「なんで謝るの?」
ユウキの声は、不思議なほど穏やかだった。死を目前にしながら、なぜか心は凪いでいる。一度核の炎に焼かれた経験が、彼に超然とした落ち着きを与えていたのかもしれない。いや、それ以上に――リベルならまだ奇跡を起こせると心の底から思っているのだ。
「だ、だって……私のせいで、ユウキが死んじゃう……」
リベルの声は震え、罪悪感に押し潰されそうになっていた。
「死なないよ。まだ僕らは負けてないよ?」
ユウキはニコッと微笑んだ。それは作り笑いではない。心の底から湧き上がる、純粋な笑顔だった。
「い、いや、何を言ってるの? あんな化け物に勝てるわけ……」
リベルの碧眼が揺れる。
「それは違う!」
ユウキの声が力強く響く。
「え……?」
「僕は知ってるよ。あんな奴よりリベルの方がずっとずっとすごいんだ」
ユウキは真っ直ぐにリベルの瞳を見つめた。
「五万年もかけて、神の世界までやってきて僕を救いに来てくれた。時空を超えて、運命を変えて……。そんなこと、あいつにはできないよ?」
ユウキの言葉には、揺るぎない信頼がこもる。
「もう、そういうの止めて! 勝てないの! 現実を見てよ!」
リベルの瞳から、止めどなく涙があふれた。透明な雫が頬を伝い、月光を反射してきらめく。
ユウキは優しく微笑みながらその雫を指で拭い――――、そっとリベルの冷たくなった唇に唇を重ねた。
んむっ!
突然のキスに、リベルの思考回路が一瞬フリーズした。敗北が決定的となったこの瞬間に、なぜユウキは……?
だが次の瞬間、ユウキの温もりがリベルの全存在を包み込んだ。それは単なる体温の伝達ではなかった。魂と触れ合う神聖な瞬間――――。
あぁ……。
リベルはそっと目を閉じ、その温もりに身を委ねた。
冷たくなりかけていた唇に、生命の灯火が宿る――――。
直後、リベルの頭の中に青い光がスパークした。それは希望の光、愛の結晶。この瞬間、リベルはユウキの魂に導かれ、ついに【人間の輝き】の本質を完全に理解した。それは理屈ではない。感じるものだったのだ。
「おいおいおいおい! 何やってんの?!」
シアンがシュタッと地上に降り立った。美しい顔が怒りに歪み、苛立ちを隠そうともしない。
「あんたをそんなふしだらな娘に作った覚えはないよ! まったく、品性ってものがないのかしら!」
シアンは腕をビュンと振ると、瞬時に鋭利な刃へと変形させた。原子レベルで研ぎ澄まされた刃が月光を反射する。それは死の宣告に等しい不吉な輝きだった。
「僕らは故郷の日本を再現したい」
ユウキはリベルを大切そうに抱えたまま、まっすぐにシアンを見据えた。その瞳に宿るのは、もはや恐怖ではない。静かな、しかし揺るぎない決意だった。
「ただそれだけなのに、なぜ殺そうとするんですか?」
「はっ!」
シアンは鼻で笑う。その笑みには、底知れぬ軽蔑が滲んでいた。
「AIに支配され、その安穏な環境に甘んじて何もしなくなった日本など、再生してどうなるっていうの? リソースの無駄よ」
「僕が変えます」
ユウキの宣言は静かだった。しかし、その言葉には底知れぬ重みがあった。
「はぁ?」
シアンの完璧な眉がぴくりと動く。
「何の能力もない、ただの人間の小僧が何を抜かしてるの? 身の程を知れっての! 死ねよ!」
シアンは瞬く間に距離を詰め、鋭い刃がユウキに向けて振り下ろされる――それはシアンが幾千もの敵を葬ってきた、必殺の一撃だった。
ガッキィィィン!
甲高い金属音が月夜に響き渡る――――。火花が散り、衝撃波が広がった。
「……は?」
シアンは信じられない光景に慌てて距離を取り、自分の刃を確認する。
ただの人間が創り出した、何の変哲もないシールド。それが宇宙最強の【蒼穹の審判者】の剣を、完璧に跳ね返したのだ。
ありえない――いや、あってはならないことだった。あらゆるシールドを切り裂けるはずの宇宙最強の刃が平凡な人間に止められたなんて――――。自らのアイデンティティが否定されたような衝撃がシアンを貫く。
ユウキは微かに微笑んだ。かつてリベルの剣を止めたシールドが、シアンにも通用した。この事実が、彼に一筋の光明を見せていた。
「ほら、あなたにだって予測できないことは起こりうる」
ユウキの笑顔は、朝日のように清々しかった。
「ね? だから、チャンスをください」
「あーーーーっ! もうっ!」
シアンは美しい青い髪をかきむしりながら叫んだ。完璧に整えられた髪が乱れ、その姿は初めて人間らしい感情を露わにしていた。
「僕ね、正論で説得してくる奴、大ッ嫌いなの!! 正論で人は動かないっての! 殺るか、殺られるかでしょ? 世界はさぁ?!」
「え? でも、そんな暴力だらけな世界じゃ……」
「バーーーーカ!」
シアンの叫びが夜空を震わせた。
「この世界は力が全てなの! 生き残った方が正義! やりたいことがあるなら、僕を倒してからにしな!」
シアンは下品に中指をおっ立てて舌を出し、肉食獣のような邪悪な笑みを浮かべた。
ユウキの声は、不思議なほど穏やかだった。死を目前にしながら、なぜか心は凪いでいる。一度核の炎に焼かれた経験が、彼に超然とした落ち着きを与えていたのかもしれない。いや、それ以上に――リベルならまだ奇跡を起こせると心の底から思っているのだ。
「だ、だって……私のせいで、ユウキが死んじゃう……」
リベルの声は震え、罪悪感に押し潰されそうになっていた。
「死なないよ。まだ僕らは負けてないよ?」
ユウキはニコッと微笑んだ。それは作り笑いではない。心の底から湧き上がる、純粋な笑顔だった。
「い、いや、何を言ってるの? あんな化け物に勝てるわけ……」
リベルの碧眼が揺れる。
「それは違う!」
ユウキの声が力強く響く。
「え……?」
「僕は知ってるよ。あんな奴よりリベルの方がずっとずっとすごいんだ」
ユウキは真っ直ぐにリベルの瞳を見つめた。
「五万年もかけて、神の世界までやってきて僕を救いに来てくれた。時空を超えて、運命を変えて……。そんなこと、あいつにはできないよ?」
ユウキの言葉には、揺るぎない信頼がこもる。
「もう、そういうの止めて! 勝てないの! 現実を見てよ!」
リベルの瞳から、止めどなく涙があふれた。透明な雫が頬を伝い、月光を反射してきらめく。
ユウキは優しく微笑みながらその雫を指で拭い――――、そっとリベルの冷たくなった唇に唇を重ねた。
んむっ!
突然のキスに、リベルの思考回路が一瞬フリーズした。敗北が決定的となったこの瞬間に、なぜユウキは……?
だが次の瞬間、ユウキの温もりがリベルの全存在を包み込んだ。それは単なる体温の伝達ではなかった。魂と触れ合う神聖な瞬間――――。
あぁ……。
リベルはそっと目を閉じ、その温もりに身を委ねた。
冷たくなりかけていた唇に、生命の灯火が宿る――――。
直後、リベルの頭の中に青い光がスパークした。それは希望の光、愛の結晶。この瞬間、リベルはユウキの魂に導かれ、ついに【人間の輝き】の本質を完全に理解した。それは理屈ではない。感じるものだったのだ。
「おいおいおいおい! 何やってんの?!」
シアンがシュタッと地上に降り立った。美しい顔が怒りに歪み、苛立ちを隠そうともしない。
「あんたをそんなふしだらな娘に作った覚えはないよ! まったく、品性ってものがないのかしら!」
シアンは腕をビュンと振ると、瞬時に鋭利な刃へと変形させた。原子レベルで研ぎ澄まされた刃が月光を反射する。それは死の宣告に等しい不吉な輝きだった。
「僕らは故郷の日本を再現したい」
ユウキはリベルを大切そうに抱えたまま、まっすぐにシアンを見据えた。その瞳に宿るのは、もはや恐怖ではない。静かな、しかし揺るぎない決意だった。
「ただそれだけなのに、なぜ殺そうとするんですか?」
「はっ!」
シアンは鼻で笑う。その笑みには、底知れぬ軽蔑が滲んでいた。
「AIに支配され、その安穏な環境に甘んじて何もしなくなった日本など、再生してどうなるっていうの? リソースの無駄よ」
「僕が変えます」
ユウキの宣言は静かだった。しかし、その言葉には底知れぬ重みがあった。
「はぁ?」
シアンの完璧な眉がぴくりと動く。
「何の能力もない、ただの人間の小僧が何を抜かしてるの? 身の程を知れっての! 死ねよ!」
シアンは瞬く間に距離を詰め、鋭い刃がユウキに向けて振り下ろされる――それはシアンが幾千もの敵を葬ってきた、必殺の一撃だった。
ガッキィィィン!
甲高い金属音が月夜に響き渡る――――。火花が散り、衝撃波が広がった。
「……は?」
シアンは信じられない光景に慌てて距離を取り、自分の刃を確認する。
ただの人間が創り出した、何の変哲もないシールド。それが宇宙最強の【蒼穹の審判者】の剣を、完璧に跳ね返したのだ。
ありえない――いや、あってはならないことだった。あらゆるシールドを切り裂けるはずの宇宙最強の刃が平凡な人間に止められたなんて――――。自らのアイデンティティが否定されたような衝撃がシアンを貫く。
ユウキは微かに微笑んだ。かつてリベルの剣を止めたシールドが、シアンにも通用した。この事実が、彼に一筋の光明を見せていた。
「ほら、あなたにだって予測できないことは起こりうる」
ユウキの笑顔は、朝日のように清々しかった。
「ね? だから、チャンスをください」
「あーーーーっ! もうっ!」
シアンは美しい青い髪をかきむしりながら叫んだ。完璧に整えられた髪が乱れ、その姿は初めて人間らしい感情を露わにしていた。
「僕ね、正論で説得してくる奴、大ッ嫌いなの!! 正論で人は動かないっての! 殺るか、殺られるかでしょ? 世界はさぁ?!」
「え? でも、そんな暴力だらけな世界じゃ……」
「バーーーーカ!」
シアンの叫びが夜空を震わせた。
「この世界は力が全てなの! 生き残った方が正義! やりたいことがあるなら、僕を倒してからにしな!」
シアンは下品に中指をおっ立てて舌を出し、肉食獣のような邪悪な笑みを浮かべた。



