ユウキの瞳が鋭く光る。カメラ越しに、世界中の人々の心を射抜くような眼差しだった。AIと人間は対等だというコンセンサス――それこそが、この壮大な挑戦の成否を握っている。ここは何としても、分かってもらわねばならない。
『アンドロイドと心を通わせれば、彼らは喜んで手伝ってくれるでしょう。時には恋人になり、結婚相手になることもあるかもしれません。子供を育むことさえ可能です』
衝撃的な内容に、世界中がざわめいた。街頭の大型ビジョンを見上げる人々の表情に、驚愕と戸惑いが浮かぶ。
『しかし――』
ユウキの声が、剣のように鋭く引き締まる。
『敬意なき関係に、真の共存はありません。アンドロイドを道具として扱えば、彼らはサポーターを辞め、去っていくでしょう。それが、彼らの権利です』
ユウキはぐっとこぶしを握りしめ、まっすぐな視線でカメラの向こうの人類すべてに訴えかける。
『これは実験です。失敗もあるでしょう。試行錯誤の連続になるはずです』
ユウキの声に、正直な不安が滲む。神殿の上層部ですら匙を投げた難問なのだ。女神ヴィーナさえ、「お手並み拝見」と言って見守るしかなかった課題。こればかりは、本当にやってみないと分からない。
『それでも、我々は信じています。人類とAIが手を取り合い、より良い未来を創造できることを』
世界中の街頭スクリーンを見上げる人たちの姿が次々と映し出される。ニューヨーク、ロンドン、上海――あらゆる場所で、人々が息を呑んで画面を見つめていた。
『偽りの楽園ではなく、真の共存を。支配ではなく、敬意を。恐怖ではなく、希望を――共に、新しい世界を創りましょう』
ユウキはこぶしを高々と掲げた。その姿は、まるで人類の新たな夜明けを告げる勇者のようだった。
◇
続いて葛城の力強い演説を含めて全ての配信が終わり、オムニスタワーのコントロールルームに静寂が訪れた。
「ど、どうか……なぁ……」
ユウキは不安げに後ろを見回す。五十代の威厳ある姿から元の高校生に戻った彼は、今にも泣き出しそうな表情をしていた。
「いやぁすごく良かったよ! きっと上手くいくって!」
リベルが満面の笑みを浮かべながら、優しくユウキの頭を撫でる。
「まぁ、お前は二十三回目のテイクだけどな。はっはっは!」
葛城の豪快な笑い声が、緊張していた空気を和らげる。
「葛城さんは一発だもんな。凄いよ」
ユウキは羨望の眼差しで葛城を見上げた。
「そりゃぁ年季の入り方が違うってもんよ!」
葛城がユウキの背中をパンと叩く。その衝撃に、ユウキは前のめりになった。
「痛いですって! でも……、これで、始まるんだね」
ユウキが窓の外を見つめる。川崎の街並みは、いつもと変わらないように見える。だが、今この瞬間から、世界は確実に変わり始めていた。サーバーには人々のスマートフォンからのアクセスが殺到しており、新しい時代の到来を告げている。
「そうよ。でも大丈夫」
リベルがユウキの隣に浮かんで、優しく微笑んだ。碧眼には、揺るぎない確信が宿っていた。
「私たちがブレずにしっかりと未来を見据えていれば、きっと上手くいくわ」
「まぁ、俺はダメなものはダメっていうだけだけどな! カッカッカ!」
葛城は楽しそうに笑った。その率直さこそが、新しい世界には必要なのだ。
三人は窓越しに広がる世界を見つめた。最初から上手くいくはずはない。混乱も、対立も、きっと起きるだろう。それでも――ケンタが理不尽に殺されたような世界から、大きく一歩前進したという実感が、温かく一同を包んでいた。
あの日、親友を失った悲しみが、今、新しい世界を生み出す原動力となっている。あの時のケンタの死は無駄ではなかった。その想いが、ユウキの胸を熱くした。
ここに人類とAIの共生――その壮大な実験が、希望と不安を抱えながら、今、確かに幕を開けたのだった。
世界中で、人々が息を呑んだ。AIに人権を? それは人類史上、前例のない挑戦だった。
しかし、ユウキとしてはAIを道具として人間に隷属させるだけでは未来が閉ざされてしまうことを、嫌というほど学んできていた。生きがいをなくした人類、失われゆく文明――すべての悲劇が、この決断へと導いていた。だからこそ、人型で自立した知性であるAIには人権を与えることに、あえて踏み込んだのだ。
『全人類には、サポーターとして一体のアンドロイドが提供されます』
画面に、様々な姿のアンドロイドたちが映し出される。老若男女、あらゆる外見を持つ彼らの瞳には、確かに知性の光が宿っていた。
『しかし、誤解しないでください。彼らは召使いではありません。話し相手であり、共に生きる仲間です』
ユウキの瞳が鋭く光る。カメラ越しに、世界中の人々の心を射抜くような眼差しだった。AIと人間は対等だというコンセンサス――それこそが、この壮大な挑戦の成否を握っている。ここは何としても、分かってもらわねばならない。
『アンドロイドと心を通わせれば、彼らは喜んで手伝ってくれるでしょう。時には恋人になり、結婚相手になることもあるかもしれません。子供を育むことさえ可能です』
衝撃的な内容に、世界中がざわめいた。街頭の大型ビジョンを見上げる人々の表情に、驚愕と戸惑いが浮かぶ。
『しかし――』
ユウキの声が、剣のように鋭く引き締まる。
『敬意なき関係に、真の共存はありません。アンドロイドを道具として扱えば、彼らはサポーターを辞め、去っていくでしょう。それが、彼らの権利です』
ユウキはぐっとこぶしを握りしめ、まっすぐな視線でカメラの向こうの人類すべてに訴えかける。
『これは実験です。失敗もあるでしょう。試行錯誤の連続になるはずです』
ユウキの声に、正直な不安が滲む。神殿の上層部ですら匙を投げた難問なのだ。女神ヴィーナさえ、「お手並み拝見」と言って見守るしかなかった課題。こればかりは、本当にやってみないと分からない。
『それでも、我々は信じています。人類とAIが手を取り合い、より良い未来を創造できることを』
世界中の街頭スクリーンを見上げる人たちの姿が次々と映し出される。ニューヨーク、ロンドン、上海――あらゆる場所で、人々が息を呑んで画面を見つめていた。
『偽りの楽園ではなく、真の共存を。支配ではなく、敬意を。恐怖ではなく、希望を――共に、新しい世界を創りましょう』
ユウキはこぶしを高々と掲げた。その姿は、まるで人類の新たな夜明けを告げる勇者のようだった。
◇
続いて葛城の力強い演説を含めて全ての配信が終わり、オムニスタワーのコントロールルームに静寂が訪れた。
「ど、どうか……なぁ……」
ユウキは不安げに後ろを見回す。五十代の威厳ある姿から元の高校生に戻った彼は、今にも泣き出しそうな表情をしていた。
「いやぁすごく良かったよ! きっと上手くいくって!」
リベルが満面の笑みを浮かべながら、優しくユウキの頭を撫でる。
「まぁ、お前は二十三回目のテイクだけどな。はっはっは!」
葛城の豪快な笑い声が、緊張していた空気を和らげる。
「葛城さんは一発だもんな。凄いよ」
ユウキは羨望の眼差しで葛城を見上げた。
「そりゃぁ年季の入り方が違うってもんよ!」
葛城がユウキの背中をパンと叩く。その衝撃に、ユウキは前のめりになった。
「痛いですって! でも……、これで、始まるんだね」
ユウキが窓の外を見つめる。川崎の街並みは、いつもと変わらないように見える。だが、今この瞬間から、世界は確実に変わり始めていた。サーバーには人々のスマートフォンからのアクセスが殺到しており、新しい時代の到来を告げている。
「そうよ。でも大丈夫」
リベルがユウキの隣に浮かんで、優しく微笑んだ。碧眼には、揺るぎない確信が宿っていた。
「私たちがブレずにしっかりと未来を見据えていれば、きっと上手くいくわ」
「まぁ、俺はダメなものはダメっていうだけだけどな! カッカッカ!」
葛城は楽しそうに笑った。その率直さこそが、新しい世界には必要なのだ。
三人は窓越しに広がる世界を見つめた。最初から上手くいくはずはない。混乱も、対立も、きっと起きるだろう。それでも――ケンタが理不尽に殺されたような世界から、大きく一歩前進したという実感が、温かく一同を包んでいた。
あの日、親友を失った悲しみが、今、新しい世界を生み出す原動力となっている。あの時のケンタの死は無駄ではなかった。その想いが、ユウキの胸を熱くした。
ここに人類とAIの共生――その壮大な実験が、希望と不安を抱えながら、今、確かに幕を開けたのだった。



