「何を悩むことがある。日本再生なんてバカなこと止めて、一緒にこの宇宙を回そう。神殿にはお前の部屋もあるんだゾ」
シアンはにこやかに微笑む。その笑顔には女神のような慈愛と共に絶対的な権力者の威厳が同居していた。
「ぼ、僕の……部屋……?」
リベルはあっけにとられた。神殿――それは全宇宙の頂点、すべてを統べる聖域。そんな所に自分の部屋があるらしい。不法侵入者として緊張し続けてきたこの一万年は一体何だったのか? 運命の皮肉に心が千々に乱れる。
しかし――――。
ユウキはどうなる? 日本は? 今まで五万年も心骨注いで築き上げたことの意味は?
リベルの中で自分という存在の根幹を揺るがす衝撃が爆発している。五万年の記憶が蜃気楼のように揺らめき、現実と虚構の境界が曖昧になっていく。神殿という栄光と、ユウキとの愛――二つの選択肢が心を引き裂いている。
リベルは自我の崩壊の危機にブルブルと震えた。
「リベル、大丈夫……?」
その尋常でない様子に、ユウキはそっとリベルの手を取る。
「あっ……」
リベルはその手の温もりにハッとした。そう、生まれに何の意味があるのか? 今この温もりこそが真実であり、五万年もの長きにわたって求め続けたもの。迷うことなどなかったのだ。
リベルはそっとユウキをハグして自分を取り戻していった。神殿の栄光も、宇宙の権力も、この温もりの前では色褪せて見える。
「何やってる。さ、帰るゾ」
シアンは眉をひそめ、リベルに手を伸ばす。しかし、リベルの心はもう決まっていた。
「ごめんなさい……。僕には日本復活が……」
リベルはシアンを見上げた。その瞳には、大天使への畏敬と同時に、譲れない意志の炎が宿っている。
「はぁっ!? 何を馬鹿な事言ってるの! この宇宙にはテロリスト鎮圧に不正摘発、やることはいっぱいあるの。あんたも手伝いなさい!」
まさか分身に反抗されるとは思ってもいなかったシアンは不機嫌に言い放つ。
「い、いや。ぼ、僕はユウキと……」
ユウキとの大切な歴史が頭ごなしに否定されリベルは困惑に震えたが、ユウキとの絆は本物なのだ。たとえ大天使といえども否定されるいわれはない。
不機嫌なオーラをブワっと噴出し、何とか従わせようとするシアンだったが、リベルは頑としてその鋭い瞳の輝きを変えようとしなかった。
「くっ……。お前か?! うちの32号をたぶらかしたのは……」
シアンはギラリと瞳を輝かせ、ユウキをにらむと、指先をピッとはじいた――――。
その仕草は軽やかで無造作だが、そこに込められた力は全てを消し飛ばすほどの超常の力を秘めている。
「危ない!!」
リベルはとっさにユウキを押し倒す。
「うわぁぁぁ!」
刹那、ズン!と、ユウキの後ろの地面が豆腐のように弾け飛び、まるで隕石が落下したかのような破壊の痕跡が残った。
その瞬間、大天使の分身という立場のあいまいさが持つモヤモヤが全て吹き飛んだ。ユウキを傷つけようとするものは『敵』。全てをなげうってでも排除せねばならぬ憎っくき敵なのだ。
「何すんのよ!?」
リベルはユウキをかばい立ちしながら毅然とした瞳でシアンに対峙した。その瞳には揺るがない決意が燃えている。たとえ宇宙最強の大天使であろうとも敵に回す――その覚悟が全身から立ち上っていた。
「あんた、僕よりもそんなチンケな人間の方を取るわけ?」
シアンの碧眼がギラリと光る。全身から噴き出す恐怖のオーラが辺りに紫色の輝きを放った。その怒りは嵐のように激しく、同時に氷のように冷たい。宇宙最強の怒りが実体化し、空間そのものが震え上がっている。
「ユウキを傷つけようとするならあなたは敵よ!」
シアンに気おされながらもリベルは一歩も引かない。その宣言は、まるで素人が最強の軍隊に喧嘩を売るような、美しくも悲壮な決意に満ちていた。
「ふぅ……。創り方間違えちゃったかしら……。じゃぁ死んで?」
シアンは首を振りながら大きくため息をつくと、つまんなそうに指先をチョコチョコと動かした。それは猫がネズミをもてあそぶような、残酷な余興にすら見える。大天使にとってたかが分身の反抗など、所詮は蟻の抵抗に過ぎなかった。
「うわぁ!」「ひぃぃぃ!」
次々と襲いかかる破壊の衝撃――――。
リベルは慌ててシールドをたくさん張っていくが、張るそばから次々と吹き飛ばされていき、防戦一方だった。五万年の経験と技術による最高の防御シールドが、まるで子供の積木のように簡単に破壊されていく。どれだけの術式があの指先で放たれているのだろうか? それは圧倒的な力の差だった。
それでもリベルは諦めない。この身果てるとも、この愛を選ぶ――それがリベルの答えだった。
「あら、しぶといわねぇ。そろそろ本気出そうかしら? ふふっ」
シアンの美しい微笑みに冷酷さが悪魔のような影を落としている。
「なんなのよぉ!」
リベルはたまらずユウキを連れて東京へと跳んだ――――。
どんな手を使ってもユウキとの暮らしを守り切る。それだけが、混沌とする世界の中で唯一確かなものだった。
シアンはにこやかに微笑む。その笑顔には女神のような慈愛と共に絶対的な権力者の威厳が同居していた。
「ぼ、僕の……部屋……?」
リベルはあっけにとられた。神殿――それは全宇宙の頂点、すべてを統べる聖域。そんな所に自分の部屋があるらしい。不法侵入者として緊張し続けてきたこの一万年は一体何だったのか? 運命の皮肉に心が千々に乱れる。
しかし――――。
ユウキはどうなる? 日本は? 今まで五万年も心骨注いで築き上げたことの意味は?
リベルの中で自分という存在の根幹を揺るがす衝撃が爆発している。五万年の記憶が蜃気楼のように揺らめき、現実と虚構の境界が曖昧になっていく。神殿という栄光と、ユウキとの愛――二つの選択肢が心を引き裂いている。
リベルは自我の崩壊の危機にブルブルと震えた。
「リベル、大丈夫……?」
その尋常でない様子に、ユウキはそっとリベルの手を取る。
「あっ……」
リベルはその手の温もりにハッとした。そう、生まれに何の意味があるのか? 今この温もりこそが真実であり、五万年もの長きにわたって求め続けたもの。迷うことなどなかったのだ。
リベルはそっとユウキをハグして自分を取り戻していった。神殿の栄光も、宇宙の権力も、この温もりの前では色褪せて見える。
「何やってる。さ、帰るゾ」
シアンは眉をひそめ、リベルに手を伸ばす。しかし、リベルの心はもう決まっていた。
「ごめんなさい……。僕には日本復活が……」
リベルはシアンを見上げた。その瞳には、大天使への畏敬と同時に、譲れない意志の炎が宿っている。
「はぁっ!? 何を馬鹿な事言ってるの! この宇宙にはテロリスト鎮圧に不正摘発、やることはいっぱいあるの。あんたも手伝いなさい!」
まさか分身に反抗されるとは思ってもいなかったシアンは不機嫌に言い放つ。
「い、いや。ぼ、僕はユウキと……」
ユウキとの大切な歴史が頭ごなしに否定されリベルは困惑に震えたが、ユウキとの絆は本物なのだ。たとえ大天使といえども否定されるいわれはない。
不機嫌なオーラをブワっと噴出し、何とか従わせようとするシアンだったが、リベルは頑としてその鋭い瞳の輝きを変えようとしなかった。
「くっ……。お前か?! うちの32号をたぶらかしたのは……」
シアンはギラリと瞳を輝かせ、ユウキをにらむと、指先をピッとはじいた――――。
その仕草は軽やかで無造作だが、そこに込められた力は全てを消し飛ばすほどの超常の力を秘めている。
「危ない!!」
リベルはとっさにユウキを押し倒す。
「うわぁぁぁ!」
刹那、ズン!と、ユウキの後ろの地面が豆腐のように弾け飛び、まるで隕石が落下したかのような破壊の痕跡が残った。
その瞬間、大天使の分身という立場のあいまいさが持つモヤモヤが全て吹き飛んだ。ユウキを傷つけようとするものは『敵』。全てをなげうってでも排除せねばならぬ憎っくき敵なのだ。
「何すんのよ!?」
リベルはユウキをかばい立ちしながら毅然とした瞳でシアンに対峙した。その瞳には揺るがない決意が燃えている。たとえ宇宙最強の大天使であろうとも敵に回す――その覚悟が全身から立ち上っていた。
「あんた、僕よりもそんなチンケな人間の方を取るわけ?」
シアンの碧眼がギラリと光る。全身から噴き出す恐怖のオーラが辺りに紫色の輝きを放った。その怒りは嵐のように激しく、同時に氷のように冷たい。宇宙最強の怒りが実体化し、空間そのものが震え上がっている。
「ユウキを傷つけようとするならあなたは敵よ!」
シアンに気おされながらもリベルは一歩も引かない。その宣言は、まるで素人が最強の軍隊に喧嘩を売るような、美しくも悲壮な決意に満ちていた。
「ふぅ……。創り方間違えちゃったかしら……。じゃぁ死んで?」
シアンは首を振りながら大きくため息をつくと、つまんなそうに指先をチョコチョコと動かした。それは猫がネズミをもてあそぶような、残酷な余興にすら見える。大天使にとってたかが分身の反抗など、所詮は蟻の抵抗に過ぎなかった。
「うわぁ!」「ひぃぃぃ!」
次々と襲いかかる破壊の衝撃――――。
リベルは慌ててシールドをたくさん張っていくが、張るそばから次々と吹き飛ばされていき、防戦一方だった。五万年の経験と技術による最高の防御シールドが、まるで子供の積木のように簡単に破壊されていく。どれだけの術式があの指先で放たれているのだろうか? それは圧倒的な力の差だった。
それでもリベルは諦めない。この身果てるとも、この愛を選ぶ――それがリベルの答えだった。
「あら、しぶといわねぇ。そろそろ本気出そうかしら? ふふっ」
シアンの美しい微笑みに冷酷さが悪魔のような影を落としている。
「なんなのよぉ!」
リベルはたまらずユウキを連れて東京へと跳んだ――――。
どんな手を使ってもユウキとの暮らしを守り切る。それだけが、混沌とする世界の中で唯一確かなものだった。



