行成(ゆきなり)が思いきったように口を開いた。

「こんな話、興味ないかもしれないけど……当時、両親が離婚する寸前だったんだ」
「……!」

 行成が切なげな表情になる。

「それで、大学の受験を東京から変更するかもしれなくなって……。離婚したら母は故郷の北海道に帰るって言ってたから」
「お母さんの故郷……それで北海道なんだ」
「そう。父は会社があるから東京に残るんだけど、母についていくとしたら北海道の大学になる」
「そんなことが……」

「俺は東京に残りたかったけど、母のことが心配で……。結局、北海道の大学を受験した」
「そうだったんだ……」
「あの頃、親の離婚と受験のことで頭がぐちゃぐちゃで……」
「つらかったよね」

 全然知らなかった。
 彼はいつも穏やかそうに微笑んでいたから。

「図書室で本の話をしていたことを覚えてる?」
「う、うん」

 顔が赤らむ。
 少しでも近づきたくて、彼が読んでいた本を真似して読んでみたのだ。

「あの学園探偵シリーズでしょう?」

 行成が好んで読んでいたのは、学園ミステリの人気シリーズだ。
 文芸部の先輩と後輩のコンビが学校や町で起こる事件の謎を解いていく。

(あんな学園生活を送れたら楽しいだろうな、って思ったなあ……)

 思い切って(つたな)い感想を伝えたことを覚えている。
 今思い出しても必死すぎて顔から火が出そうだ。

「嬉しかったなあ。周りで本を読んでる人ってあんまりいなくて。あのシリーズの話を誰かとできるなんて思わなかったから」

 懐かしそうな行成の表情に、勇気を出してよかったのかもしれないと密かに思った。

「あのシリーズの一作目が映画になったの知ってる?」
「う、うん」

 実は美哉も気になっていた。
 実写映画化になって今ちょうど公開中のはずだ。

「今から一緒に行かない?」
「えっ!」