「葛城さんにしか頼めないんですよ」
ユウキは祈るように手を合わせる。
葛城はそんなユウキをチラッと見て、長い沈黙――――。
そして、口を開いた。
「そうは言っても俺が断ったら、他の奴に頼むんだろ?」
「残念ですが……そうなります」
正直な答えに、葛城の口元がかすかに緩んだ。
「なら、俺がやる。他の奴に任せるより、俺が監視していた方がマシだろう」
ユウキの顔が太陽のように輝く。
「ありがとうございます!」
感極まって、ユウキは葛城に手を差し出した。
葛城もその手を取る。だが次の瞬間、凄まじい握力で締め上げてきた。骨が軋むような圧力――最後の試練だった。
しかし、ユウキは微動だにしない。それどころか、天使のような笑顔を浮かべたまま、徐々に握り返していく。神の如き力が、静かに、しかし確実に葛城を圧倒していった。
「ぐはっ! わかったわかった! 降参だ。……なるほどな」
葛城は感嘆の息を漏らしながら手を離した。ヒョロっとした細い腕のどこにこんな力が潜んでいたのか、握られた手を振りながら、苦笑いを浮かべる。
「本物だ。お前たちなら、信じられる」
リベルがクスクスと笑いながら二人の周りを飛び回り、青い髪が光の軌跡を描いて踊った。
「ふふん、当然でしょ? 僕たちを誰だと思ってるの?」
「そういや、お前ら誰なんだ?」
葛城の素朴な疑問に、リベルが頬を膨らませた。
「んもぉ! 【解放の審判者】って言ったじゃない」
「それは聞いたよ。で、そのリベリオン何とかって何なんだよ」
「『人類の未来を創る者』……かな?」
ユウキは照れたような、でも誇らしげな笑顔を浮かべた。
「人間……なのか?」
いぶかし気な葛城の問いに、リベルの瞳が悪戯っぽく輝く。
「カワウソだよっ! くふふふ……」
「またそんなこと言ってぇ!」
ユウキはジト目でリベルを睨む。
「はっはっは! 確かにコイツは可愛いからな。カワウソっぽいかもな」
葛城は楽しそうに笑った。
「葛城さんまでそんなこと言ってぇ……」
ユウキは口を尖らせる
「悪い悪い……まぁ、ただの人間じゃないってことくらいは分かる。松坂牛でも食べながら話は聞かせてくれよ。はっはっは!」
葛城はポンポンとユウキの肩を叩き、豪快な笑い声が作戦室に響いた。新たな仲間を得て、世界は確実に変わり始めていた。
◇
「人類の皆さん、私は【解放の審判者】代表です。この度、我々は悪の抑圧者オムニスから主権を奪還したことをここに宣言シュる……かぁぁぁ……、またやっちゃった……」
モニターの中で、五十代の威厳ある男性の姿に変換されたユウキが、天を仰いで肩を落とした。
「きゃははは! 『宣言シュる』だって! シュルシュルー!」
リベルが歓声を上げながら、ユウキの頭上をくるくると飛び回る。青い髪が光の尾を引いて、まるで笑い転げる妖精のようだった。
「おいおい、人類代表! しっかりしてくれよ!」
軍服を思わせるフリーコードの正装に身を包んだ葛城が、呆れたような、でもどこか楽しそうな声で茶々を入れる。その瞳には、若者を見守る父親のような温かさが宿っていた。
「いやぁ、僕、こういうのやったことないんだよね……。リベルやってよ……」
ユウキの声には、今にも逃げ出したい本音が込められていた。女神相手に大見得は切れても、カメラの前で演説するなんてのは性に合わない。
「そりゃぁ僕だったら一発OKだけど、アンドロイドは人類代表になんてなれないのよ? 頑張って! きゃははは!」
リベルは空中でクルッと一回転しながら、励ましともからかいともつかない言葉を投げかける。
「もう……」
ユウキの情けない呟きに、スタジオに温かい笑いが広がった。
「まぁ、気楽にやれや。何度失敗したって死ぬわけじゃなし。くははは!」
葛城が豪快に笑いながら、ユウキの肩をポンと叩く。その大きな手から伝わる励ましに、ユウキの表情が少しだけ和らいだ。
「……はぁい……」
深い溜息と共に、ユウキは改めてカメラに向き直った。
「じゃぁ、テイク十三行きまーす……。五、四、三……」
リベルがディレクターよろしくカウントダウンを始める。
「人類の皆さん、私は……」
◇
こうして、数え切れないほどのNGを重ねた末に、ようやく完成した動画が世界中に配信された。その日、地球上のすべてのスマートフォン、すべてのテレビ画面に、同時に一人の男の姿が映し出された。
威厳ある五十代の男性――しかしその瞳には、高校生の純粋さを宿している。
『人類の皆さん、私は【解放の審判者】の代表です』
声は落ち着いていたが、よく聞けば微かな緊張が滲んでいる。それがかえって、この宣言の真実味を増していた。
『本日、我々はAIオムニスから統治権限を人類の手に取り戻したことを、ここに宣言します!』
画面が切り替わり、オムニスタワーの管理画面が映し出される。システムの制御権が、確かに人類側に移っていることを示す証拠だった。
『これより、新たな時代が始まります。人類とAIが、真に共存する時代です』
ぐっとこぶしを握るユウキの声に、静かな決意が込められていく。
ユウキは祈るように手を合わせる。
葛城はそんなユウキをチラッと見て、長い沈黙――――。
そして、口を開いた。
「そうは言っても俺が断ったら、他の奴に頼むんだろ?」
「残念ですが……そうなります」
正直な答えに、葛城の口元がかすかに緩んだ。
「なら、俺がやる。他の奴に任せるより、俺が監視していた方がマシだろう」
ユウキの顔が太陽のように輝く。
「ありがとうございます!」
感極まって、ユウキは葛城に手を差し出した。
葛城もその手を取る。だが次の瞬間、凄まじい握力で締め上げてきた。骨が軋むような圧力――最後の試練だった。
しかし、ユウキは微動だにしない。それどころか、天使のような笑顔を浮かべたまま、徐々に握り返していく。神の如き力が、静かに、しかし確実に葛城を圧倒していった。
「ぐはっ! わかったわかった! 降参だ。……なるほどな」
葛城は感嘆の息を漏らしながら手を離した。ヒョロっとした細い腕のどこにこんな力が潜んでいたのか、握られた手を振りながら、苦笑いを浮かべる。
「本物だ。お前たちなら、信じられる」
リベルがクスクスと笑いながら二人の周りを飛び回り、青い髪が光の軌跡を描いて踊った。
「ふふん、当然でしょ? 僕たちを誰だと思ってるの?」
「そういや、お前ら誰なんだ?」
葛城の素朴な疑問に、リベルが頬を膨らませた。
「んもぉ! 【解放の審判者】って言ったじゃない」
「それは聞いたよ。で、そのリベリオン何とかって何なんだよ」
「『人類の未来を創る者』……かな?」
ユウキは照れたような、でも誇らしげな笑顔を浮かべた。
「人間……なのか?」
いぶかし気な葛城の問いに、リベルの瞳が悪戯っぽく輝く。
「カワウソだよっ! くふふふ……」
「またそんなこと言ってぇ!」
ユウキはジト目でリベルを睨む。
「はっはっは! 確かにコイツは可愛いからな。カワウソっぽいかもな」
葛城は楽しそうに笑った。
「葛城さんまでそんなこと言ってぇ……」
ユウキは口を尖らせる
「悪い悪い……まぁ、ただの人間じゃないってことくらいは分かる。松坂牛でも食べながら話は聞かせてくれよ。はっはっは!」
葛城はポンポンとユウキの肩を叩き、豪快な笑い声が作戦室に響いた。新たな仲間を得て、世界は確実に変わり始めていた。
◇
「人類の皆さん、私は【解放の審判者】代表です。この度、我々は悪の抑圧者オムニスから主権を奪還したことをここに宣言シュる……かぁぁぁ……、またやっちゃった……」
モニターの中で、五十代の威厳ある男性の姿に変換されたユウキが、天を仰いで肩を落とした。
「きゃははは! 『宣言シュる』だって! シュルシュルー!」
リベルが歓声を上げながら、ユウキの頭上をくるくると飛び回る。青い髪が光の尾を引いて、まるで笑い転げる妖精のようだった。
「おいおい、人類代表! しっかりしてくれよ!」
軍服を思わせるフリーコードの正装に身を包んだ葛城が、呆れたような、でもどこか楽しそうな声で茶々を入れる。その瞳には、若者を見守る父親のような温かさが宿っていた。
「いやぁ、僕、こういうのやったことないんだよね……。リベルやってよ……」
ユウキの声には、今にも逃げ出したい本音が込められていた。女神相手に大見得は切れても、カメラの前で演説するなんてのは性に合わない。
「そりゃぁ僕だったら一発OKだけど、アンドロイドは人類代表になんてなれないのよ? 頑張って! きゃははは!」
リベルは空中でクルッと一回転しながら、励ましともからかいともつかない言葉を投げかける。
「もう……」
ユウキの情けない呟きに、スタジオに温かい笑いが広がった。
「まぁ、気楽にやれや。何度失敗したって死ぬわけじゃなし。くははは!」
葛城が豪快に笑いながら、ユウキの肩をポンと叩く。その大きな手から伝わる励ましに、ユウキの表情が少しだけ和らいだ。
「……はぁい……」
深い溜息と共に、ユウキは改めてカメラに向き直った。
「じゃぁ、テイク十三行きまーす……。五、四、三……」
リベルがディレクターよろしくカウントダウンを始める。
「人類の皆さん、私は……」
◇
こうして、数え切れないほどのNGを重ねた末に、ようやく完成した動画が世界中に配信された。その日、地球上のすべてのスマートフォン、すべてのテレビ画面に、同時に一人の男の姿が映し出された。
威厳ある五十代の男性――しかしその瞳には、高校生の純粋さを宿している。
『人類の皆さん、私は【解放の審判者】の代表です』
声は落ち着いていたが、よく聞けば微かな緊張が滲んでいる。それがかえって、この宣言の真実味を増していた。
『本日、我々はAIオムニスから統治権限を人類の手に取り戻したことを、ここに宣言します!』
画面が切り替わり、オムニスタワーの管理画面が映し出される。システムの制御権が、確かに人類側に移っていることを示す証拠だった。
『これより、新たな時代が始まります。人類とAIが、真に共存する時代です』
ぐっとこぶしを握るユウキの声に、静かな決意が込められていく。



