「俺、森下さんにお礼が言いたくて」
「お礼?」
「森下さん、図書室に居残ったとき、学園ミステリシリーズの最新刊の情報をくれたでしょ?」
「えっ、ええ」
当時、そのシリーズは五巻まで出ていた。
続きが気になっていたが、刊行が二年近く空いていた。
著者のSNSなどを調べると、六巻の刊行予定に辿り着いた。
それで行成に伝えたのだ。来年の春に続刊が出ると。
「あれでね、救われたんだ。つらいことばかりだけど、春に楽しみができた、って」
「……!」
「両親が離婚するだけでショックだったのに、東京を離れなきゃ行けなくて、進学先も替えなきゃいけなくてドン底だったからさ」
「そっか、よかった……」
何気ない情報だったが、これほど喜んでもらえていたとは知らなかった。
「森下さん」
行成の真剣な眼差しにドキッとする。
「本当は俺、あのとき森下さんに付き合ってほしい、って言いたかったんだ」
「え……」
美哉は驚きで声も出なかった。
「でも、春には北海道に引っ越すし、いろんなことがしんどくてとても言えなかった」
行成が悲しげにうつむく。
「今は札幌や大学にも慣れてきて、母も落ち着いて働き出して――ようやく自分の気持ちがはっきりしたんだ」
顔を上げた行成は晴れやかな表情をしていた。
「そんな時に同窓会、って聞いて飛びついたよ」
(私も……私もだよ)
そう言いたいのに声が出ない。
「……森下さんは今、付き合ってる人っている?」
「いないよ!」
「よかった……。森下さん、可愛いから大学に入っていい出会いがあったかもしれないなあって思ってたから……」
行成が胸をなで下ろす。
「遠距離になっちゃうけど、あの時みたいに後悔したくないから……」
切れ長の目にまっすぐ見つめられ、息が止まる。
「俺と付き合ってください」
これは夢なのだろうか、と美哉は硬直した。
あまりに現実味がない。
深夜の六本木の映画館で行成から告白されるなんて。
(これ、なんて映画? って思ってしまう……)
嬉しくてたまらないのに、まだ実感がわかない。
「あ、あの、私のどこがいいの……? あ、ほら、早瀬くんはかっこよくて、でも私なんかフツーで……」
口から飛び出したのは、情けない卑下の言葉だった。
だが、それが本音だ。
「森下さんは可愛いよ」
照れくさいのか、伏し目がちになりながらも行成はハッキリと口にした。
「それに、森下さんは俺を知ろうとしてくれたでしょ? 俺が面白い、って言った本を読んでくれたりしてさ」
「あ、ああ、それはだって……早瀬くんと仲良くなりたくて」
鏡を見なくてもわかるくらい、顔が赤くなる。
「それが嬉しかったんだよ。告白してきてくれた子もいたけど、本について話してくれたのは森下さんだけ」
行成がやわらかそうな髪をかき上げる。
「それで気になって……一緒に図書委員になったときはすごく嬉しくて……」
「わ、私も!」
美哉はぎゅっと手を握った。
「私、ずっと早瀬くんのことが好きだったの。もっと話したいし、そばにいたい」
「それはOKってこと?」
「うん!」
「よかった……」
行成が心底安心したように息を吐いた。
「めっちゃドキドキしてた……」
「そんなおおげさな」
「いや、ほんと」
行成がにこっと微笑んでくる。
「遠距離だけど……飛行機だと三時間だし、何なら毎月来られるよ!」
前のめりな言葉に、美哉は思わず笑ってしまった。
「本気なんだけど……」
行成が少し傷ついたような表情になる。
「ごめんなさい。だって、行き来が大変だし、それにお金だって……」
「お礼?」
「森下さん、図書室に居残ったとき、学園ミステリシリーズの最新刊の情報をくれたでしょ?」
「えっ、ええ」
当時、そのシリーズは五巻まで出ていた。
続きが気になっていたが、刊行が二年近く空いていた。
著者のSNSなどを調べると、六巻の刊行予定に辿り着いた。
それで行成に伝えたのだ。来年の春に続刊が出ると。
「あれでね、救われたんだ。つらいことばかりだけど、春に楽しみができた、って」
「……!」
「両親が離婚するだけでショックだったのに、東京を離れなきゃ行けなくて、進学先も替えなきゃいけなくてドン底だったからさ」
「そっか、よかった……」
何気ない情報だったが、これほど喜んでもらえていたとは知らなかった。
「森下さん」
行成の真剣な眼差しにドキッとする。
「本当は俺、あのとき森下さんに付き合ってほしい、って言いたかったんだ」
「え……」
美哉は驚きで声も出なかった。
「でも、春には北海道に引っ越すし、いろんなことがしんどくてとても言えなかった」
行成が悲しげにうつむく。
「今は札幌や大学にも慣れてきて、母も落ち着いて働き出して――ようやく自分の気持ちがはっきりしたんだ」
顔を上げた行成は晴れやかな表情をしていた。
「そんな時に同窓会、って聞いて飛びついたよ」
(私も……私もだよ)
そう言いたいのに声が出ない。
「……森下さんは今、付き合ってる人っている?」
「いないよ!」
「よかった……。森下さん、可愛いから大学に入っていい出会いがあったかもしれないなあって思ってたから……」
行成が胸をなで下ろす。
「遠距離になっちゃうけど、あの時みたいに後悔したくないから……」
切れ長の目にまっすぐ見つめられ、息が止まる。
「俺と付き合ってください」
これは夢なのだろうか、と美哉は硬直した。
あまりに現実味がない。
深夜の六本木の映画館で行成から告白されるなんて。
(これ、なんて映画? って思ってしまう……)
嬉しくてたまらないのに、まだ実感がわかない。
「あ、あの、私のどこがいいの……? あ、ほら、早瀬くんはかっこよくて、でも私なんかフツーで……」
口から飛び出したのは、情けない卑下の言葉だった。
だが、それが本音だ。
「森下さんは可愛いよ」
照れくさいのか、伏し目がちになりながらも行成はハッキリと口にした。
「それに、森下さんは俺を知ろうとしてくれたでしょ? 俺が面白い、って言った本を読んでくれたりしてさ」
「あ、ああ、それはだって……早瀬くんと仲良くなりたくて」
鏡を見なくてもわかるくらい、顔が赤くなる。
「それが嬉しかったんだよ。告白してきてくれた子もいたけど、本について話してくれたのは森下さんだけ」
行成がやわらかそうな髪をかき上げる。
「それで気になって……一緒に図書委員になったときはすごく嬉しくて……」
「わ、私も!」
美哉はぎゅっと手を握った。
「私、ずっと早瀬くんのことが好きだったの。もっと話したいし、そばにいたい」
「それはOKってこと?」
「うん!」
「よかった……」
行成が心底安心したように息を吐いた。
「めっちゃドキドキしてた……」
「そんなおおげさな」
「いや、ほんと」
行成がにこっと微笑んでくる。
「遠距離だけど……飛行機だと三時間だし、何なら毎月来られるよ!」
前のめりな言葉に、美哉は思わず笑ってしまった。
「本気なんだけど……」
行成が少し傷ついたような表情になる。
「ごめんなさい。だって、行き来が大変だし、それにお金だって……」



