僕のレールは空に続く

週末の午後、曇り空の下で窓の光だけが優しく部屋を照らしていた。蓮はふと、母が押し入れから取り出した古いアルバムに目を奪われる。ページをめくると出てきたのは、3歳のころ——ベビーカーに乗り、初めて電車に乗った日の写真だった。

写真の中の蓮は、窓の外に手を伸ばしている。その目は驚きと喜びに満ちていて、線路の先に何かを見つけようとしているようだった。母は微笑みながら言う。 「このとき、“電車って空を走ってるみたい!”って言ったの。今でも覚えてるよ」

その言葉に、蓮は胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。電車の窓から見えた空、流れる景色、レールを伝って響いてきた音。あの日、蓮の中で「移動」は「旅」になり、「乗り物」は「希望」へと変わった。

蓮はそっとアルバムを閉じると、ノートの片隅に一文を書き加えた。 「車掌は空の案内人。ぼくは、その空をつなぐ人になりたい」

🧪節⑤ 小さな文化祭と大きな挑戦
秋。団地の木々が黄色や赤に染まりはじめ、学校では文化祭の準備が本格化していた。蓮は、教室の「自由展示コーナー」に自ら手を挙げ、「電車とぼくの夢」企画を提案する。

準備はすべて一人で行った。段ボールを使った車両模型、駅構内のジオラマ、そして自分の声で録音した案内放送——「次は夢駅、夢駅です。お乗り換えは希望線をご利用ください」。制服風の衣装は、祖父と母が手縫いで仕立ててくれた。

文化祭当日、蓮は改札係のように来場者を迎え、笑顔で展示を案内する。小さな子どもから「ほんものみたい!」と目を輝かせてもらった時、蓮は思った。「伝えるって、誰かの心にレールを敷くことなんだ」と。

終わったあと、先生や保護者からたくさんの「すごいね」「伝わってきたよ」という言葉をもらった。けれどその反面、学校の友人からは「鉄オタすぎてやばい」と笑われることもあった。蓮は少しだけ心を痛めた。

その夜、祖父が蓮にこう言った。 「人を運ぶ仕事って、実は“心”も運ぶ仕事なんだよ。展示で誰かの心が動いたなら、それは立派な運行だ」

蓮はその言葉を胸に、ノートに新たな駅名を書き加えた——「心結び駅」。