高校2年の春。進路希望調査票が配られた。蓮は白紙のまま、ペンを持ったまま数分、視線を宙に泳がせていた。

周囲の友人は「大学行って、公務員かな」「とりあえず経済学部」と話している。蓮は“鉄道業界”“専門学校”と書きかけて、ふと手を止めた。——「夢って、昔の自分のものじゃないのか?」そんな疑念が胸をかすめた。

放課後、進路室で鉄道会社のパンフレットを手に取るが、そこに並ぶ採用条件や業務の専門性に、蓮は言葉を失う。自分の「好き」だけでは辿りつけない距離があるように思えた。

その夜、祖父に相談すると、彼は静かに言った。 「夢は、最初に描いた絵のままじゃなくていい。線を描き足して、消して、繋ぎ直していいんだ。それでも止まらないなら——それはきっと“進行中”だよ」

蓮は翌朝、進路希望調査票の「将来の職業欄」に、迷いながらも“交通案内の仕事”と書き込んだ。